第72話 : 合宿の主役
春満の奴、食事の時以外は別行動だったんじゃないのか。
「部長、次は私が人参を切りますね」
いつの間にか俺の班にいる部長と仲良くなっていて、料理に参加している。
「春満お姉様、よろしくお願いします」
「お任せくださぁい」
部長、それ言っちゃダメ。サラダが絶対に食べられなくなるから──どうしてサラダで食べる人参を乱切りにするかな──あ、指から血が出てる。
「いっ、たぁ~い」
痛いのはわかるが、ぶりっこトーンでそれを言うか。
「お姉様、消毒液と絆創膏です。少し休んでいてください」
「はぁい❤」
お前わざと指切っただろ。ニコニコしながらこの場を離れていくな。
「ゲンちゃん、ちゃんとお料理してね」
言われなくても分かってるわ!
頭が痛いどころか、皆に迷惑を掛けて申し訳ない。あとで俺から謝っておかないと。
結局乱切りの人参を俺と部長で千切りにやり直した。多少は料理が出来るのが幸いした感じだ。
俺達が作ったサラダは二種類。レタスやキャベツをメインに、人参、ピーマン、オクラ、トマト、キュウリ等を入れた一般的なものとカボチャを使い、そこへ上記の野菜の他にハムやサラダチキンを混ぜたものが出来上がった。
「
なぜそこで春満がつまみ食いをしている。それも口に入れながら喋るって……お前は幼稚園児以下か。
「美味しければ沢山どうぞ」
部長、あなたもダメだよ。春満相手にこんな対応をする社員は減給の対象だから。
「部長様、ありがとうございます。就活の際に我が社を選んで頂ければ私の権限で即幹部候補生として採用しますし、ボーナスも弾みますからね」
とんでもないことを言い出してる。もうどうでもいいから帰れ!
「ゲンちゃん、部長様の許可が出ていますからね。オホホ」
どこをどうやったらあのカタブツ部長をここまで籠絡できるんだか。コミュニケーションお化けの実力を思い知らされた気がする。
が、ダメなものはダメというのも経営者なのだ。
「どこの社会にもルールがあることは知ってるだろ」
「ルールは人が作った物、だから人が変えても良いものなの。経営者だったならわかるでしょ。税金のルールなんか毎年変わっているし、我が社の採用基準だって何回も変えてるでしょ」
どこかで論点をすり替えられている気がしないでもないが、これ以上ここでコイツの相手をしているのは悪手だ。
「ここで話している暇はない。あとでしっかり話すから今はここにいないでくれ」
「勿論そのつもりよ。あっちには美味しい炊き込みご飯も天ぷらもあるもんね」
全部の場所でつまみ食いをするつもりかって……こら、蒼衣の方へ行くな。蒼衣、春満に天ぷらを渡すな……あ~あ、こっちを向いてアカンベーをしているじゃないか。俺が部長になったら絶対にコイツをたたき返してやるぞ。
そんなこんなで宴会が始まった。
そして、輪の中心には……なぜか春満がいる。
あのねぇ、俺は青春をしたくて、仲間を作って楽しみたくてこの場にいるの。学生でもないお前がなんで主役になってるの?俺の立場はどうなんだよ。
「ぷふぁ~、さあ皆、これからガンガンやるよぉ! エイ、エイ、オー」
「「「「「オオー、おネエさん、サイ! コォー!」」」」」
え、シラけてるの俺だけ。
春満、家に帰ったらお前は絶対にメシ抜きだぞ。
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