第25話 恋ばなと君の夢4

「どうしたの、焦り過ぎてるんじゃない?」


「やっぱり、そう見える?」


 バツの悪そうな顔をした千早さん。ハァとため息をついて頭を右手で頭を押さえる。


「駄目なんだよねー、時間が全然足りない」


「これ見て。中間のテスト結果。」


 23位?


 そんなに、悪いとは思わないけど……。


「千早、凄いじゃないですか?」


「うわー、すご、ちーちゃん私48位。」


「わたしね、その前が80位くらいだったんだ。」


「うわっ、凄いじゃない?何で焦っているの?」


「あぁ、夜空っちに教えて貰った、授業からのノートの取り方、教科書の見方、参考書の使い方。後多分、一番大きいのは、夜空っちの予想のたて方かな」


「あぁ、大きな設問中、中心になる問題が必ずあるから、其を外さないって奴な?」そんな事も言ったな。


「そこから、問題が派生するから、そこで点数に関わってくる」


「テストの問題の優先度を決めて、重要な問題から解いていく」


「当たり前の事なんだけど、お陰で最初の数分は、テストを読む事から始める癖がついたよ」


 凄く嬉しそうな千早さんの笑顔に僕まで嬉しくなってくる。千早さんも、こんな顔で笑うんだな。


「私さ、こんなにテストで良い点数取ったこと無くて、嬉しくなっちゃってさ」


 千早さんが、恥ずかしそうに伏し目がちに言う。


「私今まで、バレーばっかりだったからさ、両親から凄く喜ばれてさ」


「その、ちょっと勉強にはまった」


 成る程、何となく、千早さんの言いたい事がわかった。うーん、無理するなって言ったのにな。


「あのさ、もしかしてだけど、千早さん……」


「もしかしてだけどー♪もしかしてだけどー♪」調子良く歌い始める夕凪さん。


「夕凪さん、黙って?」


「はーい」


 後で、今の歌がお笑いタレントのコントの歌だと教えて貰った。


 耳に残るね。


 千早さんを真正面から見つめる。普段の千早さんからは、想像できない位、弱々しい顔をしている。


「あれ、始めちゃった?」


 僕からの問いに、顔を赤くしてコクりと、うなずく千早さん。


「あれって、まさか夜空君の勉強法をですか?」


 日向さんが、びっくりした顔をする。


「あれは、無理でしょー!!」


 夕凪さんは、呆れ顔。


「うん、あれは、無理って言うより、時間が無さ過ぎるから、受験中は辞めようって言ったよね」


 こういう時は、怒るでもなく、ただ事実だけを言う。みんなが言っている僕の勉強法は、理屈はまるで難しく無い事だった。


 教科書を進める、間違えたら、その節の最初から、それでも解らなければ、参考書。

 百々のつまり、解るまでやりましょう、まぁ唯一、違うのが解らない所が解る様になるまで決して先に進まない。


 これがちゃんと出来れば、解らない問題が無くなる。

 屁理屈の様な理屈だ。

 けど、解るまでやらなきゃいけないから、時間はかかるし、ストレスにもなる。


 僕は、ずっと勉強ばかりだったし、勉強がストレスにならないタイプだったから出来たんだと思う。


 この方法は最初に、僕の勉強方法を聞かれた時に、言うには言ったけど、受験勉強の追い込みやテストには不向きだから、参考程度に言っただけだった。


 その時の反応は、

「はっ?そんだけ?」「…ちょっと考えて見たんですけど、その当たり前の事何ですけど…きつく無いですか?」「よっ君、これ駄目、攻略法教えてー!!」「これ、きついや。解る迄先に進めないんでしょ?」


 最後の問いにこう答えた。


「いや、解る迄、先に進めないじゃなくて、先に進まないんだ」


 この差が解るだろうか?


 進む進まないは自分の意志、そして進めないストレスとの戦い。解るまで、教科書と参考書と睨め合う。


 1年の時、職員室へ先生に3年前半の問題を聞きに行って、先生を大慌てさせるなんて事もザラだった。


 必要なのは、根気だけと言う絨毯爆撃。


 他にやる事が、ある今なら、多分躊躇する位の勉強法だ。


 さっきから、何度目になるか解らない位の溜め息を繰り返しながら、千早さんがつぶやく。


「中間で凄く順位が伸びて、嬉しくなっちゃってさ、これでもし夜空っちの勉強法が出来ればって思ったのよね」


「結局、余計無駄な時間ばかりかけて、上手くいかなくて、気持ちばかり焦って……」


「ちーちゃん、無茶は駄目だよー!!」


「あれは、よっ君みたいな、勉強馬鹿じゃないと体壊しちゃうよー」

 ん?夕凪さん?何か、僕ディスられて無い?勉強出来るのに馬鹿とはこれいかに?


 まぁ、言いたい事は解るけど。


「でもさ、夢見るじゃない。今まで勉強出来なかったのに一気に順位が上がってくんだよ? でもまぁ、結局、時間が無くなって訳が解らなくなってさ、本当に馬鹿みたい。」


「あー、もっと早くから夜空っちと知り合って、勉強していたら……」

 千早さんが、日向を見る。


「ゴメン、何でも無い」


「アハハ、調子に乗っちゃったね。今日は私、帰ろうかな?ちょっと疲れちゃったし」


「ちーちゃん待ってよー、ごめんねー、よっ君!!ひなっちは、どうする?」


「あぁ、こっちは良いので、千早の所に行ってあげて下さい」


 カバンを掴んで、部屋から部屋から出ていく千早さんに、慌てて付いていく夕凪さん。


「グフフ、ごゆっくりー」


 出ていく時に、ゲスい顔(本人曰く)をしながら、捨て台詞をはいて夕凪さんは、千早さんの後を追って行った。


「もう、夕凪ったら」ほっぺたを膨らませて怒った振りをする日向。


「日向、もう少しいれる?」


「はい、大丈夫ですよ」


「良かった、じゃあ母さんが帰って来たら家まで送るよ」


「うん、ありがとう」何となく、日向の顔が赤かった。





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