第24話 恋ばなと君の夢3

「えっ?そこ、この式じゃないの?」


 僕と答え合わせをしながら千早さんが、天井をみて見て、深く溜め息をつく。


「あぁ、似てるけどね、こっちなら、ほらそうやって代入出来る」


 教科書とテスト、参考書の重要点を指で指しながら、丁寧に教える。


「あぁ、イージーミスだ!つまんない事で点を失った!!」


「似てるから、気を付けないとね」


 千早さんが、イライラしている様子が良く解る。


 フォローを入れようか迷うが、少し様子を見る事にした。


 日向相手だったら、もっと早くフォローしたのかな?


「もう、何でこれくらい解らないんだろ?」


「あー、自分が嫌になる!!」


 千早さんは、メガネの下から、眉間を揉みながら、ここがこうでとか、あーもうとか言って悔しがっている。


 少し、こんをつめすぎな気がするな。


 日向や夕凪さんも話しかけづらそうな、雰囲気になっている。


 その時、突然、部屋のドアがバーンと開かれる。


「にぃにー!、ポコポコ始まったー!!」


 おぉ我が妹、良いタイミングだ。


「ちょうど良いや、休憩ね。コーヒー煎れてくる」


「やたっ、夜空君のコーヒーだ!!」


「いーねー!!夜空ブレンド美味しいし!!」


「あぁ、何時もありがと、夜空っちのコーヒー何となく飲むと落ち着くんだよな。」

 三者三様に、誉められると、僕も悪い気がしない。


 さぁて、腕に寄りをかけますか!!


 妹が、ポコポコと言うのは、コーヒーポットのお湯が沸いた時の気泡の事、うちのポットはガラス製の透明な物なので、お湯がポコポコして来たら、呼んでと妹に伝えておいた。


 最初は、作る事もやりたがった妹だったけど、お湯がポコポコしたらの表現が気に入ったのか、やたら、「にぃにポコポコ!!」と言いたがる。


 うちのコーヒーは、僕がお年玉で買ったサイフォン式で、やたら凝りまくった揚げ句、コーヒーミルまで買って豆から粉を作る始末。

 個人的には、モカを中心にした爽やかな風味のブレンドが好きなのだか、ブレンドは奥が深く凝りすぎると、研究室の様になってしまう。


 日向が、初めて見た時、フラスコやアルコールランプを見て、「理科の実験してるのかと思った。」と笑われた物だ。


 フラスコにコーヒー人数分のお湯を入れてアルコールランプに日をつける。


 サイフォンにフィルターをつけてミルで引いた引き立てのコーヒー粉をロートに入れて竹べらで湿らせながら段々と撹拌させていく。


 正直作るだけなら、ドリップ式やインスタントの方がよほど失敗は無い。


 個人的には、趣味の世界だなと思ってはいる。

 フラスコにアルコールランプ、竹べらに時間を測る砂時計、作る道具のことごとくが可愛い。


 僕がコーヒーを作り始めると、女性陣が楽しそうに、其を眺めるのが良い休憩になっていた。


 一度撹拌した後、火を止めて一分間待つ。ここで砂時計の登場だ。

 小さな一分時計、オレンジ色の砂がサラサラと落ちていく。


 一分たった後のコーヒーを竹べらで二度目の撹拌させる。

 ロートに溜まったコーヒーがゆっくりとフラスコへ戻ったら完成だ。


 コーヒーの良い薫りと一緒に…。


「ねぇ、ひな、男のエプロンって、あんなに色っぽいものなの?」


「えっ?ひゃい?」


「駄目だ、こりゃ」


「いやー、ひなっちの気持ちも解るわー、何だろう、あの色気」


「解ります!!服を着てるのに色気が凄いんです!!何なら、あのエプロンについたコーヒーの染みも色っぽいんです!」


「キャー、エッロ、ひなっちエッロ!」


「まぁ、まずはひなは、コーヒー飲める様にしないとな。」


「解ってますー!!きっと、コーヒーの違いの解るレディになるんです!!」


 何か後ろ、騒がしいな。


「千早さんはブラック、夕凪さんは、砂糖とミルク、日向はカフェオレのミルク多め。」


「そして、うさぎは、ホットミルクにほんのちょっとだけコーヒー入れたコーヒー風味っと。」


「夜空君は、ブラック?それともお砂糖入れる?」


「今日は、お砂糖貰うよ、頭使ったからね」


 エプロンを外しながら、日向にお願いする。


 シュガーポットは、少し前に、日向と買いに行ったお気に入り。小さく黒猫がワンポイントで描かれた可愛らしい奴。



「夜空君は、お疲れ様だから、角砂糖二個」凄く嬉しそうに、角砂糖をコーヒーに入れる日向。


「私、クッキー焼いて来ました」


 カバンから袋を出すと、中にはいろんな形のクッキー。


「えっと、千早にはお星さまで、ゆうなにはまん丸、うさぎちゃんには、うさぎさん!!」

「わーわー、ぴょんちゃん!!ぴょんちゃん!!」飛び上がって喜ぶ妹。

「夜空君には、これ。」日向が、僕のお皿においたクッキーはハート型。


「あっ?」

 日向以外の三人の声がハモる。


「旦那、愛されてますな?」


 僕にウリウリと夕凪さん。


「ひーなー、可愛いなぁ」


 ひなにウリウリと千早さん。


「ぴょんちゃんもー!!」


 何故か、ウリウリされたがる妹様。


 みんな、爆笑。


 可愛かったので、うさぎのほっぺをウリウリしてやった。


「ありがと、日向」


 ちょっと、勿体無かったけど、クッキーを一口で食べる。


 ハートを崩したく無かったからね。


 うん美味し。


「相変わらず、夜空っちのコーヒーは、落ち着くね」


 コーヒーとクッキーを食べて、ホッとしたのか、千早さんが、疲れたーと伸びをした。


「どうしたの?焦り過ぎてるんじゃない?」


「やっぱり、そう見える?」

 千早さん、バツが悪そうな顔をした。






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