第20話 恋ばなと2年の君と10
滑り台と、そこらじゅうにつながったトンネルの複合物、それが僕らが言うてんとう虫の遊具の正体だった。
コンクリートで作られた巨大なてんとう虫に幼児達が走っていく。
「りっく、いっばーん!!」
「ぴょん、ちゃん、バーン!!」
「みな、はやーよー」
「りく、ちゃんと前見る!!」「みんな、気を付けてねー」「ちょ、みっちゃんママ、あれあれ!!」
「あらあら、二人ともー」
大騒ぎしながら、園児親子ーズが公園を目指して行く。
「懐かしいー!!ここです!!このおっきなてんとう虫!!」日向さんが息を弾ませて僕と一緒に走る。
「ここは、良くっ、妹をっ、連れてっ、来るから!!」ハアハア息を切らせながら、僕も日向さんと一緒に走って行く。
僕らの手はつないだまま。
「ねぇ、夜空君教えて下さい!!小さな頃どんな遊びをしていたのか?何が楽しかったのか?」
「そっ、そんな事で、良ければ、もちろん!!」
多分、僕らはハイになっていたのだと思う。普段なら恥ずかしかった事でも、何も気にならない。
「夜空君着きました!!行きますよ!!せーの」
「とーちゃーく!!!」
二人して、手をつないだまま『ばんざーい!!』をする。
意味の解らない達成感に、二人して大笑いする。
「あー、走ったー!!」制服のズボンが汚れるのも構わずに公園の地面に座り、大きく深呼吸する。
「もー、夜空君体力無さすぎです!!」日向さんも、そう言いながら息を弾ませている。
「そうかもしれない、体育以外で走ったの、久しぶりだよ」
カバンから、タオルを取り出すと、使っていない方を渡す。
「これ、妹用にいつも余分にタオル持ち歩いてるんだ。使ってないから、良かったらどうぞ」
「あっ、ありがとう、あっ!!冷たい!!」日向さんは少し顔を赤らめながら、タオルを受けとって、少しびっくりする。
「水筒に巻いて冷やして置いたから冷たいでしょ?」
「さっぱりするー!!あっそうだ、ちょっと待って」
日向さんも、バックから何かを取り出した。
「エヘヘ、制汗スプレー」
そう言って僕の方にスプレーをかける。
ブシュという音をたててミストが軽くかかる。
「うわっ!!冷たい!!」
クールタイプなのか、凄く冷たい。柑橘系の匂いがする。あっ、この匂い僕は好きだな。
「気持ち良いでしょ?」日向さんは、スプレーを自分の首元にもかける。
少し制服に隙間を開けて、スプレーが身体中に回る様に、その仕草につい、ドキッとしてしまう。
「タオルありがとう」
「こっちこそ、スプレー良い匂いだね」
日向さんを直視出来ずに思わず、目をそらすとママ友さん達が、大きく手を振るのが解った。
「二人ともー仲良しさんな所、邪魔してごめんねー!!こっちこれるー?」手招きをして、こっちに呼んでいる様だ。
「何だろう?日向さん行こうか?」
「あっ、仲良しさん……」
テレている日向さんに、僕は手を差し出す。
「あっその…ありがとうございます」
日向さんが手を握ってくれたので、優しく引っ張って起こす。
「凄い、力強いんだ……男の子だね」
「そうでもないよ、多分、日向さんが軽かったせいかな?」
「そんな、私なんて太ってるし!!」
女子に良くある太ってますアピールを軽く笑いながら。
「日向さんが、太ってるなら大抵の女の子は太ってる事になっちゃうから、言わない方が良いよ」
唇に手を人差し指を当てて、しーっと言うポーズをとる。
「あっその……夜空君の、そう言う所ズルいと思います」
ちょっとすねた日向さんと、手を取り合ってママ友さん達の方へ向かった。
「ごめんねー、ぴょんちゃんにぃに」
みっちゃんママさんが、軽く胸の前で、両手を合わせている。
「どうかしたんですか?」
「暑くて汗をかいたから、子供達に飲み物をと思って」
「あっ、すみません!!気が利かなくて!!」僕は、妹用に持ってきた水筒をカバンから出そうとすると、
「あっ良いのよ、調度ジュースでも、飲まないって話になってぴょんちゃんや貴方達もどうって思ったの?」
「私達で奢るわよ!!!」ママ友さん達が、ニッコリ笑って言う。
「えっ?悪いですよ!!」
「そっそうですよ!!特に私なんて部外者なのに」
流石に奢ってもらうのは悪い気がした。1本は百いくらだったとしても、これだけの人数になればそこそこな金額になってしまう。
「こういう時の為に母から、お金はもらってありますから」
財布を取り出そうとした僕にりっくんママさんが、それを押さえて言った。
「あのね、こういう時位、大人を頼りなさい」
「私達にとっては、この位のお金は大した物じゃ無いのよ」
「それに、今日は本当に楽しませて貰ったわ」
「もう今までの間、キュンキュンしっぱなしだったもの!!」
二人は、キラキラした目で、僕らを見る。
「でも…」
「でもじゃない!!その位、私達に大人させなさいな」
日向さんが、どうしようと言うように僕のシャツの袖口をつまむ。
「…そうだ!!」
僕はママ友さん達に提案した。
「あの、ご厚意に甘えさせて貰って良いですか?」
「もちろん!!」
りっくんママさんが嬉しそうに言う。
「只、お願いがあります」僕は、二人に頭を下げる。
「1人分だけ、僕に払わせて頂いてもよろしいですか?」
「1人分?」
りっくんママさんが、不思議そうな顔をする。
「その、日向さんの分だけ、僕に払わせて頂いてもよろしいですか?」
確かに、ジュースの数本位、大人のママ友さん達には、何でもない事なんだろう。
でも、それだと部外者である日向さんが気にするのでは無いかと思ったのだ。
「良いわね!!ぴょんちゃんにぃに!!」
ママ友二人は、満面の笑みで答える。
「そうよね!!彼女の分位、奢りたいわよね!!流石、男の子!!」
それを聞いて僕は顔を赤くする。
「えっ?いや、そのじゃなくて」
僕は、ただ日向さんが部外者だから、気にすると思って言っただけだったのだけど、言われてみれば普通そうとる方が自然なのか?
「そっその…、ありがとうございます。」
僕らは二人、顔を赤らめながらジュースを買った。
コーラは冷たかったけど、顔の火照りは中々消えない様だった。
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