第16話

 アメジストはランビーノから、これまでの経緯を聞いて、息を飲んだ。口元に手をあてて、しばらく口を噤む。2人の間に、沈黙が流れる。


「そうだったのか。偶然とは、面白いものだな」


 アメジストは、おもむろに口を開いた。


「そうだな。運命なのか、偶然なのか。我々は、いつも、見えない力に動かされている」


 ランビーノは、意味深く溜め息をつき、頷いた。


「ミネアに会わせてくれないか?」


 アメジストは、頭を下げて言う。


「会って、どうする?」


「彼女がどうしたいのかを聞きたい」


「とは?」


「ミネアの母は殺されたが、ミネアの本当の父親は、カルデア王国の王だ。ミネアは、山の民の血とともに、カルデアの王族の血もひいてる。この先、アリシア王国に対して、山の民が敵となっていいのか。。ミネアに全てを話し、聞いてみたい」


 アメジストは、神妙な顔つきで話す。


「なるほどな。確かに、ミネアが背負っているものは、重すぎる。それで、ミネアの答えによっては、カルデア側につくのか?」


 ランビーノは、アメジストのオレンジ色の瞳を見つめて言った。


「そうだな。彼女は、正統な山の民の真の後継者だ」


 アメジストは、ゆっくりと頷いた。


「わかった。ミネアに話してみよう」


 ランビーノが承諾したところで、2人の間に流れていた重苦しい空気は溶ける。


「食事をご馳走しよう。今日は、泊まれるのか?」


「もう夜も更けてくる。出発は、明日の早朝にする」


 ランビーノは、空腹であることを思い出し、久しぶりにゆったりとした気分になり、伸びをした。


「そうか、部屋を用意するので、今夜はゆっくりしてくれ」


 アメジストは、嬉しそうに表情を和ませて言った。



 翌日の朝、ランビーノがサーリャの地を出発する頃、カリューシャは、ダルと共に、再度、アリシア王国の城に侵入しようとしていた。


 前回、カリューシャがミネアと剣を交えてから、カリューシャは黒子を使い、徹底的に、ミネアのことを調べさせた。そして、ミネアが実は自分がカルデアの王妃に命令され、アリシア王国に捨てた姫である事実を知った。


(なんという運命だ。まさか、あの娘がサリーン様とカルデア王の娘、ミネア様であったとは。。)


 カリューシャは、その事実に動揺し、幾日か自分がこの先どうしたら良いのか悩んでいた。その結果、


(とにかく、受けた命であるタンジア王を抹殺しなければいけない。そして、もう一つの命である、ミネア様をカルデア王に届けること。この二つの命をやり遂げる)


 しかし、カリューシャは、どうやれば、ミネアをアリシア王国に連れていけるか、方法がわからなかった。


(とにかく、タンジア王子を抹殺すること。まずはこの使命を優先させよう)


 カリューシャは、ミネアがサリーンの娘であることを知り、風の如き速さである、あの剣の動きに納得する。


(ミネア様は、風の魔法を、無意識に習得していたのだ。)


 カリューシャは、魔法の力であることを知ると、次は勝てるような自信があった。


(魔法を封じればいいのだ。タンジア王子のもとに行けば、ミネア様とも会える。なんとか眠らせて連れていけたら。。)


 カリューシャは、ランビーノが不在であることも知っていた。ランビーノが戻ってきてしまったら、不利になることもわかっていた。


(さすがに、2人で来られたら、きついだろう。。)


 カリューシャは、城下町の食堂で、ダルに朝飯を食べさせながら、作戦を話す。ダルの食欲は旺盛で、ご飯を3杯お変わりしながらも、ふんふん、と理解をして聞いた。

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