第17話 恋ばなと2年の君と7

「天野さん、どうしたの?」


 真っ赤な顔をして、驚いている天野さん。


 何に驚いているんだろ?


「あの天野君ですよね?」


 はい?


「そうだけど、どうかした?」


「いえ、メガネが……」慌てた顔をして、日向さんは、僕から目を反らす。


「そんなに可笑しいのかな?まぁ普段妹との迎えの時以外外す事なんてほとんど無いんだけどね」


 僕は苦笑いしながら軽く髪を書き上げた。


「えっ?今のじゃなくて……いえ、全然、可笑しくありません!!とっても素敵ですよ!!」


「えっ?あっ、ありがと……」


 お世辞だと解っていても天野さんに言われれば、少しにやけてしまう。


「あの天野君ってそんなに、視力が悪いんですか?」

 天野さんの言葉に、

「うん、後で使い捨てのコンタクトするつもりなんだけど、つけていないと」


「ほら、これ位近づかないと良く見えない」


 そう言って良く天野さんが見える距離まで近づこうとすると、凄い勢いで、天野さんが後退ってしまった。

「ちっ、近いです!!」


 慌てる天野さんを見て、本気で冷静になってしまう。


「ゴメン!!調子に乗った!!」


 土下座するかの様な勢いで、頭を下げる。不味いな本当に調子に乗ってしまった。


「こっちこそすみません!!嫌だった訳じゃびっくりしただけで、だっ大丈夫、大丈夫ですから!!」


 何が大丈夫なのか解らないが、天野さんが許してくれて助かった。


 しかし、陰キャの癖に、調子に乗ってしまった。本当に気を付けないと。


 僕と彼女ではヒエラルキーが違うんだからな。


 全く冷や汗所の騒ぎでは無かった。


「にぃに、そこのねぇね?お姫様をおいて何をしてるのかちら?」


 そんなやり取りをしていると聖女様所じゃない、うちのお姫様がご立腹してしまった様だった。


「大体、お迎えに来るのが遅いにょに、お姫様をお待たちぇちてても、いいのかちら?」


 天野さんと二人、顔を見交わして小さく笑う。


「お待たせしましたお姫様」


 胸に手を当てて軽くお辞儀をする。


「にぃに、ぴょんちゃん姫はお待たせだったの!!」


 偉そうに、腰に手を当てて、どや顔のお姫様。

 笑わない様に、必死に抑える。


 笑うと、うちの姫様怒るから。

 笑い顔を見られないように、向くとよこを、同じく満面の笑顔の聖女様が小声で、


「天野君、妹さんスッゴく可愛いね」


 僕も笑い返した。


「所でにぃに!!そちらのねぇねは、誰かちら?」


 おぉう、そうだった紹介が遅れた。


「ごめん、ごめん、紹介が遅れたね」


「こっちのちっこいのが、いてっ」妹が、脛を蹴る。


「こっちのちっこいのが、いてっ」妹が、脛を蹴る。


「こっちのちっこいのが、だー、解ったよ。」


 僕のとある言葉に反応して、僕の脛を攻撃しようとするお姫様。観念して芝居がかって紹介する事にする。


「こっちのお姫様がうちの妹、うさぎです。」


「あまのうさぎです!!ぴょんちゃんて呼んで下ちゃい!!」


 園服すそを持って、優雅?に妹はお辞儀する。


「キャー、もう可愛い!!」


 両手を口に当てて、跳び跳ねんばかりに、天野さんが大ハシャギする。


 凄いな、聖女様のこんな感じ、めったに見られないんじゃ無いか?


 グッジョブだな、妹!!


「こいつの言う事はあんまり、気にしないで、いてっ」


 妹が脛を蹴ってくる。


 いい加減、脛がボロボロだよ。


「フフッ、天野君が悪いですよ、それは」


「あーハイハイ、僕が悪いんですよ」


 冗談っぽく肩をすくませて謝る。


「うさぎ?こちらが、クラスメートの天野さん」


「えー、そうだな……」

 ニヤリと笑う。

「ぴょんちゃん姫様、彼女は、聖女様なのでございますよ」

 そのとたんに天野さんの顔が真っ赤になった。


「あわわわっ、止めて下さい!!天野君!!」


 恥ずかしさに顔を赤らめる天野さんと無茶苦茶嬉しそうな笑顔のうさぎ、


「ねぇねは、聖女様なのね!!聖女様なのね!!ぴょんちゃんはお姫様だから、聖女様は、お友達なの!!でも、お姫様の方が偉いのよ!!」どやってんなー、


「もう天野君、後で覚えておいて下さいね!!でも光栄です、お姫様」ひたすら優しい笑顔で妹に微笑みかける天野さん。


「ねぇね、お名前は!?」


「だから、天野さんだって」


「にぃに黙りぇ、良く解らないけど、ねぇねは聖女あまのなの?」

 何を言ってるんだ、家の妹は?


「うさぎは、あまのうさぎなの、しょりぇか、うさぎ姫なのよ!ねぇねは、だぁれ?」


 はっとした顔をする天野さん。


「そうよねー、ぴょんちゃん姫様、ちゃんと自分の口で、ご挨拶しないと駄目ですよね」


 天野さんは、しゃがんで妹と目線を合わせる。

「改めて、初めまして、うさぎちゃん、私の名前は天野日向と申します」


「日向ぼっこの日向です。同じ天野で、お揃いですね」


「それと、天野君…夜空君のお友達です。よろしくお願いしますね」


 あれ?いつの間に友達になったんだろう?嬉しいけど。まぁ、社交辞令かな?って、今。


「あの今、名前…」


「あっ、急にごめんなさい夜空君、今日一日話してみて、何となく話し辛かったから、名前の方で呼ばせてね!!」


「えっ、あっ、それは別に構わないけどさ……」


「私の方も、日向と呼んで下さい」

 やっぱりか、そうなりそうな気はした。


「いや、まずいまずい、僕みたいなのと名前呼びなんて」


「僕みたいって、そんな事言わないで下さい。やっぱり名前で呼ばれるのなんて嫌ですか?」


「いや、そんな事はないけどさ……」みんなに知られたら、どうなってしまうのか。


「じゃあ良いですか?私だって、男の人を名前で呼んだ事なんて親類以外でほとんど無いんですけど」


「だから、不味いんだろ?君の人気の話は、さっきしたばかりじゃないか?」


「夜空君には悪いですが、私は仲の良いお友達は名前で呼ぶ事にしているんです」


 確かに彼女は、遠藤さんや近藤さんを名前で呼んでいたけど。


「でも、遠藤さんと近藤さん以外に名前呼びしてるの聞いた事無いよ……」


「それは、その……仲の良いお友達ですから」


「ねぇ、うさぎちゃん!!」


「うん、ひなちゃちゃ…ひなちゃちゃん……ひっ、ひなねぇね!!」お姫様、上手く言えなくて諦めたか。


 うさぎと楽しそうに笑う日向さん。


 でもさ日向さん、それって僕も仲の良い友達入りって事で良いのかな?







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