第29話
ミネアは、ごくりと唾を飲み込むと、カルデア王の方へ顔を向けた。
「カルデア王は、サーリャの地を得るために母に近づいた。そして、最後は見殺しにした」
ミネアは静かに口を開いた。怒りが頂点を越えたからか、不思議と冷静に王を見ることができた。
「知ってしまったか。サーリャの地は、石油もでた。今や、サーリャを手に入れれば、世界が手に入る。それほど、価値のある場所なのだ」
「そのために、母を、、!許せない」
ミネアは、カルデア王を睨んで言う。
「そなたは、私の娘だ。子は、親に従うものだ。サーリャを手に入れ、共に世界を手にしよう。サリーンのときには、できなかったことだ」
カルデア王は冷酷に笑い、ミネアに言う。
「ふざけるな!私の父は、ランビーノ!気高い剣士だ!!」
ミネアが気持ちを高ぶらせて叫んだときに、ランビーノが天井から、カルデア王の前に立ち塞がるように下り立った。
「お父さん!」
(ずっとついていてくれてたんだ、、)
ミネアは、一瞬、気を緩めた。ランビーノがいてくれることに、何よりも、心強く感じられた。
「すまん。カリューシャを追っていた。タンジア王子は、西の塔の地下牢にいるはずだ。カリューシャに何をされているのかわからない。信用ならない奴だ。ミネア、ここは俺が相手をするから、タンジア王子のほうへ!」
ランビーノは、腰から剣を抜いて両手に構えた。目には怒りと哀れみの色が映されていた。
「何を!お前がランビーノか。目の上のたんこぶとはこのことだ。私の剣の腕も、満更ではないぞ」
カルデア王も、かつては剣の腕を磨き、豪剣の剣士として名を刻んでいた。
「面白い、どちらが上か。勝負だ!」
ランビーノは間合いをとり、カルデア王に剣を仕掛けた。
カルデア王も剣を抜き、ランビーノの稲妻の一太刀を受けた。両者互角であった。
「行け!ミネア!」
ランビーノは一太刀も気を抜かず、カルデア王に切り掛かる。ランビーノの言葉に押され、扉を開けて、元来た道へと走り出した。
(お父さん、ありがとう!)
ミネアは、今、自分の父は最高の剣士、ランビーノであると確認する。
(お父さんは、気高き剣士。必ず勝つ!私は、タンジア王子を助けなければ!!)
ミネアは走りながら、移動呪文を唱え、一番はじめに迎えられた部屋へ瞬間移動する。
(西の塔の地下か。行ったことがない。。走るしかない)
ミネアは、隼の呪文を唱え、風の如き速さで西の塔へと向かう。西の塔までは場所がわかりやすかったが、地下牢への階段がわからず、執事を剣で脅し、地下牢の場所を聞き出した。
(早く!早く!!タンジア王子、生きていて!)
ミネアは、今までにない速さで地下牢への道を走った。階段を下りて、地下道を走り抜けると、いくつもの柵で隔てられた、牢に行き着いた。
入り組んだ数々の牢には、囚人が捕らわれている。奥へと進んで行くと、瀕死のタンジア王子を囲み、カリューシャ、それに王妃と思われる着飾った女がいた。
「タンジア王子!」
タンジア王子は、脇腹に包帯を何重にも巻き、顔色不良で真っ青だった。
ミネアは、タンジア王子の元へと、瞬間移動を唱える。
「大丈夫ですか?」
ミネアは、タンジア王子を抱き寄せて、声を上げた。タンジア王子は、虫の息だったが、なんとか呼吸はできていた。
「ミ、ミネア、、、」
タンジア王子の意識はかろうじてあるようだった。ミネアは、タンジア王子の手をとり抱きしめて、カリューシャと王妃の方へ向いた。
(生きてる。良かった!)
「あらあら、誰かと思ったら。馬鹿な女、サリーンの娘じゃない。生きていたとはね。。ここで、お前も王子も殺してしまえば、一石二鳥。早く、母親のところへ行けば良い。」
王妃は、突然ミネアが現れても、冷静であった。冷たい微笑が消えると、冷酷無惨な雰囲気が能面に漂っていた。
「お前が、母を殺した王妃か!」
「おやおや、ミネア様。解毒剤を飲ませるかわりに、カルデア王国につくと約束したではありませんか?」
カリューシャは、ミネアがやって来たことに動揺していた。
「何を!こんな牢に閉じこめ、解毒剤など飲ますつもりはなかったのだろう!」
「そんなことは、、。これからこの薬を飲ませるところでした」
カリューシャは、腰袋から瓶を取り出して、ミネアに見せた。
「嘘だ!それは、ただの毒だ!本当は、お前は、解毒剤など持っていない」
ミネアは、確信に満ちて言った。ミネアの言葉が当たっていたのか、カリューシャは怯んだ目を見せた。
「そ、そんなこと。ミネア様は、私たちカルデア王国に、抵抗するつもりですか?」
カリューシャは無表情に戻り、言った。
「私の父は、ランビーノ!私の故郷はアリシアの国。私は、タンジア王子とアリシアへ戻る。それが、答えだ!」
ミネアは、タンジア王子を引き離し、守るように腰から剣を抜いた。
「良いでしょう。それでは、死を!」
「そうよ、カリューシャ!2人とも殺しておしまい!!」
王妃は忌々しそうに、カリューシャに命令を下した。カリューシャは、剣を抜いて、間合いを取った。
(なんだ、この感じは。。あの時と違う気をミネア様から感じる。もしや、呪術を!?)
カリューシャは、ミネアの身体から発する光のオーラを感じ、恐怖感を覚えた。
ミネアは、カリューシャに斬りかかりながら、
「▲βα▲」
と、唱えた。ミネアが唱えた呪文は、火の最強呪文であった。たちまち、牢の中が火柱に包まれ、最も熱い火が王妃とカリューシャを包んだ。
「ぎゃああああ!」
王妃は、熱さに苦しさで歪んだ表情を浮かべ、泣き叫んだ。
「助けて!助けて!」
カリューシャは、剣で風を巻き起こし、王妃と自分の炎を消そうとするが、ミネアの呪力は、カリューシャの力を上回っていた。炎は消えず、かろうじて火の勢いが弱まっただけであった。
ミネアは、その隙に、カリューシャの腹を斬り、背中を斬った。カリューシャから血が吹き出した。
「ぐふ。いつの間に、呪文を、、。サーリャの地に、行ったのですね、、」
カリューシャは意識朦朧となっていく。炎とミネアの姿が霞んでいく。
「いやあああ。た、助けて」
王妃は、地獄のような叫びを出して、ミネアの足に絡みつく。
「お願い、お願い」
ミネアは、苦渋の表情で、王妃を見下ろす。王妃は、苦しみで顔を歪ませながら、火に呑み込まれていく。
「私は、あなたたちを、許せない」
ミネアはそう言い放ち、タンジア王子を抱き起こした。炎は徐々にミネアとタンジア王子の方へと近づいてくる。ミネアは、バリアの呪文を唱える。
「王子、すぐに解毒の呪文を!」
ミネアが呪文を唱えようとしたとき、王子の意識が落ちた。
「王子!」
王子の心臓は止まっていた。
「王子!!!」
(だめ、間に合わなかった!?)
ミネアは、冷静になって考えた。何とか王子を救いたかった。聖域の呪文を思い出し、もしかしたら、まだ光の力があれば、息を戻すかもしれないと希望をかけた。
(サーリャの地へ!)
ミネアは、命をかけてタンジア王子を救うため、瞬間移動の呪文を唱えた。
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