第26話「決闘を受ける?それとも……」

「よし、着地成功!」

「なんだその腰にキそうなポーズ」

「ヒーローと言えばこの着地ポーズなんだよ」

「そうなの?」

「あー……洋画でよく見るやつですね」

「かっこいい……のかしら?」


あの高さから降りてスーパーヒーロー着地しても何ともない。

この鎧、身体能力を強化してくれるだけじゃなくて、衝撃も吸収してくれてるみたいだ。


「隊長、奴らが……」

「ええ。あの彩り鮮やかな鎧姿、間違いなく……」


5人横並びでしばらく進むと、城門前に展開した魔王軍が見えてきた。

鎧を着込んだ人型の兵士達の他に、サイボーグ化された狼や猪なんかが沢山いる。後方にはギガンテスが佇んでいるが、直立したまま全く動かない。どうやら制御されているようだ。


「俺たちと決闘したいってのは、アンタらか?」

「お初にお目にかかります。私はこの部隊を率いる部隊長、ユスティ。我々との決闘、受けてくれると見てよろしいでしょうか」


隊長らしき男が一歩前に出る。

ユスティと名乗ったその男は、とても体格がいい。身長も俺より高いし、鎧姿とはいえがっしりしているのは分かる。

丁寧な言葉遣いだけど、その表情は兜のバイザーに遮られて窺えなかった。


「あんなデカブツで脅しといて何言ってやがる。断らせる気なんてハナからねぇだろ」

「いえいえ、ギガンテスはあくまで保険ですとも。私が求めているのは、あなたたち勇者との決闘による決着ですが故に」

「ブルー、今は抑えてくれ。まずは話し合いだ」

「チッ……勝手にしやがれ」


槍木は舌打ちしながら身を引いた。


気持ちは分かる。保険にしては過剰戦力だろ、巨人アレ

それに破壊された街を見た直後なんだ。俺も心穏やかじゃいられない。


でも、こうしてわざわざ話し合いの席を設けてくれたんだ。あまり無下にはしたくない。すぐ暴力に訴えるのは、ヒーローのすることじゃないからな。


「どうしてわざわざ決闘で?」

「先程も申しました通り、無益な殺しはしない事が我々の信条でありますが故に」

「魔王軍の目的は侵略だと聞いている。それに、俺たちが応じなければこの国を攻撃するつもりなんだろう? それとも、俺たちが勝てば大人しく引き下がるとでも言うのか?」

「我々はあくまで平和的解決を望んでいるのです。それとも、私のような魔族の言葉は信用ならないという事でしょうか?」


そう言うと、ユスティは兜を外して顔を見せた。

その顔は、先程靴屋で見た顔と同じ、緑色だった。


「ゴブリン……」

「あなた方も見ましたか? この国には、未だに魔族への差別が残っている。我々ゴブリンを始めとする魔族に人権が認められて75年も経ったというのにです」


魔族差別。その言葉に、俺はシューマンさんの店から出てきた柄の悪い客を思い出した。


「魔王に与する身ではありますが、我ら解放群リベレイターが掲げる御旗は『人魔平等』。私が魔王軍に着いたのは、虐げられる全ての魔族を救うためなのです」

「……でも、だからって街に火を放つのは間違っているはずだ。この国の全ての人たちが、魔族を嫌っているわけじゃない」

「仰る通りだ。だからこそ我々と貴方がた5人、堂々と決闘して終わらせましょう。そう提案しているのですよ」


恭しく、しっかりと頭を下げるユスティ。それはとても綺麗なお辞儀だった。


「分かっていただきたい。これは私なりの礼儀であり、誠意であり、正義なのです」

「正義……」


少しだけ、考える。この提案をどう受けるかを。


彼らの言い分は、確かに筋が通っているように思える。だが、彼ら魔王軍が行った非道は、決して目を瞑っていいものではない。

それに、槍木や真魚ちゃんの言ってた通り罠の可能性もある。簡単に信用してはいけないはずだ。


迫られる決断。迷う心。

たったの数秒が数時間にも感じられるほどの緊張。やがて、俺は答えを口にする。


「分かった。その勝負、受けよう」

「感謝いたします。勇者殿」


そう言ってユスティは顔を上げ、静かに微笑んだ。


「おいヒーローバカ、なに馬鹿正直にOKしてんだよ!?」

「向こうにイニシアチブ握られちゃうよ?」


忠告してくれた二人から猛抗議を受ける。

当然だ。二人の忠告を無下にするような答えなのだから。でも……。


「どう考えても断れる雰囲気じゃないだろ」

「アイツら敵だろうが!街焼いたのも知ってんだろ!話なんか聞く必要もねぇ、あのデカブツごと全員ブン殴って終わりにすればいいじゃねぇか!」

「そんなやり方、魔王軍と変わらない」

「ッ……!それは……」


俺の返しに、槍木は黙り込む。


「あの焼け跡は、魔王軍が話し合いより先に暴力に訴えた証だ。だからこそ、俺たちはそれじゃダメなんだ」

「……」

「それに、もしも罠なら、踏み越えていけば良い。そこにあるのが分かりきってる罠なんて、罠じゃないさ」

「お前、そんな簡単に……」

「それでも、俺の選択が間違いだったときは、ちょっと手を貸してほしい。その後なら殴られても文句は言わない。ただ、今はこれが俺にとっての正しさなんだ」


槍木の、そして皆の顔を真っ直ぐに見据えて、俺は宣言する。

我が儘でしかないかもしれないけど、これだけは譲れない。

だってそれが、俺の目指したヒーローの在り方なのだから。


「……俺は、いいですよ」


最初に口を開いたのは義彦くんだった。


「俺の武器、盾ですし。何かあったら俺が守ります。……守り切れるかは、自信ないですけど」

「ちょっとイエロー、そこは自信持とうよ~。盾持ちは君だけなんだからさ」

「は、はい!」

「でも……そうだよね。向こうがどんな罠仕掛けてきても、私が気づいて対策すれば問題ないよね。うん」

「ホワイト、すごい自信だな」

「フフ~ン。だって私、天才だもん」


真魚ちゃんは、得意げに胸を張りながら承諾してくれた。


「私たちに相談もなしに承諾したのはいただけませんが……他に案はありませんし、どちらにせよこうなったのでしょう」

「グリーン、怒ってる?」

「勝手にあれこれ決められるのは、私が最も嫌う事ですので。ですが……レッドの語る“正しさ”を、私は否定しません。自分の選択に責任を取ろうとするのは、立派な事ですわ」


マスク越しだけど、弓宮さんは微笑んでくれている気がした。


「……ハァ~~~~~ったく、しゃーねぇなぁ。そこまで言うなら付き合ってやるよ」

「ブルー、本当か?」

「ここで断ったら俺が悪役みたいになるだろうが! ……ま、しくじったら骨くらいは拾ってやるよ」

「そりゃあどうも」


クソデカため息をつきながらも、槍木も乗っかってくれるようだ。


どうやら俺は、良い仲間に恵まれたらしい。

このメンバーならきっと、魔王軍にも負けはしないだろう。


「お話は済みましたか?」

「ああ! ユスティ将軍、俺たちはいつでも受けて立つぜ!」

「よろしい。では、始めましょうか」


そう言うと、俺たちはユスティたちと正面から向かい合った。

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