第52話 : 柔の責任感
「助かったぁ」
「ああ、本当だな……でも、ごめん」
俺と柔先輩は二人とも畦道に座っている。
あれから数分間脛を引き続けた俺は腕が痺れてしまった。それとほぼ同時に一太郎さんが駆けつけてくれ、二人がかりでようやく彼女を助け出し、今は休憩を取っている。
彼女はサロペットを脱ぎ、腿を晒している。俺が力を掛けて掴んでいたせいで、そこが赤くなっていて、痛々しい。その上で一人では助けられずとても申し訳なく思う。
「ううん、仕方ないよ。後輩君は私を助けようとしてくれたのだし、私は一人ではどうにもならなかったし。後輩君がいなかったらまだ田んぼの中で助けを呼んでいるところだからね」
「そう……少しは役に立ったのか」
「もちろんだよ。お蔭で皆に迷惑掛けちゃったけど……」
さっきまで頬や首を流れていた汗は治まってきた。
山肌を下ってくる風が木々に当たり、適度に弱められて自分達の汗を乾かしている。横を見ればTシャツ越しにスポブラが透けて見えている。仕事に対するこういった姿勢は流石だと思う。
もう少しで午前の仕事が終わる時になり、彼女はサロペットをはき直して田んぼに向かおうとした。
「もうすぐ昼だぞ」
「でも自分の分だけはきちんとやっておかなきゃ」
一太郎さんから無理はしないで良いと言われているが、彼女の責任感から休んでいることはできないのだろう。
「そっか、それなら俺も」
「後輩君は休んでいて頂戴、私がその分をやっておくから大丈夫よ」
そう言いながら田んぼに入っていった。休んでいたせいか慣れたのか、彼女の動きが少し軽くなったように見える。
「どれ、俺もやるか」
起とうとした時に防災無線が正午の音楽を鳴らした。
皆が上がってくる中、柔先輩が一人で作業をしている。
「柔、お昼食べよ」
「大丈夫、自分の分を片付けたら戻るから」
碧が今日のために用意してくれた弁当を皆で食べる。
梅干しや鮭が入った定番のおにぎりと肉じゃがやポテトサラダなどのおかず類が三段重に収められている。食後のデザートにと俺の好物のプリンまで揃えてくれているという気配りぶりだ。
「うまい」
これ以上の言葉が出ないのが情けない。
しかし、事実を端的に表す言葉としてはこれが最上だとも思う。ご飯が進むようにといつもより濃いめの味付けにしたと聞いたが、これだけ汗を掻いているから水分を同時に取るのにもこの方が良い。ペットボトル入りのお茶がどんどん消費されていく。
「はぁ、終わっ……た」
俺達の食事が終わりかけてきた時に柔先輩が戻ってきた。
そして、彼女は俺の目の前で倒れた。
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