第15話

 アメジストの家は、点々と散る集落の家々を見渡せる、高台に位置しており、平屋風の小屋であった。


 中に入ると、囲炉裏を囲んでゴザが敷いてあった。


「茶を沸かそう。くつろいでくれ」


 アメジストは、ゴザに胡座を組んで座ると、囲炉裏に火を起こした。


「段々と夜が冷えてきた。温かい飲み物は、助かる」


 ランビーノもアメジストに向かい合って、ゴザに座った。


「17年来か?あのときは、助かった」


 アメジストは、懐かしそうにランビーノを見て目を細めた。アメジストの瞳は、柔らかな日向色をしている。一見は物柔らかに見えるが、赤い髪は、隠された強い主張を物語っていた。


 17年前、ランビーノはまだ10代であったが、王の使命を受けて、数々の刺客を切っていた。ちょうど、アリシア王国の刺客を追っていたときに、切られて死にそうなアメジストと出会い、介抱した。


「そなたには、借りがあるからな」


 アメジストは、17年前、アリシア王国から逃れ、瀕死の状態で、山岳地方で倒れていた。ランビーノは、偶然、アメジストを見つけ、自分が女であると知ったときの、息をついてこちらを射るように見つめたグレーの瞳を、昨日のことのように思い出す。


「アメジストが、義理堅い人間で助かる。単刀直入に聞く。時間がなくてな。。

 タンジア王子と何を話した?何を企んでる?」


 ランビーノは、17年前と同じ、どこか幼さが残る、瞳のグレーの色味を強めて聞いた。


「タンジア王子側についた理由は、2つある」


「2つ?」


「1つは、タンジア王子が、命の危険を顧みずに来た、勇敢さだ。王子は、命と引き換えに来た。崖の下へと飛び込んだ勇気があった」


「ほう」


(タンジア王子の勇敢さは、本物か)


「もう1つは、復讐だ」


「復讐?」


「私の姉、サリーンは、アリシア王の愛人だった。15年前に、病で死んだが、実は毒を盛られたとわかった」


「サリーンは、アメジストの姉だったのか?」


「そう。そして、サーリャの地を受け継ぐ、第一後継者だった。17年前に、アリシア王国に乗り込んだのも、姉を説得して迎えに行くことが目的だった。しかし、カリューシャにやられ、城からなんとか逃れた。そのとき、そなたに助けられたのさ」


 アメジストは、湯を茶器に入れてハーブの茶を濾す。2人の間に沈黙が流れる。アメジストは、茶を湯呑みに入れて、ランビーノに手渡した。茶の湯気がランビーノとアメジストの間で揺れた。


(なんという偶然!ミネアは、サリーンの娘で、サーリャの地の後継者であったのか)


 ランビーノは、ハーブ茶を一口啜った。香りが心地よく体内を満たした。


「だから、サリーンを殺したアリシア王国に復讐しようと、タンジア王子に着いたのか?」


「そうだ」


 アメジストは、素直に頷いた。


「姉の持つ魔法力がない今、魔法陣もいつまでもつかわからない。他国に着くメリットがでてきた」


「サリーンには、娘がいるのは、知っているか?」


 ランビーノの口調は、静かだった。


「ああ。しかし、その娘も殺されてしまった。。」



「もし、生きていたら?」


「生きていたら、我が部族にも、希望が残っていたのかもしれない」


 アメジストは、重苦しく口を開いた。


「生きている」


「?」


「サリーンの娘は、生きている」


「?!」


「俺が拾った」


 アメジストは、信じられない形相で、まじまじとランビーノを見た。

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