第6話 恋ばなと修学旅行6

 日向さんは、どうしようと、不安そうに遠藤さんの方を見る。

 遠藤さんは、肩をすくめて、


「ひな、夜空っちに格好つけさせて上げたら?」


「面白くなってきたーー!」「メガネ男子の癖にやるじゃん」「メガネは、関係無いでしょ?」「頑張れ男子!!」「頑張れ夜空っち」「がんっばれー!!」


「……夜空君」

 日向さんが、胸の前で両手の平を祈る様に組んだ。


「あれ?良い展開じゃないの?」「ファイトーー天野君!」「上手く行くかな?」「ねぇー?」「上手く行って貰わないと。」


 少し躊躇する、喉がからからだ。朝から、僕何やってんだろ?晒し者だよね。でもそれは、日向さんも同じ事だ。


 だから、言わなきゃ。


「日向さん」


 僕はさっきの日向さんと同じ言葉を言う。


「ごめんね、まき込んで」


 彼女は、ううんと首をふった。


「出来れば、最後まで聞いてくれないか?」


「どうするの?ひな」


 遠藤さんが日向さんの肩を叩く。


「はい、解りました」


 しばらく考えた後、彼女は言った。


「でも夜空君に、1つお願いがあります」

 日向さんの顔も真剣だ。


 もちろんと、僕は微笑む。日向さんの言う事なら何でも聞くつもりだ。


 例え、それが2度と話かけないで下さいとか、言う様な、悲しいお願いであっても……。


「あの……夜空君、後で、後で良いんです。私の話も聞いて欲しいです」


 必死に懇願する日向さんを見て、とりあえず僕のマイナス思考な話にはならなそうで少し、ホッとする。


「もちろん」


 日向さんが、コクりとうなずいた。


 しかしこの状況、あぁ、何かフワフワして力が入らないや、このままじゃ駄目かな…。


「よしっ!!」


 心の中で叫んで、大きく息を吸い込み、自分の両頬をパチィーンと叩き気合いを入れる。


「痛そうー」「夜空君、男の子ー」「気合い入れる男の子、ちょっと良いかも」「流石、元柔道部だね」「そうなの?」「はい、小学校までやっていたそうです」

「あら、何でひなが、得意気なの?」「うぅー、千早のいじわる」

「広島名物が、ほっぺに2つだ」「もみじまんじゅうー!!」「奈良だけどね」


 ロビーがシーンと静まり返っている。


 みんなが、気を利かせて静かにしてくれた様だ。


 さぁ始めよう、道化の様な僕の一人舞台を、


 日向さんに向けて捧げる告白劇を。


「ねぇ、日向さん聞いて欲しい事があるんだ」


「僕には好きな人がいます」


 周りからヒューと言う声とシーと言う声が聞こえる。


「その人は、僕に比べたら、文不相応なほど綺麗で可愛くて、見てるだけ、話しているだけで心を和ませてくれる様な人なんだ」


「いつも、誰にでも優しくて。みんなから聖女とさえ呼ばれていたんです。そんな時に僕は、ひょんな事から君の涙を僕は見てしまった」


「その涙を見た時から、僕は君を心から守りたいと思ったんだ」


「本当はね、この気持ちは誰にも教えたく無かったんだ」


「でも、仕方ないよね。僕は君の隣にいたいって思ったから、一緒に歩いて行きたいと思ったから……」


「天野日向さん、僕は君が好きです」


 しばしの静寂のちに……。


 キャーーーーーーーー!!!


 女子達の叫声が、ラウンジ中に響き渡った。


「キャー言っちゃった」「やだもう泣けちゃった」「夜空君?私の隣でも良いのよ?」「黙れ文不相応」「難しい言葉使わないでよー」「バッカ解りなさいよ!これだから、あんた達国語駄目なのよ」「聖女様って呼ばれてる日向さんじゃなくて、日向さん自身がって、あれでしょ?」「本当、頭悪いわね」「もう結局ひなっちで、おけ?おけ何だよね?」「天野夜空、ややこしいしー!」「うぅ、駄目呼ばわりされたー。」


「みんな黙って」


 日向さんの腕を掴んだまま、遠藤さんが一言言うと、シーンと静まりかえる。


「夜空っち、この際教えてあなたはひなのどういう所が好きになったの?あなたもひなが聖女様って呼ばれてる有名人だから?」


 遠藤さんは、僕を見据える。その脇で、日向さんは、恐る恐るこちらを見ていた。その顔は真っ赤だ。


 僕も顔、真っ赤。


 軽く深呼吸して心を落ち着ける。この際だ、最後まで言ってやる。


「本人の前で言うのも何だけど、僕が好きになったのは聖女様何かじゃなく、日向さんなんだよ」


 話始めると少し落ち着く。


「日向さんは、僕にとって初めての女の子の友達で、まぁ2年の文化祭の実行委員がきっかけだったんだけど、その時、一緒に頑張って、ちょっとケンカしちゃって、日向さんを怒らせちゃったんだ」


「日向さん覚えてる?僕はその時、話した言葉、今でも忘れられないんだ」


「文化祭の準備、頑張りすぎて空回りし過ぎてる君に僕は、酷い事を言った」

 今でも思い出す、あの時の事。


「頑張る君に、僕は『何でそんなにムキになるんだ。皆は、君にそんな頑張りを期待何かしていない、聖女様なら聖女様らしく、笑ってれば良いんだ。それで皆、手伝ってくれる、それで充分だろ』って」


 本当は、もっと言葉が荒かったけどね。


「そんな言葉に君は初めて、怒った顔をして『誰なんですか聖女様って?何なんですか聖女様って?聖女様なんて、そんな人いませんよっ、私は特別な事なんて何も出来ないんです。どっちかと言えば、皆に、あなたに迷惑かけてばかり、だから力いっぱいやるしかないんです、力いっぱい空回る事しか出来ないんです』って」

 みんな、シーンと聞き入っている。


「その時思ったんだ、この子は特別な扱いをされるのが、嫌で、でもそれに対して強く言えない、でも強くなりたい、ちょっと弱虫な普通の女の子なんだって」


「……笑顔の可愛い普通の女の子なんだって」


「それから文化祭が終わってからも、少しづつ話すようになって、そんな日向さんだったから気になって、だからさ、聖女様って言われてるとか、どうでも良かったんだ」


「だからさ……」


「ストーップ夜空っち、ありがとう」


「自分で言っておいて何だけど、これ以上は、ひなが死にそうだ」


 続けようとする僕に遠藤さんが苦笑いをしながら待ったをかける。


 良く見ると、日向さんが顔を両手で押さえて肩を震わせている。つられて、取り巻きの女子達も、グスグス鼻をすすっている。


「グズッ、夜空君はズルいです?」えっ?泣いてる?


「夜空ぐんは、いつもやざじくてグズッ、あの時だって、空ぶっている私を助けようとして、悪ぶってグズッ」


「ほら、ハンカチ」


 遠藤さんが、ハンカチを手渡す。


「忘れる訳無いじゃ無いですか、あの後の言葉も」


 チーンとハンカチで鼻をかむ。遠藤さんが凄く嫌そうな顔。

 聖女様形無しだな。

 彼女は続けた。

「夜空君は言ったんです。『なら、好きにやりなっ』って、『空回りした分は、僕がいる』って、『倒れたきゃ勝手に倒れれば良いよ、絶対に倒れさせたりなんかするもんか、倒れる前に僕がささえるよ、日向』って」


 キャーーーーーー!!

 本日、2度目のキャーが響いた。


「ひなー、今度は夜空っちが死んじゃう」


 遠藤さんが、苦笑いしていた


 まいったーー!!

 そりゃそうだよね。いきなり大勢の目の前で、告白して、言いきってホッとした所で日向さんの攻撃。

 もう、顔が暑いって言うか熱い。


「もう、やだー何?天野君イケメン?」「言われたーい、私も言われたーい。」「CV《キャラクターボイス》は坂 ◯斗で」「駄目ー、聖女様が天使様になっちゃうー」「倒れる前に、僕を支えるから(キリッ)」「倒れる前にお姫様抱っこーー!!」


 もう勘弁してくれー。

 まぁ、頭を抱えるが、すっきりはしている。

 良いか。いつも思っている事は全て言えた。

 いつも思ってたんだ。

 日向さんは、綺麗だし、可愛いし、優しいし、真面目で一生懸命だし、でも別に活発な訳じゃなく人の上に立とうとする様なタイプでもない。そんな普通な彼女にとって聖女様って愛称は苦痛以外の何物でも無かったと思う。


「ねぇねぇ、もう1つの方は、どうする?言っちゃう?」近藤さんが、フワフワとした声で言う。

「どうしょっかー?まぁ、ひな、あんたが言ったらー」

 日向さんが、うなずいて涙を拭う。そして一言。


「夜空君」


「大好き💓」


 日向さんは、僕の胸に飛び込んで来た。


「ひなっ全部説明はしょるな!!!」


 無茶苦茶、不機嫌そうな遠藤さんが日向さんに突っ込みを入れた。


 皆が笑う。スマホを片手にカシャカシャと写真を取りながら。

 僕は日向さんに抱きつかれて、どうしたら良いか解らないまま、遠藤さんに聞く。


「ねぇ、何で僕達は、みんなの前で告白しあいをしなきゃ行けなかったのかな?」


 何となく、そうしなきゃいけない雰囲気だったんだけど。


「まぁ、大体は最後、詳しい話をはしょった、この子が悪いんだけだどね」


 抱きついたまま、離れようとしない日向さんの頭をポンと叩く。


「まぁこれも恋ばなマジックなんじゃない?」


 何故か、ドヤ顔をする遠藤さんと近藤さん他の女子達。上手く誤魔化されてる気もするけど。


「まいったな」


 まだ、始まってもいない修学旅行の2日目、これからどうなって行くのだろうか?


「夜空くーん!!」


 僕は抱きついている日向さんの柔らかい感触に戸惑いつつ幸せを噛み締めていた。


 そこ、クラウド保存は止めなさい。

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