第30話 恋ばなと君の夢9
「よっ君、どうしたのー?」夕凪さんは、嬉しそうに僕に近づいて来る。
「もちろん、日向を送って来た」
「そっちこそ、千早さん大丈夫だった?」
「あぁ、悪かったわね」
やっぱり、千早さん、ちょっと疲れてるみたいだな。
「二人とも、急に帰るから、びっくりしたよ」
微笑む僕に夕凪さんが右手に飛び付いて来た!!
「なっ、どうしたの?」
「ちーちゃん!!」
いつの間にか、反対側の腕まで千早さんに抱きつかれていた。
「ふっ、二人とも!!当たってる!!当たってる!!」
これが前門の虎、後門の狼ならぬ、右腕の乳、左腕の乳!!うん、意味が解らない!!
「どっどうしたの!?」
「えっ?解んない!!」
ちっ千早さん?
「ふはは、もう逃げられないぞー!!」
「夕凪さん、お前かー!!」
「うん、この後、どうしよう?」
「って、ノープランなの!?」
千早さんが解りやすく狼狽える。
「だってー……面白そうだったしー」
そう言ってニシシと笑う。
「とにかく、不味いって!当たってるって!」
「あっ!!ふははは!!あそこへ連れ込め!!」
僕は両脇を拘束(あえて拘束と言わせてもらう!!動けるか!!)されたまま、最近良く見覚えがあるてんとう虫公園に連れて行かれる。
「何なのさ、一体」
少し呆れて尋ねる。
「意味ないよー、面白そうだっただけ」
「ごめんね夜空っち、ちょっとテンションが上がっちゃってさ」
千早さん、元気でて来たのかな?
「まぁ、良いよ別に」
「二人は、ぼくにとって大事な友達だしね」
ニコッと笑うと、二人は苦虫を潰した様な顔をする。
「夜空っち、そう言う所だからね!!」
「うん、そう言う所!!」
何故か、二人に怒られる。
どうして?Why?
巨大なてんとう虫のくりぬかれたトンネルの中に、何故か三人で座り込んで、他愛無い話をする。
「勉強やだ」「まだまだ長いわね」「大丈夫、年が明けたら受験なんて、すぐですよ」「それもやだー」「今の高校なら、多分皆大丈夫ですよ」
「去年は、楽しかったなぁ」「よっ君誘えなくて、ひなっちの慰めクリスマス」「去年から夜空っちと知り合えたら良かったのにね」「今の私の夢って解る?」「何よ」
「この四人で高校生活を楽しむのが、今の私の夢ー!!」
優しく笑う夕凪さん、素敵な笑顔で笑うなー。
「私の夢か……」
「千早さん、大丈夫?」
何となく放心状態な千早さんを見て問い掛ける。
「うん大丈夫、馬鹿やったせいで少し、楽になった」
千早さんの笑顔は明るい。
あれ?こんなに無邪気に笑う人だっけ?
「よっ君、かまって!!友達なら、もっと私をかまって!!」
夕凪さんは…相変わらずだ。
「アハハ、夕凪さんは、今度のお勉強会で、いっぱいかまいますよ」
「やだー!!鬼ー!!メガネー!!聖女様の奴隷ー!!」誰が聖女様の奴隷だ!!
「よっ君、もっと遊ぼうぜー!!」
えっ?僕は、不思議そうな顔をする。
「遊んでるじゃないですか?今だって。」
「僕は、こんなに楽しいですよ!!」
暗くなってきた空、暗いてんとう虫のトンネルの中、多分、僕の顔は見えないだろう。
「一人きりだった僕に、光をくれた」
「一人で充分だって、ずっと思ってた」
「そんな僕に、心からの笑顔をくれた」
例え暗闇で何も見えなくても、礼儀として最高の笑顔で言った。
「これは、全部皆さんのお陰です!!」
日向と出会って、恋ばなで、告白する事になり、千早さんや夕凪さんと仲良くなった。
家の事と、勉強でいっぱいいっぱいだった僕に微笑んでくれた。
ここには、居ないけど大好きな日向、千早さんと夕凪さんに感謝でいっぱいだった。
空に月が見えてきた、そろそろ帰らないと。
「なぁ、夜空?」
普段、夜空っちって呼ぶはずの千早さんからの問い掛けに、妙な違和感を感じながら、問う。
「何?」
「今から、言う事、ひなに内緒に出来るかしら?」
「えっ?」
突然の問い掛けに、若干焦る。
「ちーちゃん!?」
夕凪さんが、焦った声で千早さんを呼ぶ。
「ごめんね、夕凪、やっぱり無理だ」
「でも、このままでって!!」
「私は言う」
暗くて千早さんの顔は見えない。
でも、その真剣そうな顔は想像できる。
「ズルい、ズルい、ズルい!!」
「こんなの、先出しが印象に残るの決まってる、じゃない!!」
夕凪さんの声からは、必死さを感じる。
「どっ、どうしたんですか?」
暗いトンネルに音が反響する。
「別に、順番なんて関係ないわ」
「言う気があるなら、お先にどうぞ」
「本当にマジで言うわよ?」どうしたんだろう?二人とも。
何時もと口調も変わってる気がする。
「その前に夜空、ひなに隠し事出来るか聞きたいの」
その声の真剣さにウソはつきたく無かった。
「基本、日向に隠し事はしたく無いですね」
「でも、二人が日向に隠しておきたい事なんですよね?」
「……」時間だけが流れる。
「……あの?勘なんで間違ってたらゴメン」
「ん?何?」千早さんの声。
「こんだけ暗いんで、無言で頷いても見えないですから、目も悪いし」あくまで勘だけど。
「……あっ、そっかゴメン。」
「ちーちゃんドジーって、私もだけど」
乾いた笑い声が聞こえる。
スパーンと綺麗な音がトンネルに響く。
「痛いー!!」
千早さんを夕凪さんに、突っ込みをいれたらしい。
「あの、出来れば隠しておきたいんだ」
千早さんの声が弱々しく聴こえる。
「なら、出来るだけ頑張って見ます」
「でも、聞くと後悔するよ、絶対に」
夕凪さんの声が真面目だ。
「私もそう思う」
「でも、大事な事何だよね?」
「………あっ、ゴメッ、うんそう」
あっ、黙って頷いた奴だ。
「なら、聞いて後悔するよ」
ここまで、言われて聞いたんだ、しょうがない。
「じゃあ、後悔して」
夕凪さんが言った。
「夜空君、君が好き」
えっ?
「今の声、夕凪さんですよね!?」
嘘だろ?
「どっちでも、良いよ別に」
千早さんの声がする。
「いや、どっちでも言い訳無いでしょ!?」
「どっちも、一緒だから?」
「えっ?」
「夜空、私も君が好きだ」
「あっあの、あの……」
それは……。
「夜空君、約束守ってね?この4人で楽しい高校生活が、私の夢なんだから……」
千早さんの夢の重みが、僕にのし掛かる。
夕凪さんの言った通りだ。
早速、僕は、死ぬほど後悔をしている。
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