第26話

 ミネアが蕎麦を食べ終わると、ランビーノはカルデア城で掴んだ情報を話し始めた。


「どこを探してもタンジア王子は見つからない。どこかの秘密の部屋に隠されているんだと思う」


 ランビーノの言葉は重くミネアにのしかかってくる。


「生きてるよね?」


「ああ、ミネアが行くまで、期限内は殺さないだろう」


「もう、正面から行くしかないよ」


 ミネアは、自分の命を投げ出すつもりであった。


(タンジア王子さえ、生きてくれれば!)


「真正面?危険だ。もう少し、タンジア王子の居場所を探さないか?」


 ランビーノは、罠にはまる危険を感じる。


(今のミネアは、王子を心配するあまり、周りが見えてない。。)


「カリューシャは来るとわかって、どこかで見張ってる。どこから行っても同じよ。時間の無駄だわ。私が行くから、お父さんは後ろから見張っていて」


 ミネアは、決心したように、言い放った。


 ランビーノは、ミネアが唇を閉じたら、ら何を言っても聞かないのを知っていた。


「わかった。ミネアに任せる。くれぐれも用心しろ」


 ランビーノは、ため息をついて言った。


 ミネアは、強い光を目に宿して頷いた。


(恋する目だな)


 ランビーノは、父親の情からか、タンジア王子に妬ける想いに胸が痛んだ。




 ミネアは食堂を出ると、そのままカルデア王国に向かった。正門の門番に、カリューシャへの取り次ぎを申し出る。


「ミネア様ですね。しばらくお待ちを!」


 門番が戻ってくると、


「ミネア様、ようこそいらっしゃいました。どうぞ、お入り下さい」


 と、恭しく礼をして、ミネアを中へと案内する。ミネアは、門番に従い、案内されるままに後ろから着いて行く。


 城に入ると、赤い絨毯が敷かれた道を歩いていく。奥には、大広間が広がっていた。大人数が囲めるテーブルと椅子は豪華で、シャンデリアが美しく煌めいている。何人かのメイドや執事とすれ違う。


(アリシア王国より、高価そうな家具・・)


 広間を更に奥に行くと、細い廊下が三本に分かれていた。綺麗な部屋が何部屋も脇に広がっている。


(迷ってしまいそう)


 ミネアは、城の広さに、段々と自分がどこを歩いているのかわからなくなってくる。


 ミネアは案内されるままに、廊下を歩いていくと、地下へと続く螺旋階段に突き当たる。


「階段を降りて行くと、カリューシャ様がいらっしゃいます。どうぞ」


 門番はそう言うと、礼をして、元来た廊下を戻って行く。


ミネアは、意を決して、早足に階段を降りて行く。タンジア王子が心配であった。


 階下に下がると木の扉があり、ミネアは、扉を開くと部屋に続いていた。薄暗い照明が、ひっそりと部屋を照らしている。暖炉に、本棚がいくつも見られた。奥に机と椅子があるようだ。書斎のようだった。


「いらっしゃいませ、ミネア様。待っておりました」


 カリューシャが椅子から立ち上がり、ゆっくりと姿を見せる。


「カリューシャ!タンジア王子はどこだ?」


 ミネアは、憎らしそうにカリューシャを睨んだ。


「安心して下さい、ミネア様。タンジア王子は、怪我の手当てをしまして、ゆっくりお休みになられています」


「どこにいる?!」


 ミネアは、生きているという事実に、安堵する。


「ミネア様、交換条件です」


「?」


「ミネア様は、サリーン様とカルデア王の娘。王族の血をひいています。また、サリーン様は、サーリャの地を受け継ぐ者。その娘でもあるミネア様は、二つの国の後継者です。だから、ミネア様にはカルデア王国を継ぎ、サーリャをカルデアの領地にするよう、アメジストの長に言ってもらいたい」


 ミネアは、あまりにも勝手なカリューシャの条件を聞き、怒りが込み上げてくる。


「なにを言う!私を捨てたのは、カルデア王国だ!」


「確かに、あなた様は捨てられた姫。私もその行方は知りませんでした。しかし、戻って来られたのです。運命とは不思議なものです」


「私の父親は、ランビーノだ!私は、タンジア王子と、私の故郷に帰る!」


 ミネアは、怒りで両手が震えていた。かろうじて唇を噛むことで、なんとか怒りを抑えていた。


「ミネア様、タンジア王子の命はありません。なぜなら、毒が全身にまわりはじめています。怪我の手当てをしたことで、なんとか息をしている」


 カリューシャは、冷たく光る、したたかな目でミネアを見据えた。


「え?」


「私の太刀をまともにくらった。毒は、ダルが作った解毒剤がなければ消えません」


「そんな。。」


「ミネア様がカルデアに戻ってきて頂けるなら、薬を飲ませましょう。そして、安全にアリシアにお届けします。」


 ミネアは、カリューシャの冷たい声をただ聞くしかなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る