第42話 : 協力者(春満の眼)

 あ~あ、ゲンちゃんたら碧ちゃんにベタ惚れじゃん。何なのあの顔、私はそんなの見たことないんだから。

 とは言え、本人はそれを無意識に押さえ込んでいるのよね。やっぱりキーパーソンは柔ちゃんね。となると、さて、どうしましょう。


 まずは──


「さて、ここに長居をしても迷惑でしょ。そろそろお暇しますね」


 私の声にこちらを向いた蒼衣ちゃんと重松ちゃんに目配せして、この場を離れることにした。二人の気持ちの確認と今後のことについて話し合うつもりだ。二人の気持ちによっては無茶苦茶難しいミッションになるけどそこは心を鬼にしないと。


「失礼しますね」


 ゲンちゃんの部屋のドアを閉めると私は一緒に出てきた二人に自分の部屋に来るよう促した。



「わぁ」


 重松ちゃんは初めて私の部屋に来るので、目を丸くしている。普通の人はそう言う反応になるわよね。


「そこに座って」


 おっきな鯨の形をしたソファ(米国から通販で直輸入したものだ)に二人を座らせる。蒼衣ちゃんは何度かここに来ているけど、あまり落ち着いた様子ではないわね。二人ともどこかモジモジしている感じがしている。

 んっ、モジモジ──


「ごめん、トイレはそこね。自由に使って」


 あれだけコーヒーや紅茶を飲んだからそりゃね。

 スッキリした様子の彼女達にどうしても確かめておきたいことがあってここに来て貰ったのだ。


「重松ちゃん、お疲れ様。蒼衣ちゃんもお疲れでしょ、だから単刀直入に聞くわ、あなた達はゲンちゃんのこと恋愛対象として見ているの」


 まさかこんなことを訊かれると思わないわよね。案の定、動揺している姿が少なからずわかるもの。


「私は、その……栗原っちのことがす、好きです。ただ……恋愛対象とかそう言うことではなく、人生の大先輩として、大恩人として尊敬するというか。例えれば憧れの社会人みたいな、そんな……」

「私も栗原のことが好きです。本当の大恩人だし、今の私があるのは栗原のお蔭です。だから少しでも一緒にいたくてここに越して来たりまでしました。出来れば一緒になりたい気持ちはあります。でも、恋愛と言われると……そもそも恋愛と言うことが良くわからないし」


 ふむ、二人とも好きという感情はあるのね。

 重松ちゃんはともかく、蒼衣ちゃんはゲンちゃんを堕としたいという気持ちはあるのね。言葉を聞く限りは恋愛とはちょっと違うようだけどね。ともかく確認しておきましょ。


「大人にとっての恋愛ってね、相手を抱きたいかどうかよ。ハッキリ言えばセックスしたいかどうか。女性にだって性欲はあるから栗原を想像して、彼に抱かれている姿が浮かんでくれば恋愛と言って良いわよ」


 若い子相手にストレートすぎるかな。でもこれが一番てっとり早いと思うのよね。結局最後はカラダの関係になっていくのだし。


「そ、それは……」


 あらあら、重松ちゃんたらそんなに初心だったの。顔を真っ赤にしなくても良いのに。今の子にしては驚くほど素直なのね。


「考えたこともありませんでした。というか、考えられません」

「それはどういう意味」

「いや、そもそも誰かとそのセ、セックスなんて」

「でもいつか誰かとするかも知れないわよ。重松ちゃんだってオンナなんだから」


 そうよ。貴女みたいなロリ巨乳はいくらでも需要はあるはずよ。

 でも彼女はそれを自覚していないみたい。


「いえ、私はまだ誰ともそんなことをしたいと思ったことはなくて……」

「そう、わかったわ。でもゲンちゃんがどうのこうのではなくてね、女性として抱きたい、抱かれたいと思うのは自然な感情よ。それを押し殺すようなことだけはしないでね」

「は、はい」


「私は抱かれても良いです。その位は差し出す覚悟があります。もともといずれは結婚しても構わないつもりでここに来たのですから」


 差し出すって、操は品物じゃないんだから。そんなつもりで結婚しても苦しいだけなのに……まだまだ若いわね。


「命の恩人に対するお礼としては随分軽いものだと思いますけど」


 冗談じゃないわね。ゲンちゃんが謝礼で処女を貰って嬉しいって言う訳ないじゃない。この子はどこか勘違いしているわ。お金がありすぎるとそういう風になってしまうのかな。ウチの子供達はそうじゃないはず──だよね。


「蒼衣ちゃん、ハッキリ言うけど、女性は商品じゃないのよ。ましてお礼なんてもので身体を差し出して良い訳がないわ。それと貴女は普通の女性とは少し立場が違うからもっと慎重になりなさい」

「それは……」

「女性はね、どうしても妊娠のリスクがあるから絶対にこの人とじゃないとダメと言えるほどでないとセックスしてはダメよ。絶対に勢いでするなとは言わないけど、それは相手次第だし、そこを見分けられないようじゃまだお子様だからね」


 まあいいわ。それぞれの気持ちがある程度知れたから。


「二人の気持ちはわかったわ。それぞれゲンちゃんのことは嫌いじゃないし、恩を感じているということで間違いないわね」

「「はい」」


「ところで、さっきのゲンちゃんと碧ちゃんを見て二人はどう思ったかしら」

「悔しいけど、栗原とお似合いなのかな、と」

「私もあの二人は羨ましいくらいです」


 ふむ、私と見立ては一緒ね。若い人達から見てもカップルに見えるのね。

 ならばあとはやはり柔ちゃんか。


「ねえ、貴女方私と組まない」

「「え」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る