第42話 恋ばなと夢の国12
「泣かないで」
そっと日向の涙を人差し指の腹で拭った。冷たい外気に少し濡れた指先が冷たい。
「僕も今が、とても楽しいよ」
ねえ日向、楽しいなら何故君は泣いてるの?そんな言葉を胸にしまった。
「日向や皆と、こうやって遊んだり勉強したり色んな事を話したり」
空いた左手で日向の頭を抱く。
「少し前の自分に教えてあげたい位だ」
いたずらっぽく笑う。
「勿体ないから教えないけどね」
日向が吐息を吐く度、何か話す度に右腕が温かさで包まれる。
「私は教えてあげたいです……」
右腕の熱さが少し上がった気がした。
「夜空君はこんな事が好きなんですとか、こんな癖があるんですとか」
夢見る様に、慈しむ様に。目を瞑ったまま微笑んでいる日向。
「今、私は幸せ過ぎて悩んでいるんですよ?って」
幸せなんだろ?ならどうして時々不安そうな顔してるんだよ日向。
「……ねぇ 夜空君、二人の事どう思いますか?」
日向の絞り出した様な言葉に少し考え込む。
「うん……正直に言っても良いかな?」
日向の肩がビクッと動く。
心なしか日向の心臓の音が少し早くなるのを感じた。怖いのかな?聞くのが…。
「何で僕なんだろうって思った」
それは日向の期待していた言葉だったのだろうか?それともガッカリさせてしまっただろうか?
「日向が好きになった奴だからかな?って思ったけど、それって自分には決して振り向かないって言われてるのと同じじゃない?」
「僕には、そこまで人を引き付ける魅力なんて無いと思うんだよ」
「夜空君は素敵な人ですよ」
ムッとした顔の日向の頭を撫でる。
「ありがとう日向」
「でもさ二人がそう言ってくれるのは嬉しいけど僕には今が精一杯なんだ。 二人の気持ちは嬉しいんだけど……」
恋ばなの時も好きだと言ってくれた時も……。
僕にはどうするのが良いのか解らなかった。
「二人の事嫌いですか?」
日向のこの言葉は、もしかしたら日向には僕に対して一番聞いて欲しく無いし一番言って欲しくないセリフだったのかも知れない。
「あのねぇ」小さく吐き捨てる様に言う。
「嫌いだったら苦労しないだろ?」
「どうでも良いなら苦労しないだろ?」
「もちろん二人の事は好きさ……ただ、どうしたって僕には日向が一番なんだ」
「そこは変えられない」
「だから多分、二人の期待には添えられない」
「えっ?あっ!!千早と夕凪」
ガタッと音がして、日向が立ち上がった。
その視線の先にはチュロスやキャラの可愛い入れ物に入ったポップコーンを持った二人がいた。
「ゴメン、ゴメン聞くつもり無かったんだけどね偶然ほら偶然パレードの場所良い所無いかな?なんて……ははっ何言ってるんだろ?」
千早さんが参ったなーと苦笑いする。
「そっそ、そんな事始めから解ってるから……大丈夫だよー!!」
夕凪さんもひきつった笑顔で。
あたりは、そろそろパレードが近くなり人の数も増え始めて来た頃だ。
「あっ、そうだった。ちょっとトイレに行こうかなってアハハ」
「わっ私も寒いからってさっきコーヒー貰い過ぎちゃったかなー」
二人は誤魔化すようにここから離れようとしている。
僕には、それに何も言えなくて止める事も出来なくて……。
二人が人混みの中へ入ろうとした時だった。二人がいや近くにいた人達が皆振り向くほどの大きな声が響いた。
「千早ー!!夕凪ー!!夜空君の事好きですかー!?」
二人が慌てた様に振り向いた。
「なっ何言ってんのよ?こんな所で、あのね私達は日向の……」
千早さんが慌てて誤魔化そうとする。それを遮る位に大きな声が……。
「私は夜空君が大好きー!!」
両手を口に添えていつもの優しい、でも、いつもより力強い声で日向が叫ぶ!!
「日向!?」
一度フリーズしかけていた僕も慌てる。
「流石に恥ずかしいから、そういうのは二人きりの時にやってよ私は……」慌てながらも、少し呆れた風に千早さんが放とうとした言葉がすぐ近くで遮られた。
「私も、よっ君が……私も天野夜空君が好きだよー!!」
何か言って誤魔化そうとする千早さんを遮る様に夕凪さんのはじけた様な大きな声が沢山の人達が待機している通路に響いた。
「えっ?えぇ?」
何だ、この感じデジャヴを感じるぞ?そうかこれは多分……。
「ゆーな!?」
千早さんは顔を真っ赤にしてあたふたしているけど、それにも構わず夕凪さんは続ける。
「ねぇ夜空君聞いて!!」
僕はこのデジャヴの正体を思い出した。
彼女達はあの時の僕だ……。
そして、日向が返す。
「私は夜空君が大好きだし二人の事も大好きです!!」
日向の声が沢山の人がいる通りにこだまする。
「だから高校に行っても、ううん出来ればいつまでだってずっと一緒にいたい!!」
「こんな私は我が儘ですか!?」
日向は、あの時の恋ばな告白の時の僕だ。
でも……あの時の僕はこんなに勇敢で素敵だったのかな?
良く解らないけど今の日向には迷いも感じられ無かった。
とても素敵だった。
「なぁお嬢さん達そこの坊主の何処が好きなんだ!」
どう答えようと考えていると座っていた子連れのお父さんが、いきなりそんな事を言い出して焦る。
小さくそーだそーだ、と言う声も聴こえ恥ずかしながらも一言言おうかと思いベンチから立とうとした時。
「私に言わせて?」覚悟を決めた様な真剣な表情の千早さんが一歩前に出る。
周りから、ざわざわと「三人目?」「うぉ、また美少女!?」「おのれ、あのメガネ小僧まさかハーレムって奴か?」「ねぇパパ、ハーレムって何?」「ん?あのなぁハーレムかぁねぇママ?」「はぁ全く、あのねハーレムってのはみんな仲良しって事なのよ?」
「パパとママは仲良し?」「そう見える?」
「ううん」 「うん良い子ね」「……えっ?ちょっとママ?ねぇママ!?」
僕のターンはスキップされた様だ。
次はどうやら千早さんのターンの様だった。
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