第20話「いざ出立!……何か忘れてない?」

「あ……そういや話聞き忘れてた!」


謁見の間を後にして、いよいよ城門へとやってきた時。

俺は質問し忘れていた事があったのを思い出した。


「龍也さん、どうかした?」

「いや……今朝見たら、霊廟で引き抜いた剣がボロくなってる気がしてさ」


着替えと一緒に与えられた鞘から、鉄剣を引き抜いて皆に見せる。


「ホントだ、ちょっと刃こぼれしてる」

「お前もかよ……」

「気のせいじゃなかったみたいね……」


驚く真魚ちゃん。すると、槍木と弓宮さんも浮かない顔で、自分たちの武器を取り出して見せる。


「うわ、こっちも錆びてる……」

「弦の張りも悪くなってませんか?」

「どうもそうみたい」


どうやら俺だけじゃなったようだ。


朝飯の美味しさと、報酬考えるのに夢中ですっかり忘れてたけど、深刻な問題に発展しかねない気がする。

こういうの誰に聞けば……。


と、左手首の腕輪に目がいった。


「グレン、聞きたい事があるのですが大丈夫でしょうか?」

『タメ口でいい。武器の状態についてだな?』

「おお、話が早いな……」


腕輪の紅玉が発光し、言葉を発する。


『勇者の鎧には、手にした器物に我ら天聖獣の魔力を流し込むことで、我らの力を宿した武器へと作り替える力があるのだ』

「つまり、ただの鉄剣でも伝説の武器になる……って事か?」

『その通りだ。ただの木の棒さえ、我らの力で生まれ変わる』


物質転換とかめちゃくちゃ強いじゃん!

しかも、どんな武器でも握るだけで伝説の武器になるとか、まさにロマンって感じでいい……。


『ただし、武器の強度は器となった器物に依存している。器が脆ければ、我らの魔力に器が耐えきれず自壊する事になるのだ』


なるほど。強力な能力だけど、欠点付きか。


「小さなコップに大量の水を注いでも溢れるだけ、って事だよね?」

『聡いな、白の娘よ』


ん?今、真魚ちゃん会話に入ってきた?


「聞こえてるのか!?」

「うん。ミーナが繋げてくれてるからね」

『ご紹介に与りました、“荒波の白蛇”ことミーナと申します。以後、お見知りおきを』


真魚ちゃんの左腕で、白い宝玉が点滅していた。

おそらく、大蛇の石像だった天聖獣だろう。落ち着いた雰囲気の、中性的な声だった。


「私たちも聞こえてるから、続けて良いわよ」


見れば弓宮さんや義彦くん、槍木さんの腕輪も発光している。

天聖獣のテレパシー、便利すぎだろ……。


『うむ。お前たちの武器、粗悪品ではないが古い物だ。それが死霊王リッチーロードの瘴気で腐食し、そこに我らの力を注いだことで一気に脆くなってしまったのだろう』

「それ……まずくないですか?」

『ああ、まずいな。今の耐久力では、あと大技を1度打てば砕ける』

「そんなに……!?」


つまり必殺技一回で砕けるってことかよ!?


『案ずるな。大技さえ打たなければ、魔獣の20……いや、30体は斬れる』

「それは何を基準にしているんだ?」

『そうだな。市場で売っている一番安物の鉄剣を器にした場合で5体というところだ』


少ないな……。良い武器を器にしないと、長持ちしないってわけか。

でもデメリットとしては当然だろう。それだけ強力な能力なんだからな。


「そういえば、王様が荷物の中に武器も入ってるって言ってなかったっけ?」

「ああ、あれってそういう意味だったんですね」

「ケチ臭い王サマでも、それくらいの準備は出来んだな」

「確認してみようよ!」

「そうね。もしかすると、今の武器を使い続けるよりは良いかもしれないし」


俺たちは背負ったリュックの紐を緩めると、中身を確認した。


リュックの中に手を突っ込むと、意外と奥行きが広く驚かされる。見た目よりもずっと大容量らしい。

指先に剣の柄らしきものの感触が伝わってきた。取り出してみると、それは立派な鞘だった。


皮で出来ており、鐺には光沢がある。見た感じ、高そうな印象だが……。


「何だか安っぽいわね」

「光沢ありすぎ。これ、もしかしてメッキじゃない?」

「俺の槍も、なんか安物をそれらしく塗装したような感じだな」

「俺の盾もです」


皆、何かしら違和感を覚えているらしい。

嫌な予感がした。


「もしかして……これ、全部安物か!?」

『そのようだな……。こんな物、玩具に等しいぞ』


グレンの言葉に、その場の空気がピシッと凍り付いた。


「ってことは俺たち、体よく王宮の在庫一掃処分を押しつけられたってことですか!?」

『そのようですね。この鞄に入った武器の束、どれもこれも安物ばかりのようです』

「どうするんだよ。これでどう戦えっていうんだ!?」

『諦めて新しい武器を探すしかないな』

「うそでしょ……」

「最悪~……」


思わず頭を抱える。リアが王様をクソ親父と呼んでいた理由をこれでもかと痛感した。

いるよな、最低限のコストで最大級の成果を求めて予算をケチるブラック企業の上司……。


「あんのクソジジイ、調子に乗りやがって!」


槍木が、額に青筋を浮かべて飛び出した。

俺は慌てて彼を羽交い締めにする。


「落ち着けブルー! どうするつもりだ!?」

「は・な・せ!! 一発ブン殴ってやる!」

『冷静になるんだソウマ! クソだとしても相手はこの国の王なんだぞ!? 国家反逆の罪に問われる!』

「止めんなヒョウガ! 命懸けてんだぞこっちは!!」


青の天聖獣、おそらくユニコーンであろう若い男の声も、槍木を制止しようと呼びかけている。

しかし、槍木の力は凄まじく、今にも俺の腕を抜け出しそうだ。


このままでは魔王を倒すどころか、俺たち全員、国家反逆罪で処刑、あるいは追放されてしまう!

それだけはなんとか阻止しなければ……!


「お待ちしておりました、勇者様」


そのとき、背後から女性の声がした。


振り返るとそこには、白い修道服にウィンプルをかぶった少女が立っている。

背格好はちょうどリアと同じくらいだろうか?


「いや~、ちょうど今来たとこ~! 待たせちゃってメンゴ~」


って、槍木はいつの間にやら俺の腕を抜けて、修道女にデレデレしていた。


「いいえ。私も先程到着したばかりですので」

「そっか~。名前聞いてもいい? あ、俺は槍木蒼馬。気軽に蒼馬さんって呼んでくれていいぜ?」

「は、はぁ……」


グイグイ迫る槍木に、修道女は引き気味だ。

つい2秒前まで王様にキレてたのに、どんな情緒してやがんだ?


「こら、ブルー? 困らせちゃってるでしょー?」


弓宮さんがニコニコしながら間に入ってきた。

流石の槍木も、弓宮さんに言われると弱いらしく、大人しく引き下がった。


「ごめんなさいね。この人、女の子を見ると口説かずにはいられないらしいの」

「な、なるほど……」

「私、弓宮琴羽。あなたの名前は?」

「私はレイア。旅立つ皆様の案内役を、グレゴリー司祭より仰せつかっております」


レイアと名乗った修道女は、綺麗にペコリとお辞儀した。


「よろしくね、レイアちゃん」

「はい、こちらこそ」


二人は軽く握手を交わす。

とても礼儀正しい人のようだ。彼女に倣い、俺も頭を下げる。


「では、早速街へ降りるといたしましょう」

「街に? 出発するんじゃなくて?」


首を傾げる俺を見て、レイアはキョトンとした顔をした。


「足りない物を買い足しに向かうのですが……」


そう言って彼女は、袖から取り出した大きな麻袋を見せつけた。

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