第20話

 ミネアとランビーノは、しばらくの間、カリューシャが消え去った闇空を睨むように見ていた。


「タンジア王子。。」


 ミネアは、タンジア王子を想い、胸に釘を刺されたような、鋭い痛みを感じていた。目からは、大粒の涙が溢れてくる。


(王子、王子、王子、王子、、タンジア王子!!)


 ミネアは、初めて感じる胸の痛みに、戸惑いも感じていた。


「とりあえず、まずはアリシア城に行こう。王に伝えないと」


(俺が、もう少し早く戻ってきてさえいれば、、)


 ランビーノは、悔しそうに唇を噛んだ。ユーナ姫や、やっと覚醒した侍者らの介抱をする。


 ミネアは、ランビーノの言葉が、耳に入らなかった。


「愛とは、何なのだろう。恋とは、何なのだろう。私は、タンジア王子に、恋をして、愛してしまった」


 ミネアは、自分の気持ちを確認するように、無意識に声に出して呟いていた。


 ランビーノは、ミネアの言葉を聞き、父親として、複雑な気持ちになった。


(まるで、娘を嫁がせるような気分だ)


「俺は、恋とか愛とかなかったから、よくわからないけど。きっと、尊い気持ちだろうな。」


 ランビーノは、溜め息をついて言った。


「尊いのかしら?

 よくわからないけど、王子のために、何でもしたい、なんでもあげたい。自分のことより、他人を大事に思えるなんて、なんなのかしら、この気持ちは」


 ミネアは、ランビーノに語るように言った。ミネア自身、胸に海のような広い空間ができたこと、そして、流れる水のように、愛しい気持ちが溢れてくることが、まだ不可解であった。ただ、その海と水の流れを、感じているだけだった。


「そうか。人のために何かしたいと想えるなら、きっと、尊いんだよ」



 ランビーノは、眩しそうにミネアを見た。


「お父さん、私、強くなる。そして、タンジア王子を助ける」


 ミネアは、タンジア王子が危険な身に犯されていることに向き合って、拳を握った。


「ああ、期限は1週間か。城に戻って、作戦を練ろう」


 ランビーノは頷き、言った。


 ユーナ姫は、ランビーノに介抱されながら、ミネアの話を聞いていた。ミネアは、もはや、ユーナ姫が目に入っていなかった。タンジア王子だけが、心の中に流れていた。それは、時に火のように燃え上がり、ミネアの身体を熱く激らせた。


(ミネアとタンジア王子が、愛し合っているなんて、、)


 ユーナ姫は、眉根を寄せて、悲壮な表情をして、沈黙を守っていた。


(私は、どうしたらいいの?)


 ユーナ姫は、ランビーノに促され、馬車に乗った。覚醒した御者が、馬を発進させる。侍者らは、不覚の体をして、今度こそは守るのだと、ユーナ姫の護衛に励んだ。


 馬車に揺られながら、ユーナ姫は、心に嫉妬という、暗い火が点くのを感じていた。


(許せない。裏切ったタンジア王子も、ミネアも!)


 ユーナ姫の嫉妬は、抑えることはできず、醜く燃え始めていた。



 城に戻ったランビーノは、全ての出来事を、そのまま王に報告をした。


「なんと、カリューシャが、タンジア王子を連れ去った?!」


 アリシア王は、事実を知ると、すぐにタンジア王子を救うために、何人もの使いを出した。まずは、状況を把握するために、情報を収集させる。


「私めは、ミネアと共に、カルデア王国に向かいたいと思います」


「すまない。金はいくらかかっても良い。頼んだぞ」


 ランビーノは、恭しく礼をして下がった。


(まずはミネアに話して、サーリャの地へ向かわせなければいけない)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る