見た側の方が気まずい
セットしていたアラームの音で、私は目を覚ました。いつもはアラームなんてセットしてないんだけど、今日は早めに起きておきたかったからだ。理由としては、昨日の夜にお母さんが「明日はいつもよりちょっと早めに家を出るから、もし私がいるうちに起きてこなかったら瑠菜ちゃんに起こして貰うからね」と言ってきたからだ。確かに私は基本好きな人相手でも別にオシャレをしたりとか、見栄えを気にしたりしない。けど、けどだ、寝顔を見られるのは普通に恥ずかしい。
そういう理由で付けたアラームを止め、二度寝しないように気をつけながら、私はもう一度目を閉じた。
そこでちょうど玄関の扉が開く音がした。
瑠菜が来たのか、お母さんが仕事に行ったのかどっちだろう。
「瑠菜ちゃん、後はよろしくね〜」
「任せてください!」
そう考えていると、下の階からそんな声が聞こえてきた。
……よし、起きるか。
ベッドから体を起こし、まだ私が寝てると思ってる瑠菜も起こしに来ないだろうと思い、パジャマから制服に着替え始める。
私がパジャマを脱ぎ、下着姿になった所で私の部屋の扉が開いた。
「あ」
瑠菜が開いたんだ。
「えっ、れ、れーな!? お、起きてたの!?」
「さっき起きた」
「ご、ごめん」
そう言って顔を赤くした瑠菜は慌ただしく、下の階に降りていった。
……おかしいな。階段を昇ってくる音とか聞こえなかったんだけど。
私を起こさないようにゆっくり登ってきたってことかな。そのおかげで下着姿を見られたわけだけど……割と気にならないな。
私が瑠菜の立場だったら動揺したかもだけど、見られる側だったらなんか……気にならない。
そんなことを考えながら、制服に着替えた私は瑠菜が居るであろう、リビングへと向かった。
「おはよう」
私はさっきのことは気にしてないから、という意図を込め、リビングの扉を開けたと同時に、自然にそう言った。
「お、おはよう……ございます」
瑠菜はまだ動揺してるのか、顔を俯かせて上擦った声でそう言う。
私はいつも通り、瑠菜が座っている場所から一定の距離を取って座る。昨日は瑠菜がここに座ってと言ってきたから座ったけど、何も言われなかったらいつも私はこんな感じだ。
ただいつもと違うのは、私が距離を取って座っても、わざわざ私に近づいてきて座ってくれていた瑠菜がそのままの位置にいることだ。
……私から遠くに座っておいて、近づいて来てくれないのを残念に思うのはおかしいんだと思う。
だから私は机に置いてあった、パンを食べ始める。
「れ、れーな? さ、さっきはごめんなさい。起きてるとは思わなくて……」
黙ってパンを食べ始めた私に向かって瑠菜は遠慮がちにそう言ってきた。
「気にしてない」
さっき挨拶に込めた意図が伝わっていなかったのかと思いながら、私はそう口にする。
「で、でも……」
まだ気にしてる様子の瑠菜に向かって、私は疑問を口にする。
「そんなことより、こっち来ないの?」
「え?」
「いつも、来るじゃん」
素直に来て欲しいって言えればいいんだけど、自分から遠くに座ってるんだから、遠回しに、来て欲しいという意図を込めて言う。
瑠菜は黙って、私と肩が触れ合う距離に、近づいてきた。
「……来て欲しかったの?」
……なんで、こういう意図は読み取ってくるんだろう。読み取って欲しいところは、読み取らないくせに。
「……別に」
わざとらしく瑠菜から目を逸らしながら私はそう言った。
「そっか」
瑠菜は嬉しそうにそう言い、私に抱きついてくる。
今なら、信じてくれるかもしれない。
「瑠菜、好き」
「……嘘」
「嘘じゃない」
瑠菜は黙って、私を抱きしめている腕に力を入れてきた。
これがどういう意味なのかは分からないけど、まだ信じて貰えてないのは分かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます