第30話

 ミネアとタンジア王子は、アメジストの家の前に下りたった。


 アメジストは、ちょうど、リャンに乗り、夕食の材料を狩りに行くところであった。ミネアとタンジア王子が急に現れ、アメジストは赤い目を丸くして驚いた。


 ミネアは、アメジストにカルデア王国で起こった出来事を話した。


「なるほど。それで、タンジア王子の息を吹き返そうとここに来たんだね。聖域の呪文を唱えることで、タンジア王子は蘇るかしら」


 アメジストは、考え深い表情をして、頭を働かせる。


「とにかくやってみたいの!時間がないの。手伝ってもらえる?」


 ミネアは追い詰められた、悲壮な目をして訴えた。


「わかった。このサーリャの地も、姉が唱えた光の力が弱まっていた。聖域が唱えられれば、再び力を取り戻せる」


 アメジストは、こくりと頷いて言う。


「ありがとう!今、ここで究極魔法を唱えるわ」


「究極魔法?それは、自分の命と交換する魔法だろ?」


 アメジストは、眉を傾げる。


「そう。聖域を唱えた瞬間に、解毒の呪文を唱える。二大呪文を同時に唱える、究極魔法よ」


 ミネアは、全てを受け入れるように、おおらかな口調で言う。


「死ぬ気?私は、いやよ。姉をなくし、貴方まで失うなんて!」


 アメジストは、声高に叫んだ。


「ごめんなさい。私は、タンジア王子を愛してます。だから、王子のために、死にます。かつて、母は、カルデア王のために、毒を飲み続けた。私は、なんとなく、母の気持ちがわかるの。愛とは、愚かなものなのね」


 ミネアは、哀しそうな目をして、切なそうに話した。


「ミネア、、。私は、何をすれば良い?」


「私が解毒の呪文を唱えたら、タンジア王子の介抱をしてほしいの。息を吹き返すかわからないけど、、。私はそのときは、おそらく動けなくなっているから。。」


 ミネアの頼みを、アメジストはわなわなと震える想いで聞いた。ミネアの口は固く閉ざされている。アメジストは、何を言っても無駄だと悟った。


「まったく、親子揃って、、。」


(そこまで愛を捧げられる人生か。私には、わからないが、羨ましくもあるな。。)


 アメジストは、溜め息をついた。


「ごめんなさい、アメジスト。お父さんに会ったら、育ててくれて、ありがとうございます、大好きだったと伝えて」


 ミネアは、目を閉じて両手を天に振り上げた。全ての大地を包みこむように両手に抱き、風の声を聞いた。


「天を司るあまたの精霊よ。我に力を!サーリャに聖なる力を、タンジア王子に光を捧げあらん」


 ミネアが呪文を唱えると、サーリャの地は瞬く間に光の輪が浮かび、オーロラの光が輝き出す。


 ミネアは、サーリャに聖域が唱えられたことを感じると、タンジア王子の胸の上に手をかざし、解毒の呪文を唱えた。


 その時、アメジストも同時にタンジア王子の胸の上に手をかざし、呪文を唱えた。


「アメジスト?!」


「二人で唱えたら、二分の一の傷で済む。」


 アメジストは、にまりと笑って言った。


「ありがとう」


 ミネアは胸が熱くなってくる想いを止められなかった。これは、何?感謝?愛?考え巡らせながら、ミネアは、最後の呪文を唱えることに集中する。


 呪文を唱え終わると、ミネアは一気に身体中から力が抜けるのを感じた。アメジストも同様で2人共に崩れ落ちる。


 ミネアは、足にも力が入らないが、なんとか奮い立たせ、タンジア王子に身を寄せた。


「タンジア王子!タンジア王子!」


 タンジア王子は、眉一つ動かなかった。静かに目を閉じている。


「失敗した、、?」


 ミネアは落胆しながら、タンジア王子を見つめた。初めて会った日を、初めて口づけた日を、初めて告白された日が走馬灯のように記憶が駆け巡る。


「私、ユーナ姫にも王子を譲らない。恨まれても、地獄に堕ちても、貴方を愛する。だからお願い、貴方だけいればいい、目を覚まして」


 ミネアは、王子に囁くと、ゆっくりと口づけをした。


「それは、真だな?」


 すると、タンジア王子の目が開き、言葉が聞こえた。土色の顔色に、生気が蘇ってくる。


「王子!王子!」


 ミネアは、涙を流し、タンジア王子にしがみついた。


「これから、素直に私についてくるか?」


 タンジア王子は、ミネアを愛しそうに見つめて囁いた。


「ええ。どこまでも!」


 ミネアが答えると、タンジア王子は、ミネアを引き寄せ、熱い口づけを交わした。


「愛してる、ミネア」


 タンジア王子は、ミネアを抱き寄せ、再度口づけを交わす。


「愛とは、愚かなものか。力を貸した私もまた、同じか」


 アメジストは苦笑をし、溜め息をついて、2人を見守った。時期にランビーノもやってくるだろう。ランビーノもまた、娘のために命をかけて戦った。誰もが愛のために、命をかける。


「愛は愚かなものであるが、それも悪くない」


 アメジストは、微笑んで、幸せそうな2人を見守った。


              

                ~完~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

捨てられた姫の行方 〜名高い剣士に育てられ〜 ゆーりん @yurikobudou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ