第4話 : 学生生活の始まり
貰った野菜はサラダとして美味しく頂いた。気のせいだろうが、都会で食べるそれとはどこか違う味を感じ、懐かしさを覚えた。
それから何事もないまま数日が過ぎた。
履修案内やら学生生活のガイダンスなどが行われている間、毎日サークルの新歓活動も同時にやっている。
チラリと覗いてみるものの、やはり自分の年齢だ部外者と思われるのか、どこでもキチンと相手をしてくれない。
そんな時、一力からメッセージが届いた。
『青春、楽しんでるか…Wwww』
仕事を辞めたのは確かだが、会社に名前だけは欲しいと言われている。
俺が高校生の頃から共同創業者として起業のため苦労してきた間柄だ。だから完全退職ではなく社外取締役として籍は置いてあるし、報酬も支払われている。
そんなことで、時折彼からはメッセージが来る。
『まあまあだ』
そう、今のところ可も不可もない生活は送れている。
一人暮らしは慣れているし、家事全般はそこそこできるから不自由は感じない。勉強も教養課程が中心だからさほど忙しくないと言われている。
だから、本格的に講義が始まるまでの数日は全くやることがない。
こんな時、高校を卒業したての人間ならどうするのだろう。
【新入生歓迎会の案内】
自室でゲームも動画視聴もせず、文庫本を開いて横になっていたらそんなメッセージが届いた。
差出人は矢口からで、サークルに興味があれば三日後に参加して欲しいと書かれている。
正直、好きでもなければ嫌いでもない。間違いなくインドア派だから、土いじりなんて想像できない。要するに興味がないのだ。
とは言え、何処のサークルでも学生扱いされなかったのだから入部するならここしかないのかも知れない。
老後の趣味として何かを育てることをしても良いか。およそ学生とは思えないような動機で参加する旨を返信した。
待ちに待った講義初日、最初に学ぶのは第二外国語だった。
ドイツ語、フランス語、中国語、韓国語、ロシア語、スペイン語、そしてタイ語まである。
予め履修登録してあるのはロシア語を選んでいる。深い意味は全くなく、一番覚える機会がない言葉だろうと思っただけだ。就職に有利かどうかなんて今更関係ない。
ビジネスや現地で生活するのに必要となれば必死で覚えるから、大抵の言葉は環境次第で何とかなることは色々な仕事仲間から聞いている。そして、今までの自分の経験ではロシア語に触れる機会はほぼなかったから、これが恐らく最後の学ぶチャンスなのだろう。
正直、文字からしてチンプンカンプンで、およそモノになるとも思えなかったが、中年男性の頭を刺激するには充分すぎた。自分からすればロシア語も火星語も似たような物だということは理解できた。
この講義は人気がないのか受講者も十人程度で、小さな教室であることと相まって会社でミーティングをしているようだった。大学生と言えば大講堂で講義を受けると思っていたのにちょっと意外だ。
そんなカルチャーショックを受けたのでメンタルが削られ、同時に空腹を感じる。
学食は三カ所あり、大食堂とカフェ、それとファストフードとなっている。
いずれも一度は使ってみたが、やはり学生らしいのは大食堂だった。友人がまだいないのから一人で食事をしているのだが、人間ウオッチングをするのが楽しい。
年齢が違って孤独を感じる面もあるけど、こうして一人で何かに集中することもできるからボッチが悪いわけでもないと思う。
そんなことを考えながら定番のカレーを食べていたら、フイに声を掛けられた。
「後輩君、こんにちは」
俺に声を掛ける人間なんているわけがない。まして後輩君などと呼ぶのは……
もの凄く不審に思って声の主を見れば矢口の顔があった。
「ここ、いいかな」
「あ、はい、どうぞ」
俺の真正面に座る矢口の隣にもう一人女性がいる。童顔の矢口とは違い、とても大人じみた雰囲気のスレンダーな綺麗系美女だ。
矢口も彼女もトレーにうどんを載せている。
「後輩君……って名前は何だっけ?」
「
その名前でスマホに登録してあるでしょ、とは言わない。ここでは彼女が先輩だ。
「ああ、そうだったね。
「蒼衣
「え、えっと……宜しくお願いします」
明らかに矢口よりも年上にしか見えないんだが、こんな目立つ人は受験会場にいなかったはずだ。だが、新入部員だとするとまだ未成年なのか。
彼女はもの凄く美しい所作でお辞儀をした。座ったままでも品位が伝わってくる。普通の学生だとしたらかなり上流階級の出身か、とても厳しい家で育ったかのいずれかだろう。
「あらためて、栗原
「こちらこそ──ゲンダームさん」
彼女が言った名前に固まった。
なぜなら──
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