第27話 恋ばなと君の夢6

「ごめんね、ゆーな」


 いきなり帰った私、遠藤千早の後を、急いで追いかけてくれた夕凪に謝る。


「いーよー、何となくちーちゃんの気持ちも、解るしー」


「何よ、それ?」


 少しムッとして、睨み付ける私に、夕凪が、

「何だろねー」


ニヤニヤしながら言う。


「馬鹿じゃない?」


 何その態度に私はイライラしていた。


「怒らないー、可愛い顔が台無しよー!!」


 相変わらずの、間延びした話し方、こういう時に聞くと本当にムカつく。


「やめてよ!私を、可愛いだなんて、親位にしか言われた事無いわよ!!」


 私は、ずっとそうだった。


 私の隣には、何時もあの子がいて、そう可愛いの権化みたいな子、天野日向が横にいたから、可愛いなんて、思われた事も無かった。


 最初の出会いは小学校低学年、クラス替えで初めて会ったひなは、本当にお人形さんみたいだった。夜空っちの所のうさぎちゃんも可愛いかったけど、ひなは異次元の可愛さだった。


 クリクリの目も、ミカン色の髪も、プニプニのぼっぺも全部可愛かった。


 まるで子供の頃、夢中で見たアニメのキャラがテレビから出てきたみたいだった。だから、一緒にいたくて、平然を装って話しかけた。


 かけた言葉は今でも覚えてる。


「ドッジボールやるけど、あんたも来る?」あまり友達もいなかった様だったひなの喜んだ顔は忘れられない。


 本当に、可愛くて可愛くて、愛おしくて、勝てないと思った。


 だから、スポーツを始めた。


 日向はあまり運動が得意じゃ無かったから。


 本当は、私もあまり得意じゃ無かったけど、人が見ていない所で、人の見ている所で、とにかく努力をした。


 背が伸びて1メートル70センチ近く迄伸びてくれたのが幸いだった。

 お陰で普通に部活をやっている位なら、誰よりも目立てた。


 メイクやファッションも、日向とは真逆を心掛けた。


 日向が、太陽なら私は月、日向が白なら私は黒、みたいに。


 だから、キレイとかステキとか言われても可愛いなんて、思われた事も無かった。


 なんなら、バレンタインに女の子から告白を受けた位だった。


 そんな私でも、少し憧れた事もあったんだ。


 可愛いに。


 今はクローゼットの肥やしになっている洋服がその証だ。


 一人で店で行って、気に入って買った可愛い洋服達は、家に帰って来てスタンドミラーに写し出された姿を冷静に見た自分には滑稽以外何者でも無かった。


 あの子位、背が低かったら……駄目、顔が負けてる。


 あの子位、可愛かったら……聖女様って、言われるほど優しい性格は、私には無理。


 あの子位、性格が良かったら……私、一体、何になりたいのよ。


 可愛いを諦めて、あの子の隣にいる事を望んでから気が楽になった。


 私はあの子の保護者、可愛いくて、一生懸命だけど危なっかしいあの子の保護者。


 私があの子を守ってあげるの。


 そう、彼、天野夜空が現れる迄は、そう思ってた。


 最初は、ひなが凄い凄いと喜ぶのが、可愛いかった。


 ひなが男の子の事を言うなんて、滅多に無かったし、調度部活が忙しくなって来ていて、何時もつるむ事も出来なくなっていた頃だったから、調度良いや位に考えていた。


 三年になって、部活も終わり、さぁ受験勉強だってなった頃には、隣にいた親友は、1人の恋する少女になっていた。


 だから、私はひなの背中を押してやろうと思った。


 修学旅行の恋ばなも、周りを上手く使って誘導していった。

 そして、私は夜空を観察して、見定め様とした。

 何だ夜空っちって気持ち悪い呼び方、フレンドリーに振る舞う為とはいえ、もう少し呼び方を考えれば良かった。


 もう、慣れたけど。


 天野夜空は、思った以上に、ひなの言う通りの男の子だった。


 良く考えて、人を思いやる頭の良い人間でいて人に優しかった。


 ある程度、馬鹿も出来る人間だし、顔だって…メガネを外した所を見た時はびっくりした。


 いや、夜空っちが、ひなを変えた様に、ひなが夜空っちを変えたのかも知れない。


 二人は、お似合いだと思った。


 恋ばなは、上手く行きすぎた。


 多分、あの二人には後、ほんのちょっとの後押しがあれば良かったのだろう。


 回りも羨むほどの馬鹿ップルの完成だ。


 新しい友人、天野夜空の誕生を私達は、心から喜んだ。


 それから、夜空っちと、ひな、私、ゆうなの4人は良く一緒にいる様になった。


 ちょっとださ目の夜空っちを格好良くする事に皆で一生懸命になったり、皆でカラオケに行ったり。私達も唖然とする程のイケメン君の出来上がりだった。


 そして、皆で受験勉強をする様になった。


 夜空っちの教え方は、本当に解りやすくて、優しくて、私は勉強が楽しくなった。


 スポーツばかりだった私が、ドンドン勉強が出来る様になる。


 部活ばかりで、両親に何を言われても勉強をしようともしなかった私が一生懸命勉強して成績を上げるのを見てパパやママも喜んでくれた。


 思春期で不仲だった両親とも、仲良く話せる様になった。


 そこで、私は気付いてしまった。


 最初はママの一言だった。


「ふーん、そっかー、で夜空って子が貴方の好きな子なの?」


 その時の私の反応は、普段の私らしくも無い酷いものだった。


「馬鹿じゃない!?あんなのを!?冗談はやめてよ!?それにあいつはひなの彼氏なんだ……よ」


 そこで私は気付いてしまった。


 私が天野夜空に恋をしてしまった事を。














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