第44話 恋ばなと夢の国14
しばらくの間四人でジェスチャーゲームをしたり、日向と他愛ない話をしていると、早乗りの方は此方ですと誘導される。やっと動けそうだ。
一般で並んだ人達とは、別の通路を通るのだけど、コレが凄く特別感があって少し嬉しくなる。
並んでいる人達を横目に別の通路を歩いていくと並んでいる人達から、「いーなー」とか「羨ましい」と言った声や、「こっちは一時間以上待っているんだぞ」とか「横入りしやがって」と言った妬みの声も聴こえた。
そんなに言うなら、早乗り取れば良かったじゃないと言う話だけど、そう言う人達に限って他で取ってしまった人が多そうな気がする。二人で顔を見合せて苦笑いしていると、
「あっ、さっき公開告白してた奴らじゃね?」
「あんな恥ずかしい事良くやるよ」
「ほんとほんと、お遊戯会じゃないっていうの」
「いくら可愛くても、あんなのとは、ゴメンだな」
そう言う声と笑い声が聴こえ思わず立ち止まってしまう。
「夜空君、大丈夫だよ、平気だから」
心配そうにこちらを伺う日向。
「ごめんね日向」
僕はどうも、感情を押さえきれ無い様だ。
「ちょっとだけ、やらなきゃいかない事があるみたい。」
じっと僕の方を見る日向。小さく頷いて、
「夜空君……うん、やっちゃえ!!」
日向の方を振り向いて、大きく頷く。うちの彼女最高でしょ?……ごめん、恋人だった。
「おっ、立ち止まったぞ、さっきの続きでもしてくれるのか?」
「どうせ、あいつらみんな世間知らずのビッチなんだぜ」
そう言ってギャハハと笑う声がする。
周りの人達がそれを聞いたせいか気分が悪そうに目を反らした。
以前だったらこれ位のヤジ、スルーしていたんだろうなと思いつつ、軽く深呼吸してお腹に力を入れる。気合いを入れろ!!
僕の事は良い、彼女達の勇気を絶対に馬鹿にさせない。
「この夢の国で、夢願い、愛を語らうのがそんなに可笑しいで事でしょうか?」
騒がしかった空間が一瞬で辺りがシーンとなる。
わざと、芝居がかった喋り方で、両手両足を大きく使ってビシッと決める。
「きっと僕らが幸運にもかかったのは、夢の国の魔法、だからこそ、あの場で優しく聴いていただいたオーディエンスの方々にも感謝していますし、貴殿方にもいつかは真の愛の魔法がかかる事を心から願います」
最後に、にこやかに笑って。
「いつか、誰かをからかうのでは無く、誰かを愛す事が出来ると良いですね」
そう言うと僕は胸に手を当てて、深くお辞儀をした。
そのまま、日向の手を取り先に進む。後ろから声が聞こえる声は無い。多分、羞恥しているか、唖然としているかどちらかだろう。そう思っていたら、「キャー!!」「ブラボー!!」「素敵ー!!」と言った声と拍手が聴こえてきた。しばらくの間、拍手は鳴り止まなかった。
気がつくと先程、色々言っていた人達は姿を隠していた様だった。
二人で少し照れながら、声に会釈しながらにこやかに笑い合いながら先に進むと、キャストのお姉さん達が三人いて、スカートのひだを掴み優雅に挨拶をしてくれて、
「夢の国の素敵な魔法、貴方はきっとキャストにも負けない位の魔法使いなのですね?」
と笑ってくれて。
「今日1日愛の魔法が貴方達に祝福を授けてくれる事を祈ります」
そして最後の一人が、
「では、この先の夢の国も十分お楽しみ下さいませ」そう言うと三人が同じ格好でお辞儀する。
そしてすれ違いざまに日向に「素敵な王子様ですね?」と語り掛けていた、日向は嬉しそうな顔をして大きな声で「はいっ!!」と答えていた。
エントランスを抜けると、そこにはとても大きな物語の絵本、パンダのポーが魔法のタイヤをホワイトティガーから貰って森の皆を巻き込んでの大騒ぎをするって物語だ。
僕らも、魔法のタイヤに乗って暴走するポーを追い掛けていくアトラクションになっている。
見れば千早さんや夕凪さんは先に来て、嬉しそうにスマホで絵本を撮ったり記念写真を撮ったりしている。
「あっお帰りー!!」
夕凪さんが手を振って迎えてくれる。
千早さんが、ニッコリ笑って手を上げる。
日向と夕凪さんが「只今ー」「お帰りー」とふざけながらハグしてるのを横目に千早さんに「お待たせ」と挨拶をする。
「さっきの聴こえてたよー」千早さんが笑いながら肩を叩いてくので、ちょっといたたまれ無くなる。
「やっぱり聞こえるよね?」照れながら頭を掻いていると、
「格好良かったー!!」夕凪さんが日向だけでは無く、僕にもハグしてくる
「えっと、その、ありがとう」
ダイレクトに当たる物に辟易としながら礼を言えば。
続いて日向も抱きついて来そうだなと思って身構えて見るけど、中々その気配が無い為、あれ?と考えていると日向は、そっと僕の手を握って、
「さっきの夜空君は、とても素敵でした」とだけ話して、その握った手の平の力を強くして来た。
その、日向の暖かい手をそっと剥がす。
少し残念そうな顔。僕は剥がした日向の手の平の指と僕の指を絡める、所謂、恋人つなぎにすると最初は戸惑っていたけど、頬を赤くしつつも幸せそうな顔で僕に寄り添って来た。
「でも、少し夜空っちらしく無かったわね?……少し無理してたんじゃない?」
千早さんの指摘はいつも鋭い。最近は疲れていたのか少し鈍感な所も見せてくれていたのだが。昼頃の告白?以来、元の調子を取り戻している。
「ちょっと、張り切っちゃったかな?でも、僕にも、大切な物や守りたい人達がいるから」
「格好つけすぎだよ……でも、ありがとう」
嬉しそうに、でも、恥ずかしそうに千早さんはハニカミながら、僕の左胸の心臓の部分に軽くパンチをする。
「私は今日は、もう充分、後はひなを見てあげて」
僕は千早さんに軽く微笑んで「はいっ」と返事をした。
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