ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!② ~ヤバすぎぬいぐるみ編
ゆうすけ
ちょっとキモいおじさん、しつこすぎない? 死んでも知らないよ?
これは、この街に住む二人の幼女とキモい男が繰り広げる物語である。
◇
「エーコちゃん、さっきの男の人、キモかったよねー」
黒髪おかっぱの女児が歌うように話しかける。ある日の夕方、ランドセルを背負った女子小学生二人は街中の大きな本屋から帰宅する途上だった。住宅街の帰り道。夕焼けが赤く道路を染めている。春先、すでに陽射しにぬくもりが感じられる時期にさしかかっているが、少し陰るだけで途端に冷気がほほをなでていく。まだまだ季節は冬の寒空を忘れさせてくれない。金髪ツインテールのもう一人の女子小学生は振り返って、人差し指を立て、大人びた表情で黒髪おかっぱ少女を諭した。
「サヤカちゃん、危機感なさすぎだよ。本屋さんなんてヤバい人のすくつだから気を付けろってうちのパパ、言ってたもん」
金髪ツインテールのエーコがたしなめると、黒髪おかっぱのサヤカはぺろっと舌を出して肩をすくめた。
「うふふ、わたしってばわりとお人好しなのかもー。ねーねー、エーコちゃんは将来の夢はなあに? 何になりたい? わたしはねー、髪の毛のいっぱいある人のお嫁さん!」
「はあ?」
無邪気に笑うサヤカに、エーコは露骨にあきれ顔を返す。
「サヤカちゃんは、もう少し現実を見ようよ。髪の毛のいっぱいある人のお嫁さん? そんなのファンタジーだよ」
自分の夢を一刀両断されたサヤカはさすがに少しむっとしたようだ。頬を膨らませて不満そうに聞き返す。
「えー、なにがダメなのお? サヤカ、髪の毛こそ男の人の魅力だと思ってるんだけど。じゃあ、エーコちゃんはハゲのお嫁さんになってもいいのお?」
エーコは分かってないなという様子で首を横に振り、小さくため息をついて言い放った。
「わたし、そもそもお嫁さんに興味ないもん」
「えー、じゃあ、エーコちゃんの将来の夢はなんなのよー」
エーコはニヤリと笑った。
「将来の夢?」
両手を腰にあてて仁王立ちすると、胸を張って叫んだ。
「決まってるじゃない。世界征服よ!」
◇
そのころ、彼女たち二人の歩く道の先にある小さな公園で、一人の男が物陰に身を潜めていた。
「じょ、じょ、女子小学生に、や、や、や、やられっぱなしなんて、ゆ、ゆ、許せない。ぜ、絶対、あの子たちと、な、仲良くなって、や、やるうう! ぐふふふふ」
そしてこっそりと不審な男の必須アイテム、謎の大容量リュックからぬいぐるみを取り出す。
「じょ、じょ、女子小学生と言えば、ぬ、ぬいぐるみ。こ、こ、このぬいぐるみを持ち上げると、な、中に仕掛けた、ば、ば、ば、爆弾が爆発するように、な、な、なってるんだ。うひうひうひひひ」
ぬいぐるみを彼女たち二人の通り道から見えるようにベンチに置くと、男は再び物陰に隠れ、ぐひひひと下卑た笑いを見せた。
「ば、ば、爆発したぬいぐるみに、び、び、びっくりして、こ、腰を抜かしたところに、ボ、ボ、ボクが助けに、い、い、い、い、行く。こ、これで、な、な、な、仲良く、な、なれる。うひうひうひうひひ、うひひひひひひ」
◇
「世界征服?」
今度はサヤカが呆れる番だった。
「そんなことしてエーコちゃん、楽しいの? 何が楽しいのかサヤカ全然わからないー」
サヤカの不満気な問いにエーコは余裕の笑みを返した。
「まあ、サヤカちゃんも特濃牡蛎スープラーメンの全マシを一人前ちゃんと食べられるようになったらわかるよ」
サヤカはつまらなさそうに小石を蹴っ飛ばした。道の上を小石が低く弾んでいく。
「エーコちゃん、ときどき意地悪ー」
サヤカの蹴った小石は思いのほか距離を飛んで道路と公園の境に立っていた鉄の車止め柵に当たった。カーンと澄んだ金属音が夕暮れ時の住宅街に響いた。
「あ、エーコちゃん、見て! ベンチにぬいぐるみがある!」
小石の行方を見つめていたサヤカが声を上げて走り出した。エーコも後に続いた。
「ちょっと、サヤカちゃん、待って」
「わーい! ぬいぐるみだー。これわたしほしかったやつだー!」
ベンチに駆け寄る女子小学生二人を、男が物陰から満面の笑みで見つめている。
「ぐひ、ぐひ、ぐひひひひ。も、も、もう少し。は、は、早く手に、と、取って。そ、そしたら、どかあああああん」
夕焼けの公園のベンチ。ぽつんと置かれたぬいぐるみ。そこに駆け寄る女子小学生二人。サヤカはベンチにたどりつくと、喜色満面でぬいぐるみに手を伸ばした。
「わーい。ぬいぐるみー!」
「待って、サヤカちゃん! なんかそのぬいぐるみ、怪しい! 触らないで!」
「サヤカがもーらいー!!」
「サヤカちゃん、だめーーーーー!」
(続く)
ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!② ~ヤバすぎぬいぐるみ編 ゆうすけ @Hasahina214
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