第25話「変身って、どうやるんだっけ?」

『リュコス王国の全ての人間たちに告ぐ。我々は魔王軍所属、“解放群リベレイター”である!』


街中に響く勧告。それは王都城門前に展開された部隊の最前列に立つ指揮官が持つ、拡声器のような道具から発されていた。


王都の上空には、長方形のスクリーンのように切り取られた風景が浮かんでいる。

城門を外から見たような構図の風景には、全身を金属製の鎧に身を包んだ巨人が、城門の手前に立っている姿が映し出されていた。


レイアさんの口利きで、俺たちは城壁を登り、歩廊を通って城門近くまで辿り着く。


「勇者様たちをお連れしました!状況は?」

「はっ。先程、魔法陣と共に敵軍が城門前に出現。城門に砲撃を行ってきました」


望遠鏡で敵の様子を窺っていた兵士が、敬礼と共に報告する。

城壁から見下ろすと、巨人の頭がすぐそこにあった。


『先程の攻撃は挨拶代わりです。我々が命じれば、このギガンテスは城門を破り、この都市を蹂躙するでしょう!』

「ギガンテスですって!?」

「レイアさん知ってるんですか?」

「大昔に絶滅したとされる巨人族です! それがどうして……。まさか、これも死霊術で……?」


レイアさんの声には、困惑の色が混じっている。

それほどまでに、ギガンテスってのはこの国の常識から外れた存在なのが察せられた。


『しかし、我々の望みは鏖殺ではない。この国が召喚した、勇者との決闘である! 我々との決闘に応じるというのであれば、ギガンテスによる攻撃はしない事を約束しましょう』

「っ! 狙いは俺たちか……」


昨日の死霊王リッチーロードといい、魔王軍は明確に勇者の存在を意識しているらしい。


しかも、その気になれば王都のど真ん中で瘴気を放つだけで国を滅亡させられるであろう戦力を、天聖獣を始末するためだけに潜ませていたほどだ。


つまり、魔王軍……というか魔王にとっては、侵略よりも勇者を倒す方が優先度が高いってことか?


「なんか、決闘とか言ってますけど……?」

「みたいだな」

「ブ男からのご指名とか、全然嬉しくねー……」

「どうせこっちから向かうつもりだったし、好都合じゃない?」

「でもこれ、多分罠だと思うんだよね~……」

「一理あります。無策で突入するのは危険かと」


確かにレイアさんの言うとおりだ。

でも、敵は策を練る猶予を与えてくれないだろう。


『速やかな返答を願いたい。返答がなければ、このキャノン・ギガンテスが再び門を叩くであろう!』

「キャノン・ギガンテス……?」


よく見ると、ギガンテスの右腕は肘から先が大砲になっている。

それだけじゃない。金属製の鎧だと思っていたのは、どうやらギガンテスの身体を補うように装着された義肢のようだった。


「なんか……機械っぽくないか?」

「魔王軍の従える魔獣の中には、身体の一部が機械化された個体がいると報告されています。それらは機獣と呼ばれていますが、おそらくあのギガンテスもその一体なのでしょう」

「サイボーグとか居んのこの世界ィィィ!?」


スマホとかはまあ、分かるよ。俺たちの前の勇者が色々頑張って再現しようとしたものが伝わっているわけだし。

でもサイボーグはこう……なんか……異物感すごくない?


いや、俺がこの世界を知らなすぎるだけかもしれない。元の世界でやってたゲームにも自動人形オートマタとか出てくるし、こういうのもアリ……なのかも……。


「おいレッド、驚いてる場合じゃねぇだろ」

「あ、ああ……すまん」


槍木に言われて、俺は気を取り直す。

そうだ、ボサッとしてる暇はない。策はないけど、俺たちが出ないことにはどうにもならないみたいだしな。


「皆……行くぞ!」

「っしゃあ!」

「ええ!」

「は~い」

「は、はい!」


かけ声は全然揃ってないけど、タイミングはバッチリだ。初期の戦隊の雰囲気ってそういうものだし、これはこれで悪くない。

さて、あとは変身して城門から華麗に飛び降りれば……。


「……そういや、変身ってどうやるんだっけ?」


直後、その場の全員がズッコケた。


「そういえば、教わっていませんでしたね……」

「あの時は勝手に変身させられてたからな……」

「聞くタイミングもなかったもんね~」

「こんな時にコントやってる場合ですか!?」


レイアさんまでため息をついている。

ちくしょう、ここはかっこよく決めたかった……。


『腕輪の宝玉に触れながら、“転身天聖”と叫べ! それが鎧の召喚詠唱だ!』


宝玉の発光と共に、グレンの声が頭に響いた。


「今のって……」

「もしかして、皆の天聖獣も?」

「ああ、たった今聞こえたわ」

「俺もです」

「転身天聖、だよな?」


顔を見合わせると、皆は頷く。

変身コードは漢字4文字か。ファンタジー系のヒーローの王道なワードだ。


「それじゃ改めて……皆、行くぞ!」


腕輪の宝玉に触れ、俺達は同時に叫んだ。


「「「「「転身天聖!!」」」」」


直後、腕輪を中心に光の柱が立ち昇り、身体を包み込む。

腕輪から広がる赤い粒子が首から下を覆っていく。


粒子が弾けると、ボディースーツに重なるように炎が身体に巻き付いていき、竜の鎧を形成していく。

最後に頭部が燃え上がると、金属音と共にマスクが装着される。


光が収まった時、俺たちは変身を終えていた。

そして石畳を蹴って跳躍すると、城壁を飛び降りた。

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