第5話 : 同級生達との出会い

 ゲンダーム、俺が使ブログ上のハンドルネームだ。

 五年くらい前に半年間ほどその名前でブログを書いていた。しかしその事実を知る者は極々一部の人間で、それも会社関係の人物だけ。指で充分勘定できるだけの数だ。

 誰かが俺であることを漏らしたのだろうか……

 それよりもそんなことを何故覚えている。俺だって今や記憶の片隅にしかないものなのに。


「ゲンダーム?」


 矢口が首をかしげて蒼衣を見るが、表情一つ変えずに


「失礼しました。栗原さん、ですよね」


 これまた丁寧な所作で頭を下げた。

 色々と追求したいところだが、ここは学食だ。それに俺がゲンダームであるという事実を知っていたとして、俺に何らかの不利益があるとも思えない。


「そうです。でも俺は一年生ですから敬語を使われるのはちょっと……」

「失礼しました」

「そうだよ蒼衣ちゃん、うちのサークルじゃ年の差なんて関係ないんだから」

「はい」


 しかし、この子は一体何者なのだろう。あのブログはとうの昔に消してあるし、ログを残してあるUSBだって何処にあるか覚えていない程だというのに。

 彼女はその後、一切ゲンダームと発することなく、普通にうどんを啜っている。

 まあ、いずれ真相がわかるだろう。

 そう思いながら最後の一口のためにスプーンを運んでいると


「矢口せんぱ~い♥」


 そんな甘ったるい声がした。

 全員の目が向いた先には、一人の少女がいた。


「せんぱ~い、こんにちは。お昼一緒に食べてもいいですか」


 身長は百四十センチ台だろう。童顔、アニメ声。が、何よりも目立つのは体に似合わない巨大な胸だ。漫画かフィギュアの世界みたいなスタイルをしている。

 

るなちゃんは相変わらず元気ね」

「へへ、それが取り柄ですから。あ、美櫻ちゃんもこんにちは~」


 どうやらここにいる三人は互いに知っているみたいだ。

 俺のはす向かい、矢口の隣に彼女は座ったのだが……


 彼女のトレーにはおにぎりが一つとお茶があるのみ。

 いくら小柄な女性とは言え、これで足りるわけがない。


「月ちゃん、彼が入部予定者の栗原君」

「栗原玄一です。よろしく」

重松しげまつるなです。宜しくお願いします!」


 とても良く通る声で自己紹介をしてくれたはいいが、周囲の注目を一手に集めてしまう。


「なにあのオッサン、なんであんな子供と一緒にここにいるの」

「え~、あれがパパ活ってやつなの?」

「あんな小さな子供みたいな人相手って、あの人ロリコン」


 俺の耳は超高性能なマイクロホンみたいに音が拾えるから、自分にとってよろしくない声が聞こえてくる。

 とにかくこの場を収めないと。


「あの、もうちょっと小さな声で……」


 視線に気付いたのか、重松の顔が真っ赤になる。


「ごめんなさい! 栗原さん、ごめんなさい」


 その声もとても良く通るため、余計視線が刺さることになり、


「みんな、場所を変えようか」


 矢口の提案で、重松以外はトレーを返し、彼女はおにぎりを片手に『学生活動棟』つまりサークル棟まで案内された。


「ここならゆっくりできるさ」


 連れられてきたドアには『栽培研究会:アグリスタイル』の文字が書かれ、その下に大きなカボチャの絵が描かれていた。



******


 まだ正ヒロインが出てきていませんね。

 もう少しで登場しますので、ほんのちょっとだけお待ちください。

 序盤はノンビリしていますが、ちゃんとラブコメしますので引き続いてお読み頂きたく存じます。

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