第35話 恋ばなと夢の国5

「うわっ、ひさしぶり!!」


 歓喜に溢れた夕凪さんの声。


 西洋の城を模倣した入り口ゲート、1日に何万人が入場をするのを管理するために20近いゲートがあり、更に朝7時前なのに、ゲート1つ1つに長蛇の列が出来ている。僕らは何とかその1つに並び、座って待つ事にする。


 僕は、背負ってきたリュックから、水筒と紙コップを取り出すとみんなに渡す。

「朝だからスッキリ目のコーヒーにしてみたよ」


「やった、夜空ブレンドだ」


 嬉しそうに千早さんが、紙コップを受けとる。


「ちょーだい、ちょーだい。砂糖とミルクもあるよねー?」


 夕凪さんに、砂糖とミルクを渡すと嬉しそうにコーヒーに入れてかき混ぜた。

「ありがとうございます。昨日、寝不足だったから、コーヒー飲んでスッキリさせないと」


 日向は、両手で握りこぶしを作って、やる気満々だ。

「うん、でも気を付けてね。」

 僕は日向の頬に手を当てる。


「あっ……うん。」


「日向は、カフェインに強く無いんだから」


 冷たかった頬が熱を帯びていくのが解る。


「よっ君気を付けてねー、ひなっち、火傷しちゃうー」


 夕凪さんのからかいに、頬を膨らませて怒る日向。


 怒った顔も可愛い。


「最近、人前でも気にしなくなって来たんじゃないの?」


 千早さんが少し呆れ顔、ごめんねと、軽く肩に手をおく。少し千早さんの顔が赤くなったのは、気にしない事にしておこう。


「ねぇねぇ私にも、やってくれても良いんだよー」


 そう言って自分の頬に人差し指を刺す夕凪さん。


「はいよー」


 夕凪さんの頬にブスッて指を刺す千早さん。


「ちょっとー!!ちーちゃんじゃないでしょー!?」


 怒る夕凪さんに、皆で大笑いする。


 一息ついた所で千早さんが謝って来た。


「ごめんねー、今日集合時間遅れちゃって」集合場所に30分遅れて来た彼女は反省しきりだ。


 どうも彼女は、朝が苦手らしい。


 と、言うより夜遅くまで、グループらいんしてて、寝坊したって言うのもしっかり者のイメージな千早さんからすれば珍しい気がする。

「大体、皆同じ様にグループらいんしてて、起きられるって、どういうわけ?」


 千早さんは大きな欠伸を1つ、まだ眠そうだ。


 そう、僕や日向も、やっとスマホを手に入れた、同じ機種の色違い。


 二人で、ショップに行って契約してきたんだ、最初は子供だけで契約出来るのか不安だったけど、調べてみれば、親との同意書とかパスポート、通帳等の必要な書類があれば大丈夫らしい。 途中、親との確認電話とかあって面倒臭かったけど、ようやくスマホを手にいれたんだ。


 日向は何だかんだ言って、スマホの色は白。


『夜空君が、白が似合うって言ってくれましたから』って事らしい。

 少し、嬉しくて、恥ずかしい。


「しかしさー、絶対、夜空っちは、黒だと思ったのにねー」


「えー、私は、ひなっちと同じ白にすると思ったのになぁ」


 千早さんと夕凪さんは色々言うけど、僕は最初から色は決めていたんだ。


 その間、日向はずっとニコニコしている。


「で、何で夜空っちは、スマホの色をオレンジにしたの?」


「好きなサッカーチームの色とか?」


 二人が、色々聞いてくる。オレンジのサッカーチームって結構あるよな?


「あー、その」


 日向をチラッと見る。


 目と目が合って日向の顔が真っ赤になる。


 こういう時は、さりげなく、さらっと言ってしまえは良い。

 別にそこまで恥ずかしい事じゃないし。


「その、日向の髪の色と一緒でしょ?」


 千早さんと夕凪さんは、ポカーンとした顔をする。


「はー、ハイハイ」


「いやー、お熱いですなー」


 呆れ顔の二人に、抗議する。


「いや、そこまで呆れる事かなぁ?」


「呆れる事じゃないかも知れないけど、恥ずかしくて聞いてられない」


「右に同じー!!」


「あーあ、私オレンジ色に髪染めようかなぁ?」

「私も染めようかなぁ?」


「駄目でーす。受験前なのに、怒られますよー」


 急に髪の色を染めるとか言い出した二人に珍しく日向がからかい気味に二人に言う。


「でも、千早さんの黒髪や、夕凪さんのブラウンの髪も凄く素敵だと思うよ」

 千早さんの少し緑がかった黒髪も夕凪さんのダークブラウンの茶髪も僕にはとても綺麗に思えた。


「綺麗な髪なのに、勿体無い」率直に意見を言ってみる。二人とも、丁寧に手入れをしているのだろうか?髪の毛は艶々だ。


「そっそうかな?じゃあ、受験も近いし止めておこうかな?」


「へへーっ綺麗なブラウンかぁー、ママに頼んで買って貰ったトリートメント使ってて良かったー」


 二人とも、急に髪を手鏡で見たり、櫛で髪を梳かし始めたり急に落ち着きが無くなった様だ。


 そして、次は日向がむくれる。あっちを立てれば、こちらが立たずか。中々難しいなと少し苦笑いをする。


 最近、ちょっと疲れ気味かも?


 水筒のコップに入った、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。もう少し、苦めにした方が良かったかな?豆を深煎りにしてみようかな?もう一杯コーヒーを飲もうかな?とか考えていた時だった。


『Welcome to Dream land へようこそ!!』しばらくワイワイしながら待つと、アナウンスが流れ、列が動き始める。


 皆が立ち上がり、身支度を始める。


 今日の服装は、皆で事前に決めたんだけど学校の制服そのままで行く事にした。


 俗に言う、制服ランドって奴だ。


 もちろん、この寒さなので、各自マフラーやコートは身に付けたりしているけど。


「ジャーン!!」


 千早さんが珍しくはしゃいだ声を出す。


 手に持っていたのは、動物の耳の様なものがついたカチューシャや帽子。


「フフッ人数分持ってきた。」


 ドヤ顔の千早さんも、新鮮で可愛い。


 ワイワイしながら、誰がどのカチューシャをつけるとか、誰々はこれとか大盛り上がりをしている。


 微笑ましく眺めながら、少しだけ不安を感じる。


(もしかして……これって、僕も着けるの?)


 三人が、「夜空君はやっぱりこれだよね?」と話す姿と手に持った沢山のキャラグッズを見て、笑顔がひきつってしまっていたかも知れない。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る