第37話 恋ばなと夢の国7話
ゲートを抜けると、世界市場言う名前のショッピングモールが並び、さその中央には、クリスマス時期に飾られる巨大なクリスマスツリーがそびえ立ち、大勢の人達が、写真や動画を撮っている。
「夜空君、大きいです、綺麗です!!」
日向が、目をキラキラさせながら大木に抱きつく。オレンジブラウンの髪揺らめき、日向はこちらを見て満面の笑顔を浮かべる。其のとたん、何だ?辺りから急に沢山のシャッター音が!!
「まずいわね、ひなが周りから撮られてるじゃない」
千早さんの声に、体が勝手に動く。
「日向!!」
周りから撮られない様に日向に覆い被さり、クリスマスツリーの幹に手をドンとついた。そして耳元で囁く。
「駄目だろ?君は目立つんだから?」
これなら、日向撮られないよね?君は僕が守るんだから……。
「はっはいっ!!」
急に近寄ったせいだろう。日向の顔が赤いけど、それは、しょうがない。あれ?シャッター音がさっきより凄いんだけど?
「夜空っち……何やってんのよ?」
千早さんが、頭を押さえて、ため息をついている。
「キャー、リアル壁ドン初めて見たー!!」
夕凪さんがキャーキャー言いながらスマホで画像を撮りまくっている。
「壁……ドン?」
えっ?確かに、木を壁に例えるなら、そんな体勢に見えなくも無いけど……。
「うわっゴメン!?日向が撮られない様にって思ってたら!!」
慌てて離れて日向に謝る。
「びっくりしました」
日向を怖がらせてしまったのか?
うつ向いたままの日向に僕は、その軽率な行動を後悔する。
「ごめんね日向、僕は君を守りたくて」
「でも、格好良かったです」
反省して項垂れている僕を日向は、優しくぎゅっとしてくれた。
「日向……」
僕も、そっと抱き締め返す。
そのとたん、凄いシャッター音。
「じゃないでしょ!!」
ガイドブックを丸めた筒で僕と日向をポカポカッと叩く千早さん。
「もう、行くわよ!!」
ちょっとオコな千早さんに日っ張られていく僕と日向。
「えー、次私がして欲しかったのにー!!」
千早さんに筒で叩かれ、怒られている夕凪さんが、
「えーでも、ちーちゃんもして欲しかったでしょー?」
ブーブー言いながら夕凪さんも、ついてくる。
「そっ、そんな訳……もうっ、知らない!!」
千早さんが真っ赤な顔をしてスタスタ先に進んでいく。
後に、『壁ドンクリスマスツリーと馬鹿ップル』と言う動画がトレンドに上がったとか、上がらなかったとか?
後で、確認したら、本当に上がってやがった……。
☆☆☆
「とにかく早乗りを取りに行かないと」
「んじゃ、別のアトラクションに並ぶ組と別れようか?」
千早さんの提案で、早乗りチケットを取る組と、別のアトラクションに並ぶ組で別れる事にしたんだけど。多分、僕と日向、千早さんと夕凪さんで別れるのが普通なのかな?と思っていた。
最終的に、この別れかた。少し意外だったけど、しょうがない事態になったのも確かだった訳で……。
「ねぇ、よっ君、妖精ゾーンへの近道は、こっちの方が近いよー」
「了解、ちょっと待ってね、夕凪さん」
結局、僕と夕凪さん、日向と千早さんに別れたのだけど、
「日向、千早さんをお願いね」
「はい、千早もしばらく休めば大丈夫だと思います」
ベンチに座り込んでいる千早さんを介抱している日向に挨拶をしてくる。
「ごめんね、ちょっとまだフラついて」
千早さんが、すまなそうに謝ってくる。
元々、朝が弱いのもあったらしいけど、どうやら昨日の夜更かしで体調を崩してしまったらしい。
とにかく、早乗りチケットを僕達で取りに行き、千早さんは休みながら、城前の場所取りをして貰う事になった。
「ごめんねよっ君、二人きりを邪魔してるだけじゃなくて、こんな感じになっちゃって」
夕凪さんが、普段とは違い少し真面目な雰囲気で話しかけて来る。
凄い人混みで、気を付けていないとはぐれてしまいそうだった。
「参るよね千早も、最近良く眠れて無いみたいだよ」
左腕に重みを感じて、見てみれば、はぐれない為か、僕の服の腕の部分を、しっかり掴んでいる夕凪さん。
「そうなの?」
初聞きだった。
「なら、言ってくれれば良かったのに」
人混みをかきわけながら夕凪さんと、先を急ぐ。
「んっしょ、ちーちゃん、意地っ張りだからねー」
夕凪さんは、ため息をつきながら肩をすくめる。
少し、夕凪さん大変そうだな。
僕は夕凪さんの肩を抱き、彼女が歩き安い様に誘導する。
そんな僕を真顔でじっと見た夕凪さんは、
「よっ君、やっぱり優しいね」
そう言って微笑んだ。
ようやく、早乗りチケットの券売機まで来る。
「ねぇ、夜空君」
えっ?何時もとの呼び方の違いに思わず夕凪さんの顔を見てしまう。
「私の噂聞いた事ある?」
それを聞いた瞬間、少しドキッとしてしまう。
「噂?何だろ?」
本当は、少し聞いた事がある。田中達が面白がって言ってたのを聞いてしまっただけだけど。
あんな酷い事言える訳無かった。
「やっぱり、知ってたかー」
あれ?まずいな。
「夜空君は、嘘が顔に出ちゃうよね」
やっぱり、バレバレだったのか……。
「ごめんね夕凪さん、本当は、少し聞いてる」
こういう時、何て答えるのが正解なんだろう。
自分の語彙力の無さに嫌気が差した。
「優しいなぁ、夜空君は」
夕凪さんは、少し悲しそうな笑顔を見せる。
僕の服を掴んでいる手が力が少し強くなった気がした。
「私ね、誰とでも寝る女なんだってー」
思わず、周りを気にしてしまう。
「ゆっ夕凪さん?」
少しうろたえてしまう。
「本当だと思う?」
そんな僕に構わず彼女は話を進める。その真剣な表情に僕も真面目に答えないとと背筋を改める。
「その、僕は、夕凪さんじゃ無いんで本当の事は解らないけど……違うと思います」
「どうして?」
「ここ数ヶ月、いつも皆一緒だったじゃないですか?夕凪さんがどんな人か、少しは解るつもりです」
「へぇ、どんな子何だろう?夜空君の中で」
「上手く言えるか解らないけど……」
じっと考えてみる。
目の前の夕凪さんの事を。
「明るくて、いたずらっ子で、楽しい事が大好きで」
ちょっとムッとした顔をしている夕凪さん。
「優しくて、友達思いで、寂しがり屋で、ちょっと嘘つきな可愛い子……かな?」
「何よ、それ?」
ムッとした顔を変えないまま、顔を赤くしている。
「えへへっ、まぁ良いか?」
夕凪が、笑いながら。
「私ね、まだ誰ともそんな事した事無いんだよね」
僕にだけ、聞こえるように耳元で。
「そっ、そう何だ」
何だ、別に夕凪さんが、そういう事してなかったってだけの話だよ?どちらかと言えば安心したとか、やっぱりそうじゃない!!とか笑いにした方良いはずなのに、何故か色っぽいというか、ドキドキして、耳がくすぐったくて。
「やっぱり、気になってた?」
いつもの茶化す感じては無く、そわそわした雰囲気で、ちょっと冗談が言いづらい。
「そりゃ、気になるよ?」
正直に言えばさ。
「この前、あんな事言われたしさ。」
夕凪さんが恥ずかしそうに話し始める。
「ちょっと長くなるけど良い?」
夕凪さんは、僕の左腕の袖口を掴んで、ニッコリ笑う。
前を見る。まだまだ待ち時間はありそうだ。
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