第26話 恋ばなと君の夢5
推奨BGM Mrs. GREEN APPLE「hag」
☆☆☆
二人が先に帰った後、私、天野日向は急に恥ずかしくなっていました。
(もう夕凪が、急にあんな事……言うから)
「急に、静かになっちゃいましたね」
私の声に、夜空君は、人差し指を軽く自分の唇に当てました。
そして下を指差します。
その先には、ぴょんちゃん姫こと、夜空君の妹、天野うさぎちゃんが可愛らしく眠っていました。
「うわぁぁ、可愛いなぁ」
夜空君のひざで眠る、うさぎちゃん、そっと触れてみます。
ほっぺたぷにぷに、小さな子特有の体温の高さ、小さな手足に甘い匂い。
「わぁー、手が温かぁーい」
指も爪も手の平もちっちゃくて、もう、癒されます。
「ねぇ夜空君、千早大丈夫でしょうか?」
そっと、夜空君の横に寄り添います。
最近の私の指定席、お気に入りの場所、夜空君の煎れたコーヒーの薫りがする場所。今は、ちょっとだけ、うさぎちゃんのミルクの薫りがする場所。
隣から見る夜空君の横顔が好き。素顔とメガネの、隙間から見える優しい目が好き。
「うん、大丈夫だと思うけど、少し心配だね」
「千早のあんな顔、初めて見たかも知れません」
「うまく言えないけど多分、疲れちゃったんだと思うよ」
夜空君が、眠っているうさぎちゃんの頭を撫でています。
いいな、うさぎちゃん。
「ねぇねぇ夜空君、私ね、この前のテスト、順位18位だったんです」
彼は少し驚いた顔をした後、凄く嬉しそうに笑って、「おめでとう」と言ってくれた。
そして、ゆっくりと私の髪にそって撫でてくれました。
心の中で、にやけ笑いをしてしまう位、嬉しかったんです。
その手は、その指は、まるで私の髪専用の櫛の様に、私のオレンジ色の髪をすいてくれます。
「日向の髪は、サラサラだね」
日向の手は最初、背筋を指で撫でられた様に、ゾクッとして、その後に温かさと優しさの塊が流れて来ます。
私は、夜空君に頭を撫でられるのが大好きです。
多分この先、何かある度に大好きが上書きされていくのかも知れないけど、今は、ずっと頭を撫でていて欲しいんです。
ごめんね千早、私は、貴方を心配しながらも、夜空君に誉められる事が嬉しくて仕方ないです。
ずるいなぁ、私。
「日向は、苦手があった分それを克服できたから、一気に順位を上げる事が出来たんだね」
「はい」
えへへ、夜空君に誉められました。
「ねぇ日向」
「受験勉強は順調だし、今度皆でどこか行こうか?」
「……良いですね!!」
(……皆で、ですか?)心でつぶやきました。
「じゃあ、今度皆で決めないとな」
夜空君は、皆の事を何時も考えてくれている。
私の思ってるのは単なる我が儘だ。
「そうですね?今度、学校で皆でお話しましょう」
「それとなんだけどさ……」
「?……どうかしたんですか?」
夜空君が躊躇ってる。どうしたんでしょうか?
「それとは別で、クリスマスイブ、予定空けておいてくれると嬉しい……んだけど」
え?……あの?えっ?えへへ。
「空いてます!!空けます!!」
今の私の顔は、きっと必死な顔をしている気がします。
必死過ぎてひかれているかもしれません。
「良かった」
夜空君の照れた笑顔が、可愛らしくて。
「クリスマスイブ、皆と行くのとは別に、出かけないか?」
「その、二人で……」
「はっはい!!」
少しくい気味に返事をしてしまいました。
やった!!やった!!やった!!
心の中の私が暴走しているのを感じます。
私は、夜空君の腕にしがみついて、額を腕に押し付けます。
「夜空君……大好きです」
「うん」
頭の中が真っ白になっています。
夜空君の目がじっと私を見つめて……。
私の目がじっと夜空君を見つめて……。
ゆっくりと夜空君の顔が近づいて……。
ゆっくりと私は、目を閉じようとして……。
「ぴょんちゃんも、らい好きよ?」
ニッコリ笑顔のうさぎちゃんと目が合ってしまいました。
びっくりして、飛び退きます。
可愛いー!!可愛いですけどー!!
「ろしたの?ぴょんちゃんもらい好きよ?」
ちょっと寝ぼけ顔のうさぎちゃん。
「うさぎ……勘弁してくれ……」夜空君は、その場で後ろに倒れ込み両手で顔を覆って呟きます。
「うさぎちゃん!!私も大好きですよ!?」私も両手で顔を覆って言いました。
ちょっと、ヤケ気味に。
多分、その時の私は恥ずかしさと残念さが入り交じった、他の人には、絶対見られたくない顔をしていたと思います。
それは夜空君が、そんな顔をしていたから。
その後、すぐに夜空君のお母さんが帰って来て私は夜空君に送って貰って帰りました。
その帰り道は、私は何を喋っていたのか良く覚えていませんでしたけど、イブの日は、映画を見に行く事になった事だけは解りました。
☆☆☆
「ただいまー!!」
外は、寒かったけど、顔だけは妙に熱かった。
「おかえり!!日向さん、ちゃんと送って来たんでしょうね?」
母さんが、食事の支度をして、待っていた。
「当たり前だろ?」
「お疲れっ!!ママは嬉しいわー!!」
「何だよ!?」
うわっ、母さんのニヤニヤ具合が無性にキモい。
「だって、やっと息子の彼女が誰だか解ったんだもん」
「えっ?何度も連れて来てるだろ?」何を言ってるんだ?今更。
「ええ、連れてきてるわね?いつも三人位」
あっ、あぁー、そういえばそうか。
会った時は勉強会と称して、いつも3~4人だったかも?
「もう、うちの息子どんだけタラシになったのよって思ったんだから」
「パパに撮った写真送ったら、『どの子がそう?』って言われたんだからね?」
「知らないし、そんなの言う必要も無いだろ!?」
あーもう、ウザいな!?
「まぁ、多分あの子かなって思ってたけど」
「そりゃ解るだろ?付き合ってる人は一人何だから」
「うーん、それが解りにくかったのよねー?」
「えっ?何で?」
「んー、まぁ何となくなんだけど……他の子も……まぁ早くご飯食べちゃって!!片付かないから!!」
「何だよ、そっちから話かけておいて」
まったく、何を言ってんのか。
実はこの時、僕は母の一言にかなり動揺していた。帰り際にあんな事があったばかりだったからだ。
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