第88話 : special BIG SIZE(一部碧の眼)

 小箱には「sizeXXL for special BIG SIZE」と英語の表記がある。

 これって……


「隠れて開けろよ」


 厳重な包装に包まれた箱を開ければそこにあるのは避妊用のゴム製品だ。


「なんでこれを」

「お前、日本人サイズだとどれも使えないだろ。わざわざ北欧から通販で買ったんだぞ」

「孟君、それってまさか」

「春満だってゲンのカラダがどんなものだか知ってるだろ」

「変な言い方しないでよ」

「だったら尚更どうしてそれが必要かわかるだろ。なあ、ゲン」


 その話題を俺に振らないで欲しい。


 一力とは何度も同じ風呂に入ったことがある。会社の近くにあった銭湯には午前零時の閉店間際によく二人で行ったものだ。その頃からコイツには「、規格外にデカいだろ」と言われてきた。

 他人と比べたことはないし、修学旅行の時だって風呂ではボッチだったから、誰にも関わらないように眼はずっと壁を向いていたので他人の持ち物は全くわからなかった。

 ただ、黒人男性が出演しているAVを見た時に「俺よりも小さいな」と思ったことは何度もあった。


 ある時、一力の家でバーベキューをしていて俺が服を汚したことがある。

 春満が急いで濡れタオルで汚れを落とそうとして、ショートパンツに手を入れたのだ。その時にコイツは手を止めて「、なんなの……」と言われたのは覚えている。


 その後ヨーロッパに視察に行って、皆で飾り窓へ行こうという話になり連れて行かれた。その時、ベッドまで案内してくれた女性が「Wow!! …… too big …… great! but I cannot……」と言って、結局相手をしてもらえず童貞解消とならなかった。

 それから俺はもう一生童貞のままなのかと思っていた。

 つい先日碧と結ばれるまでは……あれっ、碧とはどうしてできたんだろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 夫が頂いたものがチラリと見えた。

 そして春満さんの旦那様である孟さんの言葉だと彼のは実に凄いらしい。


 私はと言えば何の違和感も感じなかった。

 凌雅さんのだって夫と同じくらいの大きさ──ちょっと大きな缶ビールくらい──だったから、それが男性にとって当たり前の大きさだと思っていた。


 介護の仕事をしていると他の方のモノを見る機会はあるのだけど、高齢であることと、血が溜まった状態ではないので、若い男性のそれとは全然別物だと思っていた。入所者の皆さんも若い頃は皆それ位大きくなったモノだと……ひょっとして私、ガバ●●なの? 嫌だぁ。


「碧ちゃん、顔が真っ赤よ」


 春満さんから声を掛けられたが、今更もうどうでもいい。

 私が無知すぎたという事実から導かれた自分のカラダが普通ではないという事実があまりに恥ずかしい。いや、大好きな人をきちんと受け入れることができたことを誇るべきなのかも知れないけど、そんな気持ちよりも、人様に見られる場所ではないとは言え、自分のということを理解してしまった今は誰にも顔向けできない。


「いえ、その……」

「つ、と、む、碧ちゃんを傷付けたわね」

「えっ、俺が」

「ちょっと話があるわ! こっちに来なさい」

「待て、痛っ!」


 春満さんが旦那様の耳をつまみ、別の部屋に行ってしまった。何やら「ごめんなさい」という彼の言葉が聞こえてくるけど……



「えっと、あの、その……」


 夫はバツが悪そうに声を掛けてくる。私はどう反応して良いのかわからない。


「碧、ごめん。俺、自分がどれ程のを持ってるのか自覚がなくて……碧を傷付けていたのだとしたら謝るし、今後を一切しなくてもかまわない。でも、これだけは分かって欲しい。俺は碧と一つになれてとても嬉しかった「あなた!」」


 なぜ彼が謝るのだろう。私はカラダを合わせている時にとても気持ちが良かったし、それは前夫でも全く同じ事だった。寧ろ私の方が普通でないカラダを抱かせてしまって申し訳ない気がしている。


「あなた、私の方こそごめんなさい。いえ、私、自分のカラダがどういうモノか全然知らなくて……その、幻滅したでしょ」

「ううん、俺、本当に嬉しかったんだよ」


 夫の口から出たのは異国の飾り窓での話だ。気の毒だとは想うが、女性の気持ちも分かる。あれ、なら私って神様に選ばれた相性抜群のパートナーってことなの?


「碧とじゃなければきっとそういう体験ができなかった。だから恥ずかしがったり自分を卑下したりとか絶対にしないでくれ。それは俺が否定されているようで辛いから」


 私は無言で頷くことしかできない。

 凌雅さんの時にも感じた赤い糸がどんどん太くなっていく感覚。この人と結ばれて良かったと思えるどこか高揚した胸の内。



「俺はありのままの俺を受け入れてくれる碧が大好きだよ」



 その日の晩、大いに盛り上がったことは言うまでもなく。

 夫は無理に子供は要らないと言っていたし、私も今からもう一人育てるのは大変だと思っているから有り難くプレゼントを活用させていただいた。


 因みに頂いた全部で二十個だったけど、使い切るまでにさほどの時間がかからなかった(春満さんの旦那様が言っていた半年どころか三ヶ月持たなかった)ことは二人だけの秘密としておかないと。

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