第43話 恋ばなと夢の国 13
「ドキドキしてきた」
何で私、自分から言っちゃったんだろ?こんな事を夜空っちも、やっていたんだ。 私は、あの時、なんて偉そうにしていたんだろう?こんな大変な事を半分強制して……穴があったら入りたかった。
みんなの好奇な目が針の様に刺さる。
夜空っちが心配そうにこちらを見ている。
全く、ひなやゆーなが、あんな事始めるから……。
まただ……私は、また誰かのせいにしようとしてる。
始めたのはひな達でも、やるって決めたのは自分自身なんだ。いい加減に覚悟を決めないと。私の気持ちに偽りは無い。
だから、胸を張ろう。
大切な人の事を言うんだ。自分の気持ちを言うんだ。今の本当の気持ちを言うんだ。
「夜空君私ね、今毎日が楽しいの」
ずっと思ってた。
「最近、受験勉強とかばっかりだったけど、皆のお陰で毎日勉強が楽しいの」
本来だったら辛いだけだった日々がとても輝いてた。
「夜空っちとひながイチャイチャして、ゆうながそれにちょっかいかけて私はそれを怒ったりたまに煽ったり、それと時々」
小さく笑い声が聞こえる。あー今、私の顔真っ赤だなぁ。
「うっ羨ましかったり」
夜空っちも、ひなもゆうなも皆が茶化しもせずに真面目に聞いてる。
「ごめんねひな夜空君……夜空君はひなの彼氏なのにさ、一生懸命勉強を教えてくれたりとか、少し困った事があるとさりげなくフォローしてくれたりとか、男なのにお菓子作ったりやコーヒーをいれるのがやたら上手かったりとか、いつの間にか、その……カッコいいなって」
そして、ひなと夜空君に向かって深くお辞儀をして、
「ごめんねひな、私も夜空君好きになっちゃった!!」
最後は自棄になっていたのかも知れない。でも後悔はない、これで皆との仲が悪くなったとしても後悔は……後悔は……。
「あれ?……何で涙が?……後悔なんて……」
何故か涙が止まらない。涙を拭おうとしていたら、いつの間にか近づいていたパンダ帽を被った男の子が、そっとハンドタオルを渡してくれた。良く見ればハンドタオルにはパンダのポーが描かれていて彼も今日の1日を楽しみにしていたんだと良く解った。
パンダ帽の夜空君を見上げるとニッコリ笑って、
「良く頑張ったね」
笑顔で一言だけ言ってくれた。
その瞬間、溜まってた物が全部出てしまった。もう涙を止める事が出来ない。力一杯、夜空君の胸に飛び込んだ。飛び込んだ胸は意外に広くガッシリとしていて温かかった。
夜空君の胸に顔を埋め力一杯泣いてしまう。恥ずかしいな、こんなキャラじゃないのに……。
「最近、頑張り過ぎていたからね。心が疲れちゃってたね」
夜空君が優しく私の背中をポンポンしてくれる。泣いているのに誰が言ったポンポンマスターって言葉が頭をリフレインして思わず笑いそうになってしまった。
「グズッ、ひなは良いの?」
少し、落ち着いた私は、恐る恐る聞いてしまう。この場所には私の親友でもあり、彼の恋人である天野日向がいる。
「そうだね、彼女から伝言を預かってます」
「伝言?」
「うん、ようやく素直になれたね、ずっと私に言ってくれるの待ってた、だって」
「ひなのくせに……ばか」
今度は本格的に涙が止まらなくなってしまった。
気がつくと、ひなと夕凪も近くにいて、優しく微笑んでくれている。
いつの間にか、周りで見物していたパレードの席取りの人達も拍手してくれて「おめでとう!!」とか「頑張った!!」とか言う声が聞こえる。ねぇ、誰か教えてくれないかな?
どうしたら涙って止まるんだろ?
⭐⭐⭐
千早さんを落ち着かせて、木陰のベンチに休ませ、彼女が復帰するのに30分程かかってしまった。気がつけば早のりの時間まで後、10分程になってしまう。
「ゆうな、キョロキョロしてないで、急いで!!夜空っち、ひなはぐれるよ!!」
この通り、完全復活した千早さんは元気いっぱいで、何時もの仕切り具合を見せてくれている。人通りの多い通りだからこそ、走る迄はしなかったけれど、もう動き回りたくて仕方ない感じだ。
「流石、元バレー部キャプテンついて行けないわー」夕凪さんが値をあげているけれど、僕と日向にはついて行くのが精一杯で声をあげるのもままならなかった。
一番人通りの多い未来ゾーンをやっと抜け、複数に分岐する通路にどちらに行こうかと迷うまでも無く、千早さんと夕凪さんがどんどん先行して行ってくれる。
「はっ、良く道順なんか覚えているよな?」
「ふっ、二人とも、結構来てるみたいですよ」
「ひっ、日向は?」息が切れるよ、二人とも速すぎ。
「私もあんまり来た事が無かったんです。両親が共働きでしたから、2~3回位でしょうか?」
僕らははぐれない様に、手をつないで二人に置いていかれ無い様に着いていくのだけど、日頃の運動不足と不馴れな人混みで少しずつ離されてしまっている。
目的地のパンダのポーのタイヤチェイスに着く頃には、千早さんと夕凪さんと僕達の間に何組か入られてしまっていた。
どうしようかと、迷っているとスマホに着信が入って来た。
『ごめんね、ちょっと離れちゃったね』
千早さんからの着信に僕は少し慌てつつ、
「千早さん!!僕達も無理に列の中に入れて貰った方が良いのかな?」
ほんの10メートル位の距離で電話しているのに、何となく微笑みながら、その先から夕凪さんがこっちに手を振りながらジャンプしている。その度に上下にたゆんたゆんしている物があるが、鋼の微笑みでそれに動じなかい振りをしながら手を軽く振り返しておく。
『うん、夕凪とも話したんだけど、どうせ、中で二対二に別れるんだから、もう少し先でで合流で良いんじゃない?』
「確かに、早乗りだからそんなに待たないしね。日向もそれで良いのかな?」
横を見ると離れた場所で日向と夕凪さんが二人でジェスチャーゲームか何かゲームをしている様だった。猫かな?そんな動物的な動きをしている日向に、
「日向猫さん、出口で合流しようって」
「あっ残念、猫じゃないですライオンですよ!!わかりましたもう少し先で合流ですね?」
手をグーにしてにゃんにゃんしている日向の頭を優しく撫でてやる。
『どうみても招き猫だよね』
クスクス笑いながら電話の向こうで答える千早さんに、まぁ可愛いから良いんじゃないですか?と言って日向が首をかしげる中、皆で笑った。
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