第69話 : 決断(碧の眼)
私はどこかで間違えた人生を歩んでいたのだろうか。
凌雅さんを一筋に愛することへ私が意固地になりすぎていて、凌雅さんだけでなく、ゲン君も柔も、そして春満さんのことも悲しませていたのではないかと薄々感じてはいた。
ゲン君の愛情を素直に受け入れることが誰にとっても最善の選択肢になるのではないか。そんなことを考えるたびにそれは凌雅さんへの裏切りであると自分の中で歯止めを掛けていた。
が、それが皆を悲しませている。
亡き母から「人を悲しませないように」と何度も言われていた。
病弱で祖父母から「そんな体に産んでしまって申し訳ない」と常日頃から言われていたという母が、その悲しむ顔を見たくないという思いから私にそう言っていたのだ。
私が今の自分の気持ちに素直になれば皆が幸せになれるのかも知れない。
春満さんの言葉はそれを再確認させてくれた。
ならば……
春満さんはゲン君と一緒に暮らすのであれば、結婚という形式に拘らなくてもいいだろうと言っていた。
ゲン君からプロポーズめいた言葉を貰い、正直、私は私自身にケジメを付けるために再婚しようと思っている。
ただし、それを今は春満さんに言わない。言ってしまえばゲン君がそれを受け入れてしまうだろう。ゲン君はとても優しいから、私に負担を掛けないように同居するだけで良いと言ってくれるはずだ。それは私にとってのいいとこ取りではあるのだけど(ゲン君に万が一のことがあった時、遺産は入ってこないけど、その為に結婚するなどと言うのは言語道断だ)、それこそゲン君に対して無責任な立場になってしまう。
夫婦になることで私がゲン君に対する責任を背負うことを明らかにしたい。と言うかすべきだろうと思う。それは私の覚悟を見せることでもある。
ゲン君がしてくれたプロポーズ(凌雅さんからは「結婚して欲しい」と言われたけど、ゲン君はそこまでハッキリと言ってはいない。それでもそう言う意味で間違いないだろう)をきちんと受けよう。ゲン君とのことに関しては私はもっと素直であって良いのだ。そして凌雅さんが私のことを安心して見ていられるように幸せになれば良いのだ。
その上で次は柔が幸せになれるよう、ゲン君と二人でサポートをすれば良いだけのことだと理解もしたし納得もした。
「凌雅さん、ごめんなさい」
自然と出てきたのは謝罪の言葉だ。
凌雅さん以外の人を愛してしまったこと、それを拗らせた故に彼を悲しませてしまったことへの申し訳なさがこみ上げてきてしまったのだ。
『碧、幸せになっておくれ』
そんな言葉が聞こえた気がした。
優しかった夫は今でも変わらず私を応援してくれている。そう想わずにはいられなかった。
「うん、絶対に幸せになるわ」
涙が零れ、やがて下半身が熱くなるのを感じた。
妻としてオンナとして私はゲン君とともに歩むのだ。
春満さんには心を助けられているばかりだ。
ゲン君が第一なのは間違いないけど、春満さんにも恩返しをしないといけない。その第一歩が彼女の下で働くことであるのならそれも受け入れよう。
これまでも幾つかの仕事は経験してきたから役に立つこともあるだろう。彼女は仕事を与えることを方便だと言っていたけど、私はそれを徹底的にやり切ってやる。
柔にもこのことを伝えなければならない。
あれだけゲン君に懐くようになっているから理解してくれるだろう。
それをどんな言葉で伝えるべきかを考えている自分がいた。
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