第21話 恋ばなと2年の君と11
「その、ジュースありがとう、夜空君」恥ずかしがりながら日向さんは、梅味のジュースを受け取った。
ヒューヒューと言うママさん達の声に恥ずかしがりながらも冷たいジュースで喉を潤した。
一気にコーラ飲んだから、強炭酸で喉が痛い。
「コーラって美味しいんですか?」日向さんが、コーラを一気に飲んでいる僕の方をじっと見ている。
僕が何か言おうとする前に、みっちゃんママさんが、
「あれー?彼女さんはコーラは飲んだ事無いのかしらー?」
「彼女……」恥ずかしがる僕をよそに、
「炭酸ってあんまり飲んだ事無くて」日向さんはみっちゃんママさんに笑顔で返している。
「じゃあ、一本はツラいわよねー?」
「そうね、そんなには、飲めないよね?」まぁとうなずく日向さんを見て、ママさん達が顔を合わせて、ニヤーと笑う。
「彼女って……」みっちゃんママさんの彼女発言にドキドキしている僕がコーラを飲もうとすると、
「ぴょんちゃんにぃに、彼女さんが、コーラ飲みたいって、一口あげたら?」
りっくんママさんが、そうなんですか?では、と言いたくなる位自然に言ってくるから、コーラを差し出しかけて、
「いやいやいや、まずいでしょ!?」と慌てふためく。
「そっそうですよ!!」と日向さんも顔を赤くしている。
「なぁに、これ位、友達でもやるでしょ?」
「りっくんママー、一口頂戴?」
「はい、どおぞ」
「ありがとうー」流れる様に、繰り広げられる茶番劇は、私達もやったんだから、やれよと言う、無言のアピール。
それを見て子供達も、「ぴょんちゃん一口ちょーうらい?」「どうじょ」「ありがとー」と真似している。
えー!!と心の中で叫びつつ、どうしようと日向さんを見る。
「これちょうだい、どうぞ、ありがとう」みっちゃんママさんが、人差し指を立てる。
「ここまでが子供が何か欲しい時に教えてあげるワンセットよね、ぴょんちゃんにぃに?覚えてる?」
うっ、子供の頃確かにそんな話、聞いた事あるな。
でも、それって確か子供が遊んでいるおもちゃを貸して欲しい時に教える事じゃ……。
子供達とママさん達がじっと見ている。
「あの、一口……貰っても良いですか?」こちらの方を見ずに、耳まで赤くしている日向さんからの、一言に僕には肯定以外の選択肢は無かった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」もう恥ずかしくて、お互いの顔なんて見ていられない。
「良く出来ましたー」ママさん達が嬉しそうに笑っていた。
「ここで、うちの陸がぴょんちゃんにぃにに逆上がりを教えて貰ってね!!」
りく君が、得意気に鉄棒で逆上がりをぐるんぐるん回っている。
あーー、恥ずかしい!!ジュースの件で、照れている僕ら二人を尻目に、りっくんママさんは話を続ける。
「凄かったのよー!!本当にぴょんちゃんにぃにには感謝してるわー!!」
りっくんママさんの話を日向さんが、目を輝かせて聞いている。
「陸、体操クラブに入っててね。逆上がりや跳び箱が出来なくて、少し厳しい所だったし行くの嫌がってたのよね」
嬉しそうに、鉄棒で回る息子に手を振るりっくんママさん。
「そんな時、ぴょんちゃんにぃにが、鉄棒のそばに木の板を持ってきて立て掛けてくれて、これを駆け上がる感じで回ると良いよって、教えてくれてたの」
そんな事も、あったな。
色々要素はあるのだけど、逆上がりで重要なのは、足を大きく蹴り上げる事と体を鉄棒に引き寄せる事、だから、板を駆け上がる事で足を蹴り上げる事と腕で体を引き寄せる事を身につけてくれればとおもったんだ。
「それでも最初は全然出来なくてね。ぴょんちゃんにぃにと頭を抱えてたのよね。」
「最初は、怖いし、どうせ、上手く行かないって陸、思い込んじゃったの。」
りっくんが完全に塞ぎ混んでいて、何とか出来るようにしてあげたかった。
「その時ね、ぴょんちゃんにぃにが、魔法の言葉をくれたのよ。」
りっくんママが、凄く嬉しそうに言った。
「りっくん、忍者だ!!忍者になろうって!!」
「忍者ですか?」日向さんが、不思議そうな顔をする。
「そう忍者!!」りっくんママさんは、満面の笑顔。
「魔法の言葉なんて大した物じゃ無いですよ」
僕は、照れ笑いをする。
「ただ、その年、調度、忍者のアニメが大ヒットした年で、りっくんもそれが好きって聞いていたから。」
照れながら言う僕に、りっくんママが言う。
「何言ってるの!!その時から、陸の目の色が変わって、練習凄かったんだから!!」
「そうそう、忍術壁走り!!ってねー。」みっちゃんママが微笑ましそうに言う。
「お陰で、今じゃ運動大好きな子になったんだから、大感謝よ!!」
「まぁ、体操クラブは、厳しすぎて辞めちゃったんだけどね」りっくんママさん、ちょっと苦笑い。
「凄いですね、夜空君」
日向さんが、からかい半分、尊敬半分に、ウリウリ、肘で僕をつつく。
「もう、だいぶ前の事なんですから、勘弁してください」
照れながら、頭をかく。
「そうねー、彼女さんからの視線も痛そうだしねー」
りっくんママさんがからかう。
「うん、凄いです!!あんな小さな子に逆上がりを教えるなんて、尊敬です!!」
「そんな、逆上がりなんて、みんないつかは、出来るものでしょ?」
今日は照れてばかりだ。
「私、出来ないです」
日向さんがしゅんとした顔をする。
「えっ、えーと、まぁ別に出来なくても、生きてくには関係無いしさ」
そうそう、関係無い。
「あらー、地雷ふんじゃったー」
みっちゃんママさんがニマニマしながら、からかってくる。
「小さな頃、逆上がり出来る人って、それだけで尊敬してました。誰でも出来るんですよね」
小さく溜め息を一つ。
「あーあ、出来るようになりたいなー!!」
チラッと僕の方を見る日向さん。
「逆上がり良いなぁー!!」
チラッ。
「解ったよ、解ったから、今度逆上がり教えるから!!」
露骨な催促に白旗を上げる。
「やった!!…でも、なんで、今日じゃ無いんですか?」
「いや、だって、スカートじゃ鉄棒無理でしょ?」
何を言ってるんだと言わんばかりに、呆れて言う僕に、
「そう言えば、そうでした。」と赤い顔をする日向さん。
「あら、残念だったわねー、彼女さんのスカートの中見れたのにねー。」
「何を言ってるんですかー!!」焦る僕。
「そうです、もっと、良い下着を着ている時にして下さい!!」
「君も何を言ってるんだ!?」
「あわわ、すみません。」自分の言った事に気付いたのか、もう、日向さんも滅茶苦茶。
その様子を見て、ママさん達が大笑い。
その様子を見て、子供達も大笑い。
何だこれ?
騒ぎ疲れた頃、みっちゃんが、「ママ、おしっこー!!」
「わー、この公園トイレどこだった!?」
「あっち、あっち!!ブランコの向こう!!」「急げー!!」「いちょげー!!」「ぴょん、ちゃん、バーン!!」
わーっと走り去っていくお子様とママ友さん達、そして、取り残された僕ら…。
「プッ!!」
「フフッ!!」
堪えきれずに、二人して笑った。
こんなに笑ったのは、いつ以来だろうか?
「笑いすぎて涙が出てきた。」
「本当に、今日は笑いっぱなしですね。」
日向さんと僕は、マトモに話したのは今日が初めてで、こんなに沢山、話して…。
「日向さん、ありがとう、今日は楽しかった。」
日向さんの方は見ない。
だって、恥ずかしいから。
「ありがとう夜空君、私こそ楽しかったです。」多分、日向さんも、こっちは見ていないと思う。
何となく、そんな気がする。
だって、恥ずかしいから。
「改めて、また教えるからさ、逆上がり。」
「うん、楽しみにしてるね。」
秋の涼しい風が少しだけ、吹いてきた。
「文化祭、ちょっとした案があるんだ。」
「本当ですか?楽しみです。」
「文化祭、頑張ろう。」
「うん、頑張りましょう。」
僕は、ゆっくり振り返る、そこには優しい笑顔の日向さんがいた。
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