第33話 恋ばなと夢の国3

「早くスマホ欲しいなー」


 家の固定電話の前で、しみじみ思う。だってさ、こういう時恥ずかしいでしょ?


 彼女……いや、恋人の家に掛けるんだよ?


 今日の夕食の時に母さんにスマホ欲しいと言ったら、まぁそろそろかもねとは、言ってくれた。その後、『恥ずかしくて彼女とお話も出来ないもんね』と、茶化されはしたけど。


 えっと、彼女じゃなくて恋人な?心の中で訂正する。日向に怒られるからさ。


「もしもし、アーアーアー」


 そろそろ掛けようか?心の中で、何度も復唱する。


「もしもし、天野と申しますけど……いや、同級生とか言った方が良いかな?」


「もしもし、同級生の天野と申しますが、天野さんのお宅でしょうか?日向さんは、ご在宅でしょうか?」


 ちょっと固いかな?


「もしもし、娘さんのクラスメートの天野と申しますが?……あーもう、段々解らなくなって来た」


 訳が解らなくなって、頭を抱え込む。


「あのね、何時まで電話の前で、うんうん唸ってるの?」


「母さん……、いやその……何か緊張しちゃって」


「まったく、体調が悪かったんじゃ無かったの?」その手には、電気ストーブと毛布を持ってきてくれていた。

「ありがとう母さん、何か変な意味で体調悪くなりそうだった」


「あら、今まで一度も掛けたこと無いの?」母さんに、呆れた顔をされた。

「そんな訳無いだろ?今度で三度目だ。」


「うーん、三度目なのに、まだ慣れないの?」


 盛大にため息をつかれて凹む。


「その、今まで、運良く日向……さんが出て」


 おっと危ない、呼び捨てにしてるのが、バレる所だった。


「……あのね、夜空、貴方、いつも何時位に電話するとか事前に言ってない?」


「えっ?そりゃするでしょ?マナーじゃない!?」何を当たり前な事を。


「でしょうね。じゃあ、電話がなったらすぐに出なかった?」


「えっ?そんな事は流石に……うん、まぁ…合ったね」


 あー、そういう事かー!!


 僕は、思い切り想像してしまった。電話が鳴るまで、固定電話の前で、じっと待っている日向の姿を……うぉー、凄く健気で可愛い!!って言うか、何、平気で待たせてるんだ僕は!!


「解ったなら、さっさと掛ける!!」


 悶える僕に、母がバシンと背中を叩き、気合いを入れてくれた。


「解った!!」


 待ってろ日向!!すぐ君に会いに行くからね(電話を掛けるの意)!!


 何となく、変なテンションになっているなと思いつつ受話器を手に取る。


 何度も間違えない様に、書いて覚えた日向の家の電話番号(番号登録すれば良かったとか後で思った)伊達に、いつも良い成績取ってんじゃ無いんだよ!!まるで、覚えきったパスワードを打つときの様に、滑らかに電話番号を打つ。


 そして、コールを待つ。


 一回、二回……ガシャ出た!!

 さぁ、挨拶!!


「もしもし、天野さんのお宅でしょうか!?」よし、完璧!!


「はい、天野です」


 今日は、いつもと違い男の人でした…。


「あぁあ、あのークラシュメイトの(噛んだ

 )天野とももぅします!」


「うちも天野だけど?」渋い声ですね。

 誉めれば良いのかな?

 はぅ、あのこういう時は、落ち着けー落ち着けー。


「あの、クラスメイトの天野夜空と申します」


「ほぅ、君が……で、君はうちの日向とどういう関係なんだい?」


 えっ?この人多分、日向のお父さんなのかな?


「あっその、お付き合いをその、させて頂いておりましゅ」


 最後は、盛大に噛んでしまう。


 あーっ、何をしてるんだ僕は。


「アハハ、ゴメンゴメン、緊張させてしまったね」


「はぁ?」


「娘から、君の話は聞いているよ。私は、日向の父親のギンガだ」


「えっ?ギンガさん?」


「どうしたのかな?」


「いっいえ、その、うちの父と同じ名前だったものですから」


「ほぅ、それは珍しい。私の名前は、銀の河と書いて銀河なんだが?」


 おぉ、日向のお父さんが興味を持ってくれたみたいだ。


「あっ、うちの父は銀の牙と書いて銀牙と読むんです」


「おぉー、一字違いか、それは残念、いてっなんだい急に!」


 んっ?何か言い争いをしてるような?


「ちょっと待て、い……とこ……なんだから!!」


「……加減にして!!」


 あっ、日向の声が聞こえた様な?


「これ以上、馬鹿な事してるならパパの事、嫌いになるから!!」


 はっきり…聞こえたけど、ちょっと日向さん大丈夫?


「悪かっ…て、ごめんね日向!!」


「今のは、パパが悪い。」違う女の人の声、誰だろ?お母さんかな?


「パパ嫌い!!」


「許してくれ、日向ー!!」


「じゃあ、クリスマスプレゼント、スマホお願いね!!」


「えっ?それは、サンタさんと相談かなぁ?」


 あっ、これは、お父さんの負けかな?


「パパ嫌い」


「よーし、解った。スマホ任せとけー!!」


 サンタさんは、どこ行ったんだろう?


「ごめんね、夜空君!!」


「いや、大丈夫だよ、その」


 ご機嫌そうな日向。


「スマホおめでとうね、日向。」


「あっその、聞こえちゃったよね」


 少しバツが悪そうな声でつぶやく。


「まぁね、日向の声だからね。」


「ありがとう、夜空君。」


 彼女の嬉しそうな笑顔が目に見えるようだ。








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