第33話「決着……?」

ガチャン、と重たいものが落下した音が響く。

同時に俺の手の中で、燃え尽きた木剣の柄が黒炭になって崩れた。


「……は?」


数拍開けて、ユスティが目を開いた。

何が起きたか分からない、といった顔で俺の方を見ている。


解放群リベレイター隊長、騎士ゴブリンのユスティ。この勝負、俺の勝ちだ」

「お前……俺を斬ったんじゃ……」

「いや、斬るのは鎧だけで良かったからな。直撃しないよう、ちょっと間を開けさせてもらった」


刀身が相手の身体に当たらないよう、隙間を空けたり角度を付けることで、正面から斬られているように見せる。殺陣の魅せ方の一つだ。

それを応用して、直撃せずとも鎧だけを切断できるようにした。ぶっつけ本番だったから、鎧のフィードバックがなかったら成功する確率は低かったかもしれない。


「ハ……ハハハ……腰抜けめ! やはり貴様に、俺を殺す度胸は……!」

「ない。けど、お前が言ったんだろ? これが俺なりの礼儀であり、誠意だ」

「ッ……!」


ユスティはハッと目を見開く。

ダブスタ野郎とはいえ、最初に自分が言った言葉までは忘れちゃいないようだ。


「お前は最低のクソ野郎だし、お前のやったことを俺は許さない。ぶっちゃけ、俺たちの誠意を踏みにじったお前に、情けなんかかけたくもない」

「なら斬ればいいだろ!」

「そうはいかない。魔族にも人権があり、お前は人と魔族の平等を提唱した。なら、お前には人間と同じよう裁かれるべきだろ?」

「なんだと……?」

「ブルー」

「あいよ」


俺が呼んだ直後、ユスティの身体が足下から凍り始める。


「あ、おい、テメェ! 勝負はまだ……」

「決闘は俺の勝ちだ。お前も、お前の部下も全員、牢獄の中で悔い改めるといい」

「死んで勝ち逃げなんてさせてやんね~よ、タ~コ」


既に他の騎士ゴブリンたちも武装を解除され、首から下を凍らされている。

もう、これ以上の抵抗は出来ないだろう。


「ありがとうブルー。タイミング、完璧だったよ」

「ハッ、俺だって空気くらい読めらぁ。ま、結果的に吠え面かかせてやれたし、文句はねぇよ」


相変わらずツンケンしてるなぁ。でも、この短い間に随分呼吸が合うようにはなった気がする。多分。


『見事な手腕だった。まさか、殺さずに決着を付けるとはな』

「グレン、やけに静かじゃなかったか?」

『頼られれば助言くらいはした。だが、貴様らは殆ど自分たちの力で勝ったからな。やはり、頭数が揃った人間は強いな』


腕輪の相棒も褒めてくれているみたいだ。これでようやく一区切り、ってところかな。


『そういえば貴様、戦闘中から敬語が抜けていたが……』

「え? ……あ、いや、決してグレンを軽んじていたワケではなくてですね!?」

『いや、いい。貴様が我に敬意を払っているのは感じている。我が友として戦うならば、無理に敬語で語るでない』

「アッハイ……どうもデス……」


あっっっぶねぇ……首が飛ぶかと思った。

仮にも守護神。口の利き方には気をつけないと。


でも認めてくれたってことは、これからはタメ口OKってことか。

うわ~~~お約束イベントっぽい! 


さて、あとはあのデカブツ……もといギガンテスをなんとかしないとな。

しかし、決闘中に動かそうとしなかった辺り、コントロールに難があったりするんだろうか?


あいつらの卑劣っぷりから見ても、使わない手はなかったはずだもんな。

まあ、おかげで決闘に集中できたからいいけど……。


「な、舐めるな……よ……」

「「ッ!?」」


背後からの声に、俺たちは咄嗟に構えて振り返る。

そこには、何かバトンのようなものを握るユスティの姿があった。


どうやら完全に凍っているのは下半身だけで、凍りかけの上半身はまだ動かせる状態らしい。


「アイツなんでまだ凍ってないんだよ!?」

「あ……もしかして、俺の斬撃から出た熱気が凍結を遅らせてた……とか?」

「ッ……!! ちゃんマオに水ぶっかけてもらうべきだったか!!」

「もう遅い! 起動せよ、キャノン・ギガンテス!!」


既に霜が付き始めた親指で、バトンの先端にあるスイッチが押される。

すると、先ほどまで棒立ちで佇んでいたギガンテスの目に、赤く光が灯った。


「グゴ……」


ギガンテスはゆっくりこちらへと顔を向ける。

そして大きな地響きを立て、一歩を踏み出した。


「グゴォォォォォォ!!」

「オイオイオイオイ!? あいつ、こっち来るぞ!?」

「た、待避! 逃げるぞ!」


あんなデカいの、相手できるかぁ!?

俺と槍木はギガンテスに背を向け、大慌てで逃げ出そうとして……。


「フハハハ! 行け、ギガンテス! 奴らをまとめて踏み潰し、俺に勝利をもたらs……」


ズシン、と踏み込んだ足がユスティを踏み潰した。


「……え?」


今……何が起きた?

ユスティのやつ、今……あの巨人の足で……?


「「「「た、隊長おおおおおお!!」」」」


拘束されたゴブリンたちが絶叫する。

どういうことだ!? いったい何が起きてるんだよ!?


「ま、まずい! 完全に暴走しちまってる!」

「暴走? どういうことなの!?」

「ギガンテスは完成したばっかで、制御装置も試作品なんだよ!」

「だから、使うなら脅すだけにしろって上から言われてたんだ!」


弓宮さんが詰め寄ると、ゴブリンたちはペラペラと口を開いた。


「制御できてないモンを脅しのためだけに持ってきたのかよ!?」

「うっわ最悪……。銃は脅しの道具じゃないって言葉、知らないの?」

「俺たちだって止めたよ!でも聞いてくれなくて……」


槍木と真魚ちゃんの言うとおりだ。

こんな危険なものを大事な作戦に持ち込むなんて……安全管理どうなってんだ!?


「とにかくアレを止めないと! このままじゃ街が滅茶苦茶にされちゃいます!」

「でもあんな大っきいの、どうすればいいの!?」

「昨日のガイコツ幽霊よりもデカいぞ……勝てんのか!?」

「それに、ゴブリンさんたちも避難させなければなりません!」

「何か手は……」


目測でもおよそ40メートルはある。おそらく、今の俺たちの武器で勝てる相手じゃないだろう。

そもそも戦隊でも、等身大のまま巨大化した怪人を倒した前例はあるにはある。が、それは巨大化した怪人を倒せるほどの強力な武器があったからだ。


「こんな時、巨大戦力でもあれば……」


思わず呟いたその時だった。


『タツヤ、腕輪に触れろ。詠唱と共に我が名を叫び、その腕を突き上げろ!』

「グレン……?」

『貴様らが示した闘志と覚悟に、次は我らが応える番だ』


もしかしてこれ……そういうことか?


『コトハ、ここからはあたしらの役目さ』

『僕たちの出番ってワケだね』

『マオ、唱えるのです』

『天聖召喚、ってな!』


他の皆も自分の腕輪を見て、互いに顔を見合わせる。


「皆、これが最後だ! もう一踏ん張り行くぞ!」

「「「「了解!」」」」


声を揃えて腕輪に触れると、俺たちは左腕を蒼天高く突き上げた。


「「「「「天聖召喚!」」」」」

「来い、グレン!」

「頼みます、ハヤテ!」

「行け、ヒョウガ!」

「よろしく、ミーナ!」

「任せた、ロック!」


次の瞬間、腕輪から五つの光が迸り、光の柱が立ち上る。

光柱の中に白いシルエットが浮かび上がり、やがてそれは像を結んで実体を得た。


そして光が弾けると、そこには――


雄々しくも美しい、5体の巨大な聖獣が顕現していた。


炎がごとき紅蓮の鱗に身を包んだ飛竜。

陽光を反射し七色に輝く翡翠色の尾羽を持つ不死鳥。

紺碧のたてがみに氷柱のような角を持つ一角獣。

真珠のような鱗とヒレを持つ大海蛇。

そして、巌山のような体躯を誇る山吹色の巨牛。


守護神として祀られてきた伝説の天聖獣が今、この時代によみがえった。

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