第62話 : 家族? 保護者?

 体育の授業の後、全ての講義が終わってから畑に行った。

 今頃が夏野菜の収穫最盛期で、トマト、キュウリ、茄子、ピーマン、オクラ、枝豆、インゲンなどがこれでもかと収穫できる。

 雨合羽を着ながらの収穫だったが、数名の部員で運ぶには量がありすぎる。


「お待たせ」


 そこで俺が用意したのは軽トラックだった。中古車屋に近距離しか走らないから適当な物をと依頼していた。

 以前はどうしていたのかと問えば、こども食堂の運営者に連絡をして取りに来て貰ったこともあったらしい。


 軽トラックは万能車で、家庭菜園程度ならあらゆる物を運べる。

 皆のためになるし、俺自身もその小ささ故気楽に運転できるからと即金で購入。最近は二人までの乗車ならもっぱらこれを使っている。


 荷台にシートを被せ、部長を助手席に乗せたらこども食堂をハシゴする。

 配り終えたところで部室に戻ると皆が待っていて、その人達が運んできた分の野菜が並べてある。これは俺達の取り分なのだそうだ。

 今日は柔先輩がバイトの都合でいないので、俺の分だけがそこに置いてある。

 彼女と同居していることは公認なのだが、いつも皆が気を遣い、それぞれの分を分けてもらっていた。いつも充分過ぎるほどあるので、今回は自分の分だけで良いと伝えておいたのだ。


「失礼します」


 学校の目の前にある時間貸し駐車場に駐めてある軽トラックに野菜を載せたら、助手席に蒼衣が乗り込んでくる。

 歩いて数分の距離だから自分で帰れと言いたかったが、最近は自らの指定席だと思っているらしく、俺が軽トラックに乗る時はこうしてやって来ることが多い。


 乗用車と違い、助手席との距離が近いし、乗り心地もポンポン跳ねる気がしている。そもそも設計時の目的からして違うから文句を言う筋合いではないが、困ることもある。


「あっ!」


 シートベルトをしていても、蒼衣はまっすぐに座っていない。身体をこちらに少し傾けているからちょっとの振動で身体を支えるための手を俺の腿に添えてきて、その度になぞるように手を動かしていく。若い女性特有の柔らかい感覚がズボン越しにもわかり、軽いゾクゾク感がある。ハッキリ言って運転中はかなり危ない。


「蒼衣、姿勢」


 なので、まっすぐに座るよう伝えてあるのだが、癖なのか毎度毎度こういうことが起こる。

 世の男共は妙な誤解をしてしまうんじゃないかとちょっと心配になる。


「ごめん、いつも」


 素直に謝るところはとても良いのだが、そうなる前に行動して欲しいと思うのは俺だけだろうか。


「降りるぞ」


 段ボール箱にてんこ盛りで野菜が入っている。

 俺一人でも抱えられるのだが、これを持って歩くのは結構大変なので駐車場に駐めてあるもう一台の車──ワンボックスカーだ──に運ぶための台車を用意してある。

 で、この台車を押すのだが……なぜか蒼衣と二人で並んで押している。


「近いぞ」

「栗原一人だと大変でしょ」


 だからこその台車なんだけどな。この程度の重さなら何等問題はない。それより……


「おお、危ない」


 さほど大きくない台車を二人で押せば腕がぶつかるのは必然で、蒼衣の華奢な腕が当たってくる。


「うん、気にしてないから大丈夫」


 俺は気にしているけどな。

 最近は野菜を収穫するたびにこんなことをしている気がする。たまに柔先輩と一緒に乗る時もあるが、彼女は俺に任せきりだからその方がうんと楽だ。

 共同作業が全てに優れている訳ではないという見本だと思っている。


 ともかくも俺の部屋に着いた。


「おかえりなさい」


 碧がいる日はその一言が心地よい。


「碧さんこんにちは、またよろしいですか」

「そのつもりよ」


 ここ数日は俺達に加え、レギュラーメンバーの春満と準レギュラー化しつつある蒼衣が一緒になって食事を摂っている。時折そこに重松も加わる。


 同年代が三対二だと家族ぐるみのお付き合いに見えるのか。大学生三人が揃っていると思えば保護者と子供に見えるのか。

 そんなことを考えながら、今日採れたキュウリやトマトが入ったマカロニサラダを口に入れるのだった。

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