第39話 恋ばなと夢の国9
城前の撮影会は、なかなか大変だって聞いている。配信とかSNSだとか見て予習したんだけど、あれを僕がやるのかーと思うと中々敷居が高い。
気合いを入らないとな、まぁきっと、みんなの命令されるままだけどね。我ながら情けない気合いだなと思いながら、城前に向かった。
「凄い人ですね?これで撮るんですか? 」
まるで人がゴミの様だと言わないばかりの人の数に日向と一緒に気後れしてしまう。
「クリスマス半端無いわね」
「良い?1、2、3ジャンプだよー!!」
「隣に気を付けて!!ぶつかるぞ!!」
周りは、沢山のJK、JC、レイヤー、カップル、チューバー等々、沢山の人だかりで場所を見つけるのも一苦労、映えの戦場それこそが、ドリームランド城前である。
地べたに座り込んで、みっともないとか、汚いとか、見苦しいとか色々言われる場所では、あるけれど、やはり来たからにはお城の前で記念撮影したいと思える何かが、ここにはある様だ。
「はい、よっ君ピース!!」
「はっ、はい!!」
夕凪さんが、大はしゃぎで、僕と腕を組み写真を撮る。
「ずるいです!!私も!!」
日向が僕の首に飛び付き、器用にボクと二人の自撮りを取る。
「あれが、数日前にスマホを手に入れたばかりの……ひな、恐ろしい子!?」
驚愕の表情を浮かべる千早さん、ノリノリだな。
「次、私」
普通に僕に近づいてきて頬に……キス!!……をするふりの自撮りを取る千早さん。
僕はおもちゃ、僕はマネキン。女の子達の気のすむまま、言うとおりに動こう。
きっつ。肉体的にも精神的にも。
「今のずるいです!!反則です!!イエローカードです!!」
千早さんの非紳士的行為?により、僕は同じ事を日向にされる事になったらしい、非紳士的行為って一体?
「日向こういうのは、勢いがあるから出来るわけで、端的に言うと……恥ずかしいぞ?」
「恥ずかしく無いです!!」
真っ赤な顔して……案外意地っ張りだな。
「夜空君、何か失礼な事考えませんでしたか?」
手と首をブンブン振って否定する僕。
恋する男は、何時も嘘つきなのさ、ベイベーと馬鹿な事を考えながら、早く撮って終わろうと僕は呪文を唱える。(僕はおもちゃ、僕はマネキン。)うわっ、頬に日向の吐息がかかる。そのリアルな暖かさにドキドキはピークに……。早く撮ってくれー!!
「さっさと、やっちゃえ!」
夕凪さんの声が聞こえる、あの巨乳小悪魔の破滅の言葉が……。ドンッという音とエッ?と言う声とチュッと言う音と。最後に響くシャッター音。
三人の赤い顔と一人のやっちまった顔、
「千早さん成敗を!!」
「はっ!!」
バンフ丸めソードが悪(夕凪さん)を切る。
「ホーリーアークが悪を断つ」
じゃねーよ!!
「何よー、その古くさいヒーローアニメみたいな、セリフー。」
うっせ、ほっとけ!!
頬がジンジンしている、痛みで無く、その触れた日向の唇。
よし、この明るい雰囲気で誤魔化そう。
「全く、夕凪さんは、しょうがないなぁ」
アハハと笑う、千早も笑う、夕凪さんが「ごめーん」と明るく謝る、
日向も……。
「キスしちゃった」
誤魔化せませんでした。
冗談で押しきれませんでした。
参ったなと、頭を掻いていると日向が、近寄って来て……チュッ……えっ?えーー!!
反対側の頬にキスをした。
「どうせするなら、ちゃんとしたかった……ので」
「ひーなー」
クトゥルフの呼び声もとい、千早さんが日向を呼ぶ声、耳を掴んで引きずって行く!!
「待って痛い痛い痛い!!」
最初にキスされた右頬、次にキスされた左頬、両頬を手で挟み、少しぼっとして考える。
「はい、そのまま顔を傾けてー!!」
ん?と思いながら、言われた様に顔を傾ける。
「うん、私って、可愛い!!」
傾けたポーズのまま、十秒程考える…おい?
「よっ君、顔真っ赤だよー!!」
周りから、「ぶふっ!!」
「わーらーうーなー!!」
そして、夕凪さんと僕との追いかけっ子が始まり……。
「全く貴方達はー!!」
三人並んで正座して怒られました。
「少しは、反省しなさい!!」
「イエス マム!!!」
人混みの中で走り回るのは止めましょう。
「と言う訳で、罰ゲーム!!」
「次のアトラクションは私が夜空っちと乗る……から」
千早さんが少し恥ずかしがる。
モジモジしてるのが、可愛い……けど、僕には罰ゲームになって無いかも?
「横暴だー!!」
「ファシズムだー!!」
「出来レースだー!!」
「やかましい!!」
「本命(早乗り)まで、まだ時間あるからね!!」
「冒険ゾーンの川下り行きたい!!」
「いいね、夕凪さん!!」
「ちょっと待ってゆうな?川下りって、4人乗りだったよね?」
「ピュルフュー♪」
「無駄に上手い口笛止めろ!!」
「じゃあ、何処にするのよ!!」
「えっ?ホラーマンション。」千早がニヤリと笑う。
「お化け屋敷じゃないですか!?」
「そうだけど?」フフンと笑う千早さんに怒る二人!!
「お化け屋敷って言ったら、キャー怖いで、男の子に抱きつきたい放題のスペシャルイベントじゃないですか!?」
まぁ、そうなんだろうけど、君達、発想が男の子だよ?そう言うのは僕が……いや、何でも無い。
「じゃあ、行くよ!」
僕は、率先してホラーマンションに向かう。
時間が勿体ないしね。
目の前に西洋のおどろおどろしい洋館を模したアトラクションが見えてきた。
クラッシックメイドのキャストが雰囲気たっぷりに迎えてくれる。
横を見れば、解りやすく震えている千早さんがいる。
「あれ?千早さん?もしかしてお化け苦手?」
「そんな訳……あるかも?」
キャストさんに案内されて真っ暗な空間を歩いて行く。
「夜空っち、ごめん……手を……」
しかたないな僕は千早さんの手を握る。
「此方へどうぞお嬢様」
ここでのエスコートは、任された。
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