第25話
ミネアが洞窟から地上に戻ると、アメジストが心配そうに駆け寄ってきた。
「火の呪文をくらったか」
「βαγ」
ミネアは、回復魔法を唱える。緑色の光が全身を覆い、火傷が治癒されていく。
「おぉ。試練をクリアしたか。さすが、姉上の子だ」
アメジストは、安堵した表情で言った。
「これから、カルデア王国に飛びます。アメジストさん、お世話になりました」
ミネアは、笑顔を作って言う。内心では、タンジア王子が心配で、いてもたってもいられなかった。
「一晩休んで行ったほうが、、」
アメジストは休息を申し出たが、ミネアは有無を言わせず、口を閉じて首を振る。
「わかった。また戻ってくる?」
アメジストは肩をおとし、諦めた口調で聞いた。
「わからない。カルデアで何が起こるのか。行ってみないと、私のこれから先はわからない」
ミネアは、自分の運命を、この後のカルデア決戦に任せる覚悟であった。
「そうか。サーリャについては、ミネア様に任せる。石油も出るし、他国の利害が絡んでいる。慎重にね」
アメジストは、気を取り直して言った。
「わかった。答えがわかったら、また来る!色々ありがとう!」
ミネアは笑って頷き、‘’π3r‘’と、瞬間移動の魔法を唱えた。ミネアは、アメジストの前から瞬時に消えた。
カルデア城の西の角部屋に、ミネアは降り立った。
(なぜ、この部屋に?)
ミネアは、部屋を見渡す。ベッドにドレッサー、テーブルに椅子、高級そうて、立派な家具だった。しかし、部屋は薄暗く、何年も使っていないような寒々しさが感じられる。
(もしかしたら、母上とアリシア王の部屋だったのかも?私の幼い記憶が、ここに移動させたのか)
ミネアは、何か記憶を呼び起こすものがないか、部屋を探ったが、特に気を引くものはなかった。
「こんなところで、時間を使っていては、だめだわ。はやく、タンジア王子のところに行かないと!」
ミネアは、まずはランビーノと合流しようと、あらかじめ指定されている、城内の大衆食堂へ向かった。
ランビーノは、端の席で、竹笠を頭にかぶり、いつもの黒衣で、蕎麦を食べていた。
ミネアは、わかりやすいランビーノの服装を優しく見て、ランビーノの隣に座った。
「お父さん、お待たせ!」
ランビーノは、食べていた蕎麦の箸を止めて、ミネアを見た。
「ミネア、早かったな」
「ええ、急いだわ。試練もクリアして、魔法を習得したわ」
ランビーノは、ミネアをまじまじと見た。驚きと敬服の光が、目から発せられた。
「この2日で、よくやったな。やはり、お前は何者かだな。魔法があれば、カリューシャに対抗できる」
「お父さん、タンジア王子はどこに?!タンジア王子のお怪我は、大丈夫なの?カリューシャはどこに?」
抑えていた感情を爆発させるように、ミネアはランビーノに言葉を浴びせた。
「まあ、焦るな、ミネア。気持ちはわかるが
・・飯はいつから食べてない?」
ランビーノは、苦笑をしてミネアを落ち着かせた。
「ご飯なんて食べてる場合じゃない!」
「・・いつからだ?」
「最後に食べたのは、アリシア王国を発った日よ。2日、食べてない・・」
ミネアは、思い出すと、急に腹が鳴るのを感じた。
「まずは、飯だ。蕎麦で良いよな?」
ランビーノは、予想内の答えを聞くように、ミネアを見て柔らかく笑った。ランビーノは、ミネアが食事をとっていないと踏んで、集合場所を食堂にしたのだった。
(まったく、集中すると飯を食べることを忘れるのは、昔からだな)
ランビーノは、ミネアが蕎麦を勢いよく啜っているのを、愛おしげに見守った。
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