第2話「俺の夢ってなんだっけ?」
澄み切った青い空。爽やかなそよ風と、強すぎない暖かな日差し。
そして……帰宅してからずっと頭を抱えて項垂れている俺。
「はぁ……また落ちた。これで十何件目だ?」
俺の名前は
以前は地元の小さなイベント会社に勤めていた。高卒と共に入学し、長い間お世話になっていた職場だ。
そんな職場がこの度、不景気で倒産。現在就職活動中の身なわけだが……。
なんと運悪く、どこからも内定を貰えずにいる。
どこの企業も面接までは辿り着くのだが、どうしてもそこで落ちてしまうのだ。
倒産の理由にもなっている、世界的な感染症が関係しているんだとは思う。
しかし、ここまで落ちると俺にも非がある気がしてならない。いや、きっとそうだ。でなきゃ、19件も連続で面接に落ちるわけがないだろう。
失業保険が降りているとはいえ、いつまでもそこに頼るわけにもいかない。
けど家賃は払わなきゃいけないし、光熱費や食費だってかさんでいく。
なんなら就活にも金はかかる。履歴書はコンビニ印刷すればいいとしても、面接先の企業へ向かう交通費やスーツのクリーニング代は発生する。
マイカーなんてとても持つ余裕は無い。車ってただでさえ管理費かかるのに、どうして自動車税などというものが存在するのか。どう考えてもおかしいだろ。
なにより、俺は世間的に言えばオタクに分類される人間だ。
オタ活してるとどうしても、月々出費が出てしまうわけで……。
つまり、そろそろ再就職できないと本格的にヤバいってわけだ。
「くっそぉ~……」
身体を畳に投げだし、天井を見つめながら大きくため息をつく。
そういや、就職エージェントにも言われたな……。
『剣城さんには目標がない』だったっけ。
俺の目標ねぇ……。
倒産した会社は俺の夢に一番近かったから、それが潰れたことで俺の夢も潰えてしまった気になっているのかもしれない。
それだけの天職だったんだと、しみじみ実感する。
だから、他の職なんて考えられないんだろう。
俺の夢は『ヒーロー』だ。前職はスーツアクター。
戦闘員役や怪獣役、風船配りのマスコットから下積みして、ようやくヒーロー役も任されるようになった。
倒産は、その矢先の出来事だった。
感染症の流行さえなければ、俺は今でもヒーローとして働けたはずなんだ。
「……なりたいなぁ、もう一度」
天井に伸ばした手の甲を見つめる。
虚空を掴む手のひらには、なんの感触も返ってくる事は無い。
「訪れないかなぁ……逆転のチャンス」
顔を横に向けると、グッズを並べた棚に自然と目がいった。
大好きなヒーローや、推しのアニメキャラのフィギュア。
変身アイテムに必殺武器、円盤や関連書籍。
そういったものが所狭しと並んだ棚の端、一冊の本が目についた。
異世界モノのライトノベル。その背表紙。
それを見た瞬間、思わず呟いてしまった。
「異世界にでも行ったら、もう一度ヒーローになれるのかな」
その時だった。
突如として頭上に、魔法陣が浮かび上がる。
「……へ?」
思わず間の抜けた声を出した次の瞬間には、俺は垂直に降下してきた魔法陣の中へと吸い込まれていた。
「うわああああああっ!?」
一面に広がる、眩い白。
あまりの眩しさに目を瞑った直後、何か強い力で引っ張られるような感覚に襲われる。
同時に体が浮かび上がるかのような浮遊感を覚え、落下していくかのように感じる強烈な違和感に襲われる。
そして、周囲から白が消えた時。
俺の目の前には、見知らぬ光景が広がっていた。
……まさか本当に異世界転移するなんて思わないじゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます