第1章「旅の始まり」
第17話「貴様の名は?」
『勇者よ……赤の勇者よ……目覚めよ……目覚めるのだ……』
「ん……んぅ……」
頭の中に声が響く。
老成した雰囲気で落ち着きのある、低い男の声。
誰の声だっけ……?
『赤の勇者よ……目を覚ませ……起きよ……起きるのだ!』
「ほわあああああっ!?」
突然の大声に、俺の意識は一気に覚醒した。
飛び起きて周囲を見ると、そこは王城の一室。来賓用の寝室だ。
窓を見ると、既に朝日が昇り始めている。
確か、昨夜の歓迎パーティーの後、俺たちはそれぞれ寝室をあてがわれ、俺はそのまま眠りについたんだっけ……。
「い、今の声は……?」
部屋を見回しても、俺以外には誰もいない。
困惑したままキョロキョロしていると、再び声がした。
『赤の勇者よ、我はここだ』
今度は頭の中ではなく、すぐ近くで声がした。
視線を下ろすと、左腕にはめられた腕輪が目に付いた。
『そう、ここだ。ようやく見つけたか』
声に合わせて、腕輪にはめ込まれた紅玉が赤く発光していた。
「うわあああああ!?」
『何を驚くことがある?貴様、昨日はさほど気に留めても……』
「相棒と会話できる系の変身ブレスだあああああ!!」
『……は?』
戦隊ではよくあるブレスレット型の変身アイテム!しかも玩具っぽさのあるゴテゴテしたデザインではなく、シンプルでファンタジックな造形の日曜朝じゃお目にかかれないタイプのやつだ!!
銀色の腕輪という神秘的でアーティファクトっぽい見た目に、はめ込まれた紅玉だけが変身後のパーソナルカラーを表しているのがとてもいい!
それに加えて、天聖獣との会話が可能とか最高じゃん!もしかしてこれ、天聖獣が姿を変えてるとかなのかな?それとも中に宿ってる系?ヤバい、ロマン溢れすぎてて色々聞きたい事が多すぎる!!
『あー……貴様、アレだな。興奮すると圧がすごいな』
「あ……すみません」
やっべぇ、ドン引きされてる。
ちょっと落ち着こう。深呼吸、深呼吸~……ふぅ……。
「あの石像のドラゴン……ですよね?」
『如何にも。我に与えられし名はグレン。人は我を“紅蓮の竜皇”と呼ぶ』
「紅蓮の……竜皇……」
めっっっちゃかっこいい二つ名持ってる……。いい……!
赤くて、ドラゴンで、剣を使う。
やっぱり戦隊レッドっぽいな。
『貴様の名は確か、龍也だったな』
「俺の名前、知ってるんですか!?」
『石像の状態でも、城の敷地内での会話くらいは把握できる』
「結構広いですね……」
流石は国の守り神。恐るべき力だ……。
そういえば、昨日は自己紹介する暇もなかったっけ。
あの時力を貸してくれたわけだし、遅れたけどお礼は言わなくちゃな。
「改めて、剣城龍也です。よろしくお願いします」
『良い名だ。少々心の声がうるさいが、礼儀も悪くない』
心の声聞こえてんの!?うっわ……なんか恥ずいな……。
念話とか出来るくらいだし、当然そういう能力もあるのか……。
『なに、気にする事はない。その声を拾うか流すかはこちらで判断できる。心を読むのは必要時のみだ』
「いや気にしますよ!?勝手に読まないでくれます!?」
『ハハハ、良い顔だ。感性が素直な者は好ましい』
もしかして俺、弄られてる?
人を脅かしてリアクション楽しむとか、荘厳な喋り口調してるのに茶目っ気あるなこのドラゴン……。
『まあ、なんだ。よろしく頼むぞ、今世代の勇者よ』
「は、はぁ……」
『そう身構えるでない。貴様は既に我が友だ。力が必要な時は、遠慮なく我を呼ぶがいい』
そう言い切ると、紅玉は発光を止めた。
これは……随分とフランクなセカンドコンタクトを体験したものだ。最初に石像を見た時とは、印象がかなり変わったと思う。
他のみんなの天聖獣もこんな感じなんだろうか?
もしかすると、今頃みんなも自己紹介中かもしれない。
……そういや、皆との自己紹介はまだだったな。
後でちゃんとお互いの名前を把握しておかないと。
そこへ、部屋の戸を叩く音が響き渡る。
「赤の勇者様、お目覚めになられていますでしょうか?」
そういえば昨日、朝になったら執事さんかメイドさんが起こしに来てくれるって話だったっけ?
客間で朝食って話だったし、遅れないように向かうとしよう。
「着替えたらすぐに出ます!」
そう言って俺は、着替えに用意されたこの世界の衣服に着替え始めた。
「……あれ?」
ふと目に付いた物を見て、俺は首を傾げる。
視線の先にあるのは、着替えの脇に立てかけられた鉄剣。
昨日、霊廟で引き抜いたものだ。
その見た目は引き抜いた時の、ただの鉄の剣に戻っていた。
それはいい。特撮でもよく見かけるやつだ。変身前後で武器の見た目も変化するやつ。
気になったのはそこじゃない。鉄剣の状態だ。
刃全体が、一度溶けて固まったような不格好な状態になっていたのだ。
引き抜いた時は、古びていながらも真っ直ぐな刀身だったため、少し違和感を覚える。
「もしかして……」
疑念を胸に着替え終えると、俺は鉄剣を手に部屋を出た。
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