5月号
Crocotta①
2024年米国、アリゾナ州ー。
著しく水分を失った地面。
少し埃っぽいが小石なども殆どなく、驚くほど整地されている。
また白い皮膜に覆われた翼たちが等間隔に並んでいる様は、壮観である。
荒涼としたこの大地は「航空機の墓場」として知られ、錆を嫌う精密機器群の保管に最適であった。
この戦時下にあっても、余剰となった機体たちが600機あまりモスボール、再び活躍する機会を待っている。
月明かりがそれらを照らす中、その日その時間帯では、ある一角だけ照明に照らし出された場所があるのだった。
留置された回転翼機同士の間に、転がる肢体。
四方を取り囲む青いシートと人影。
頭部があるはずの部分はぽっかりと空き、鎖骨の辺りから半円状に抉り取られたその断面からは一滴も体液が漏れていない。
「科学捜査班の検証は全て完了している。あとはミシュラン、頼むぞ」
遺体を囲むうちの一人、グレミー特別捜査官は赤い潮溜まりが出来たシャーレを横にいる痩身の男の前へ差し出した。
「ウィ、ムッシュ...」
ミシュランと呼ばれたその男は、軽く頷きながら手袋を外すと体液を人差し指で掬いとり、それを舌で絡めとって口に含むと、口腔内に空気を含ませつつ静かに嚥下した。
少し俯きながら、しばし眉間に皺を寄せ身体を揺らす。
そうして張り巡らされたシートの内側を、早歩きし始めた。
「うーん...うーん恐怖、焦燥...」
こめかみを軽く指先で叩きながら唸り、ボソボソとなにやら唱えている。
「...これは安堵?」
ミシュランはそう呟くと
立ち止まるやグレミーの方に向き直った。
「足りないなぁアクセントが...」
「ん?どうした」
そう言う彼の鼻に唐突に血漿の付いた指を塗りつける。
刹那己にされた事を理解すると、鼻頭に血紅を咲かせた道化師グレミーは当然激昂した。
「なっ!?何をする貴様ァ!!」
声をあげると同時に、周りの捜査官たちは素早く腰に手を回す。
ミシュランはそんな捜査官達をよそに、再度指を2.3度しゃぶっていた。
「んん〜やっぱりそうだぁ...君の汗、そしてこの
手を月へ掲げ、てらてらと光る指先を恍惚としながら見つめる
狂人に対して常識を求める方が間違っているのか。それを悟ったグレミーは呆れ顔で
「糞がッ...狂ってる...」
とだけ言うと他の捜査官達へ満面の笑みを浮かべ手を振りながら、鼻を拭った。
それから10年後...物語はさらに動き始める。
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