第12話 恋ばなと2年の君と2

「天野夜空君、やって頂けるんですか?」


 天野夜空君、背は平均より高めだけど、少し長めの髪形と大きめの眼鏡が印象的な男の子。

 少し暗めの印象です。

 確か勉強は凄く出来るって谷本君から聞いた事があります。

 私自身は、同じクラスなのに、話した事はあまりありませんでした。


「ゴメン、何て言えば良いのかな?」


 第一印象は、凄く落ち着いた優しい声。


 最近、いきなり男子から、告白されたり、からかわれたりとかが多かったから、少し男子に対して抵抗があったんです。


 この前なんか、


「俺の物になれよ、俺は、ビックになるぜ」


 なんて言われて正直、ひいてしまった事もありました。


 先程の野球部の田中君だったのですが。

 あの時は、『人に対して物になれって、どういう事でしょうか?』『私は、冗談でも人を物扱いするような人とお付き合いしたいとは思いません』とつい怒ってしまいました。

 やっぱりあの人あまり好きじゃありません。


 つい、その時とを比較してしまいます。

 男の人が、皆さんがあんなに横柄だとは思いませんが。


「悪いんだけど、このままじゃ決まらないんじゃないかな?」


「どういう事」


 私が話そうとすると、千早が一早く反応しました。

 あっ、千早の声が機嫌の悪い時の声色です。


「あの僕さ、悪いんだけど今日用があって急いでるんだ」天野君はすまなさそうに頭を掻きます。


「どうゆうことよ?」

 千早が怒っているのが、私には何となく解ります。

 先程の田中君の事から少し怒っている様です。


 でも、そうですよね天野君や皆さんにも都合があるし、しょうがないですよね?


「良い度胸ね!僕には、文化祭なんて関係ないで帰りますって、そう言う事?」


「いや、そういう訳じゃ無くて、まぁ早く帰りたいんだけど」


「じゃあ、どういう事って聞いてるの!!」

 

「千早!!少し落ち着いて下さい!!」

 こういう時の千早は、少し怖いです、あまり話を聞いてくれません。


「ごめん、怒らせるつもりは無かったんだけど」


 天野君は、困ったように頭を掻きながら慌てています。


「ごめんなさい、天野君。お時間を取らせてすみませんでした」


 千早が怒る前に、私は天野君に頭を下げた。


「ひなっ!!あんたが謝る所じゃ!!」


「ごめんね天野さん、どうも僕は人に説明するのが苦手だなぁ」


「実はね」天野君は、照れ臭そうに笑いながら、


「僕も、文化祭実行委員になるから、今日は帰っても良いかな?って話なんだけど」


「えっ?」


「何?本当にどういう事?」


「えっと、条件は、部活をしていない事だったよね。まず僕は帰宅部だから、クリアだよね」

 天野君が、ゆっくりと説明し始めます。


 その落ち着いたしゃべり方や彼の笑顔が、何となく、好きな推理小説で謎解きを始める時のワンシーンを思い出して胸がドキドキしていたんです。


「次に一応、勉強の方は、まんべんなくやっているから、数学もまた、苦手分野では無いよ」


「あーまぁ、そうらしいね」


「凄いですよね?確か、全国学力テストでも、いつも上位って聞きましたよ?」


「えっ?誰に聞いたの?もしかして谷本?」


「えぇ、谷本君が教えてくれました」


「代わりに何か聞かれなかった?」


「?えーと、特には…、あっ好きな食べ物とか好きな音楽とか聞かれましたけど?」


「でも、その程度ですよ?」


「あの情報魔め」


 天野君が小さな声で、ボソッと言いましたが良く聞き取れませんでした。


「まぁ良いや、勉強が出来るっていっても、僕は他に夢中になれるものが無かっただけだからさ、大した事じゃ無いよ。」


 そんな事は、どうでも良いと言わんばかりに、苦笑いを浮かべる天野君。


 天野君が、話始めたとたんに周りが騒がしくなって来ました。


「あっ、もう一人の天野発見」「あいつだろ?あの、ねぇ、そう頭が良い奴」「それしか印象無いの?」「メガネかけてる」「でた、メガネかけてる奴は、メガネが本体説」「あんな陰キャが、しゃしゃり出てくるんじゃねぇよ」「でも、この説得力の強い事」「お前なら、出来るのかよ?」「俺なら、そうバーンとやって、ぐーんとやって聖女様のハートをキャッチでだな」「バーン!!」「殴んなよ!!」「お前には、無理だわ」


 みんなの声は、聞こえているのでしょうか?


 天野君は話を続けます。


「最後に、僕は、一年の時、文化祭実行委員やってるんだ。知っている人がいれば良いけど。プラネタリウム喫茶やったんだ、中々上手く行ったと思ってるよ」


「あーっ!!!」クラスじゅうに声が響きます。


「あぁ、知っています!!違うクラスでしたけど淡いプラネタリウムとテーブルのランタンで、凄く綺麗でした」


 凄い行列が出来てたんですよね。


「ほら、千早!!千早も感動してたじゃないですか!!」


 私は、興奮で千早の腕をブンブンふりました。


「ちょっ、落ち着けひな。あぁ、確かにあれは、綺麗だったけど……。あれ、しきってたの天野だったのか?」


「本当は、反省点ばっかりで恥ずかしいんだけどね」


「へぇ、あのレベルで反省点って何があるの?」


 千早も、最初は収まりが悪かった様ですが、ちょっとずつ落ち着いて来た様です。


「あるよー、例えば、淡いプラネタリウム」


 えっ凄く幻想的で綺麗でしたけど?


「本当は、本格的なプラネタリウムにしたかったんだけど、暗くなりすぎちゃって肝心の喫茶店が上手く行かなくなったりしてね」


「暗い中での、喫茶店は大変なんだよね」天野君は、いたずらに失敗してしまったかの様に苦笑いしながら話します。


「それで、ギリギリまで光の調整してたら、偶然あの色になったんだ」


「あの淡い色、偶然だったのですね」


「他にもね、ああいう大がかりな物はハプニングに弱いんだよ」


「へぇ、どんな?」


 千早もやっと落ち着いて興味津々の様です。


「例えば、お客がはしゃぎすぎて暗幕が壊れるとか」


「他にも、中は暗いからさ、カップルが入り浸ったりして、それを監視するために先生が定期的に見回りに来たり」


「なるほどねー、で、そこまでのノウハウを持ってる天野君が何で、もっと早く立候補しなかったのさ?」


 そう言えばそうです、もっと早く言ってくれれば。


「出来れば、やりたく無かったからね」


 バツの悪そうな顔をして天野君は、肩をすくめて笑いました。



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