第27話
ミネアは、今までの誰よりもカリューシャが憎かった。憎しみの気持ちが、体中を駆け巡り、美しい青い目は、憤怒で赤く光っていた。
(私が、カルデアに戻らなければ、タンジア王子が死ぬ。卑怯もの!)
ミネアの目からは、悔しくて涙が潤んでいた。自分がこんなにも力無く、不甲斐ない者であることを知る。肩を落とし、顔を俯かせる。
「わかった。カルデアに戻ると約束しよう。タンジア王子に、薬を飲ませて」
ミネアは、震えた声でか細く言った。
カリューシャは、満足そうに頷く。
「愛の力は素晴らしい。私は、タンジア王子に薬を飲ませに行きます。その間に、会って頂きたい方がいます」
「誰だ?」
「ミネア様の、本当のお父様です」
「!」
「貴方様に、拒否権はありません。カルデア王は、奥の部屋にいらっしゃいます。ミネア様が行かれましたら、私はタンジア王子の元に行きます」
ミネアは、無表情で虚空を見る。まるで動かされた人形のように扉を開け、奥の部屋へと歩いて行く。
その部屋は一層薄暗く、視界が見えにくかった。薄紫色のペルシャ絨毯が敷かれ、立派な緑色のソファーと、ピアノが置かれていた。それ以外は薄暗く、何があるのか不明だった。
ソファーから、動く影が見える。カルデア王が立ち上がり、ミネアのそばにやってくる。
「ミネアよ。会いたかった!」
カルデア王の表情は、近づいてくるに連れて、はっきりとミネアに映った。端正な顔立ちに、青い目、白い髭、金色の髪色。ミネアに似ていた。
ミネアは初めて見る父親に、恐怖心を覚えた。足がガクガクと震えた。
(母を惑わした人。母を守れなかったこの人は、母を殺したも同然!)
「私の父は、ランビーノ!貴方は他人です」
ミネアは、努めて冷静に言った。カルデア王は、悲しそうな目をする。ミネアは、その目を見て、針が胸に刺さるような痛みを感じる。
「そなたを守れなかっだ自分が不甲斐ない。隣国に捨てられ、辛い生活を強いられていただろう。本当に、申し訳なかった」
カルデア王は、ミネアに向かって頭を下げた。
「何をいまさら!貴方は、私だけでない、母も守れず、殺したんだ!」
ミネアは、同情の気持ちに呑まれないよう、憎しみを湧き立たせて叫んだ。
「それを言われたら、、。私は愚かだった。サリーンが毒を盛られていることを見破られなかった。そして、その犯人である王妃の罪も問えていない」
カルデア王は、重い口を開き、苦しそうに表情を歪めた。
「そして、私に国に戻るよう、タンジア王子を人質にして脅し、サーリャを手に入れようとしている。あなたは、非道で愛がない!」
ミネアは、話しながらも憎しみが抑えられず、冷たい目で蔑むようにカルデア王を見た。
(この王は、極悪非道だ!父などではない。。)
「おお、ミネアよ。私も辛い立場なのだ。このままミネアが戻らなければ、王妃に国を乗っ取られてしまう。それだけは、避けなければいけない。。」
カルデア王は、苦渋が沁みた声で、か細く話した。ミネアの目には、カルデア王が小さく見える。憎しみの心が弱々しく浮浪する。
「知らない!早く、タンジア王子に会わせてほしい!私を王子と故郷に帰して、、。」
ミネアの目からは、涙が溢れていた。これ以上、現実に目を向けることができなかった。憎しみと愛情が混ざり合う、複雑な気持ちが葛藤する。
「ミネアよ、、。そなたの望み通りにしてあげたい。だが、私の力はあまりにも弱い。全ては、王妃が握っている」
「お願い、、。」
ミネアは、何故だかカルデア王に縋りたい想いであった。幼子のように嗚咽をだして、泣きじゃくる。
(本当の父だから、気が緩むの?それとも、置かれた自分の運命から逃げたいの?)
ミネアは、涙が止まらない想いを考えるが、気持ちはうまく整理できず、涙は流れるままになっていた。
カルデア王は、ミネアの泣く姿を見て、心を痛めた。
「ミネアよ、そなたに見せたい部屋がある。」
ミネアをなだめるように、温かい目が、カルデア王から注がれていた。
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