間接キス
「瑠菜、そろそろ」
「だめ?」
「……約束でしょ?」
「うん……」
瑠菜は渋々ではあるけど、繋いでいた手を離してくれた。
「……帰る時はまた繋いでいいから」
「れーな……好き」
「私も」
「嘘」
「嘘じゃない」
そんなやり取りをしている内に私たちはクレープ屋に着いた。
「れーなはどれにする?」
「私はこのチョコバナナのやつ」
「じゃあ、私はこっちのいちごのやつにするね」
何がじゃあなのかはよく分からないけど、その二枚を買った。私は食べながら帰ろうと思ってたんだけど、瑠菜が私と手を繋ぐ時間が減っちゃうと言うので、食べてから帰ることになった。
「れーな、美味しい?」
「まぁ、美味しい」
「……ひ、一口貰っていい?」
「はい」
私は特に何も気にせずに私が食べていたクレープを瑠菜に差し出す。私がされる側だったら恥ずかしかったけど、する側だったらただ瑠菜に私のクレープを差し出すだけだし、簡単だ。
瑠菜が頬を赤く染めながら、私が差し出したクレープを食べる。妙に色っぽく見えるのが不思議だ。
「お、美味しい」
「そう」
私は自分のクレープを食べようとして口に持っていっていた腕を止めた。
「れーな?」
瑠菜にはそれが不思議に見えたのか、未だに頬を赤く染めながらも首を傾げている。
……これ、瑠菜がさっき食べたんだよね。……完全に忘れてたけど、私のを瑠菜に食べさせるってことは、私も瑠菜と間接キスすることになるんじゃん。
だ、大丈夫。瑠菜は嘘って思ってるけど、私は瑠菜のことが好きだし、もう付き合ってるんだし、幼馴染っていう関係を利用してってことも無いんだから、普通にすればいい。
私は止まっていた腕を動かし、口にクレープを運び、瑠菜の唇が付いた部分を食べた。
味は当然だけど、さっきと変わらない……なのに、何かが違う。
「私との間接キス、緊張した?」
突然瑠菜がそんなことを聞いてきた。
「……した。好きな人とのだし」
どうせ信じて貰えないだろうと思いながらも、私は正直に言った。
「ふーん」
「信じてくれた?」
「キス、してくれたら信じる」
「それは……まだ無理」
「やっぱり嘘じゃん」
「嘘じゃない」
「嘘だよ。好きだったら、したくなるもん」
……瑠菜は私としたいってこと?
と言うかそもそも私……
「別に、したくないなんて言ってない」
「えっ」
「好き、だから」
こういう時、もっと表情を柔らかく出来たら信じてもらえるのかもしれないけど、もう表情に関して諦めよう。
「……嘘」
「嘘じゃない」
それからはお互い一言も発さずに、クレープを食べた。
食べ終わった私たちは無言で帰り道へと歩き出した。
私は今日はもうそのまま帰るのかと思ってたんだけど、瑠菜が人気のない場所まで来たら少し俯き、遠慮がちに私の手を握ってきた。
正直今日は、もうこのまま帰ると思っていたので、私は少し体をビクッとさせてしまった。
だからだろうか、瑠菜が口を開く。
「帰りに人気がなくなったらいいって言ってたから」
「好きにして」
「……うん」
それ以降、私の家に着くまで特に会話はなかった。でも、気まずい雰囲気なんかじゃなかった。
長いこと一緒に居るし、お互いが何も喋らずにいることがなかった訳じゃない。でも、今日は手を繋いでたからか、いつもより心が落ち着いた。
「……じゃあ、また明日ね。れーな」
「また明日」
もう暗くなってきてたから、私の家に寄っていくこともなく、そう言って瑠菜は自分の家へと帰って行った。
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