第3話 思い出の君②
佐保姫の 霞の衣 ぬきをうすみ 花の錦を たちやかさねむ
雪白の髪の彼はうたを口ずさんで、そっと桜色の布に触れた。細やかな透かしの織紋様。桜の花びらが布一面に舞っているのが、指先の感覚で分かる。
軽いのに、不思議と温かい。春の陽気をまとったような、柔らかな感触。
『
ここ数年で遥か東の島国の昔話が世間に流布するとともに、この織物の需要は瞬く間に広がった。
「『霞の君』が流行りものに興味を持つだなんて、珍しいこともあるんだな」
雪白の彼に声を掛けたのは、彼よりも幾分か年上の男装の麗人だ。ひとくくりにされた髪は黒々として、たおやかだ。
「その呼び方はやめてください。……そろそろ、都に呼び寄せてもいい頃でしょうか」
「お前が田舎で唾をつけた女の子だっけ。そろそろ回収しないと他の奴に先を越されちゃいそうだしね。連れておいで」
「下品です。眼をかけていると言ってください」
霞の君、と呼ばれた彼は苛立ちを隠すことなく言葉を返すと、布をもうひと撫でした。
薄墨色の髪をした、幼い布の織り手に思いを馳せた。
「少し頼みがあるんだが」
そうして『霞の君』と呼ばれた彼は、傍に控える武官に耳打ちをした。
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