第5話 恋ばなと修学旅行5

「確かにそれなら対等ですよね」

 そうすれば何も問題が無いと言わんばかりに勝手に気合いを入れる日向さん。


「うわっ、何か凄い事になって来たな」

 谷本が嬉しそうにメモを取り出した。


「ちょっと待って、落ち着いてよ日向さんと遠藤さん!!」


「冷静に考えて!!皆に君の好きな人が解っちゃうんだよ!!」


「えっとね、それはもう……」

 急に真っ赤な顔でうつむく日向さん。やっと、解ってくれたのかな?

「夜空っち、ひなの邪魔しないで」


 何とか落ち着かせ様とする僕に遠藤さんが強めに言ってきた。


「邪魔って、こんなの可笑しいでしょ!?」

 その言葉にイラッとした僕も、つい強い口調で返してしまう。

「自分の好きな人なんて、それぞれが自分の胸に秘めとけば良い話で」


「まあね、でも、それを不公平だって、思ってる子が、ここにいるんだよね」


 遠藤さんは日向さんに視線をむける。


 日向さんは、赤い顔をしたまま、自分の胸に手を当てて、少し苦しそうな顔をしていた。


「僕の事なんて、気にする事ないのに」

 その顔を見て、僕まで胸が苦しくなってしまった。


「そんな事を、気にする子だって、君も知ってるでしょ?」


 ああ言えば、こう言う。遠藤さんの言葉は僕の言葉の攻撃力では、びくともしない鉄壁の盾。


「何で、そんなに日向さんに、その話をさせたいんですか?」


「僕は、失敗して、あいつらに好きな子を知られてしまった」


「こんな騒ぎになるとは思って無かったけど、それでもしょうがないとは、思っているんだ」


 頭にはくるけど。


「僕みたいに、恥ずかしい目に日向さんには、あって欲しくない」


「遠藤さんは、日向さんの友達なんでしょ?」


「それとも、日向さんをからかいたいだけなの?」


 自分でも、ムキになっているのは、解っている。


 それでも、彼女を守りたかった。


 薄っぺらい正義感だとしても……。


「あのねぇ!!私は、ひなの親友なんだ!!何も知らないくせに!!」


 遠藤さんの怒りのこもった顔に少したじろぐ。


 そこで、はっとした顔をした遠藤さんが、考え込む様に言う。


「ひなが言ったの。好きな人がいるって」


 遠藤さんがため息をつくように言った。


「千早っ!!」

 日向さんが、慌てて遠藤さんを止めようとする。


「えっ?」急に何を?


 胸がバクバクしている。


「そっ、そうなんだ」


 自分が、狼狽えてるのが解る。


「昨日の夜ね?」


 日向さんの言葉にも、遠藤さんは止まらなかった。


 少しめまいがする、視点が定まらない。


「私達も、したんだよね?」


 ……何を?


「恋ばな」


「……えっと、恋ばな?」訳も解らなくなった僕は、その言葉をおうむ返しした。


「そう恋ばな、ねっ、みんな。」


「 ねー!! 」狭いロビーに女子達の声が響く。


 恋ばなって、あの恋ばなだよね?


 あぁ、もう訳が解らなくなってきた。


 後ろを見れば谷本が必死になってメモを取っている。


 うん、後で奴はぶん投げてやる、覚えとけ!!


「その時、もちろんひなの話も出たのよ」


「最初は乗り気じゃないんだろうなって思ってたけど、ひながね、凄く嬉しそうに話をしたんだ」

「最初は私達も、びっくりしたけど、あの時のひなの顔が素敵過ぎてね」


「私達、皆であの子の背中を押してあげようって、決めたの」


「これからやるのは、昨日の恋ばなの続き。私達は、きゃいきゃい言いながらひなの恋の行方をみつめるの」


「もっもう、千早はいつも勝手に話を進めるんですから」


 恥ずかしそうに、でも、どことなく嬉しそうな日向さん。


「ごめんなさい夜空君、巻き込んでしまって……その、私の話聞いてくれる?」


 何だかよく解らなくなってきた。


 でも、言える事は、このままだと、彼女は好きな人の名前を言う。


 誰なんだろう?少し考える。


 もしかしたら、その僕?自惚れる訳じゃないけど確かに、良く話すし仲は良いとは思っている。


 他に、噂になっている人は聞いた事が無いし。


 話の流れ的にもね……。


 でも、本当にそうなのかな?僕は彼女の何を知っている?


 僕の知らない日向さんが、他の奴と……。


 その瞬間、僕の頭の中を嫌な考えが、グルングルン周り始める。


 このままで、良いのか?


 嫌だ、後悔したくない!!


 恥ずかしさと後悔の天秤なんて、とっくに壊れてるんだ!!僕には、背中を押してくれる人がいなかったけど……。


 出来る事があるなら前に進め、天野夜空!!


 言わずに後悔なんて、絶対したくない。


「待って!!」


 僕は、話そうとする日向さんを止めた。


「夜空っち、いい加減に」


 遠藤さんを手で制して続ける。


「日向さん!!」


「日向さんは、僕の好きな人が誰か大体解ってるんだよね?」


「えっ?……それは」


 日向さんが顔を赤くして、顔を背ける。


「僕は、情けなくないか?」


「だって、僕は、ちゃんと自分の言葉で言った訳じゃ無い、恋ばなでみんなにバレただけ」


「それじゃ、あまりにも格好悪くないかな?」


「お願いだ、日向さん」


 彼女の目を見てはっきり言った。


「……僕にも、格好つけさせてよ」


「夜空君?」


「どうせ解っちゃうなら、ちゃんと告白させて欲しい」


「ちょっと……マジ?」「シー!!静かに。」


「夜空っち、格好つけるのは良いけど、ここには、まだみんないるんだよ?」

 からかうと言うより、少し心配するような遠藤さんの声。


「そうだよ天野、聖女様の話聞いてからでも……」

 谷本が、流石に心配そうに言ってくる。


「それじゃ、遅いんだよ、それに」


「僕がそうしたいんだ」


 その時の僕は少しハイになっていた様な気がする。自棄になっていたのかも知れない。


「即答だね」


 遠藤さんの言葉にあたりがざわつく。


「誰がいたって構わない、誰に何を言われたって変わらない。僕は自分自身の言葉で告白する。だからね、聞いて欲しいんだ」


 手を差し出す、まるで舞踏会でダンスに誘うように。


「ねっ、日向さん」





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