第4話 恋ばなと修学旅行4

(遂に来たか)


 女子達から、田中の名前が出た。それは、あの話がもう女子達の間に回っている証拠だ。


 僕達は、強制連行されて人気の無いラウンジに連れてこられる。


「俺も行こー!!」谷本君いや谷本の奴が、勝手に僕らの後に着いてきた。


 どなどなどーなどーな♪


「ねぇ、何があったのよ?」遠藤さんが、取り囲む女子達の一人に話しかけている。


「それが、凄いの聞いて聞いて!!」「田中が言ってきたんだけど」「そうそう、あのハゲが」「田中がね、あっそういや、あいつ聖女様に告ってふられたって知ってるー?」「うっそ、初聞き、キモッ!!」「ほら昨日の夜みんなで恋ばなしたじゃん」「ねぇ遠藤ちゃんも、あの計画入ってるよね?聖女様恋ばな計画!?」「田中ざまぁ!!」女子は、一人が話し始めると止まらなくなる。


 て言うか田中、お前嫌われてんな。

 後、聖女様恋ばな計画?何?いじめ?日向さん大丈夫?

「ひーとーりー!!ごちゃごちゃして訳解らない」


 遠藤さんが叫んだ。


「あの遠藤さん、さっき言ってた聖女様恋ばな計画とか何?日向さん大丈夫なの?」


 説明する一人を決める為に、話し始めた女子達の隙をついて僕は、遠藤さんに話しかける。


 日向さんの方も、沢山の女子に囲まれて何か聞かれている様な、問い詰められてる様な?別にケンカとか、そんな剣呑な感じは、しないけど、大丈夫かな?


「あぁそれね、まぁ、それは、まだ良いかな?大丈夫、危ない事とかじゃ無いから」遠藤さんは、苦笑いをしながら、はぐらかす。

 話している間に、説明する一人が決まったらしい。

「聞く前に言うけどさ、夜空っちも聞いても大丈夫な話?」


 遠藤さんが聞くと、おっとり美人の近藤さんが、


「うーん、当事者だし、良いんじゃない?田中の話って、天野君の事だもん。ねっ?谷本?」


「あぁ、そうだよ、田中達経由の話」


 谷本、お前は、もうあっちいけ!!


 呪い殺す様な目で、谷本を睨むけど、奴はこちらを見ない振りをしている。


 あいつ、後で覚えとけ!!


「でしょ?それに、天野君、大体もう解ってるって顔してるし、こっちも色々聞きたいしー」

 

 その言葉に、僕の緊張は一気に高まる。やっぱり、それの事だよなー解ってるってより、もう諦めてるって感じだけど。


「んじゃ、話すね」近藤さんが気の抜けた様な声で話し始めた。


「千早ー、こっちの話と田中の話どっちから、話す?」


「そうね、夜空っちもいるし、田中の方からかな?」


「おけー、所でねぇ、おけ丸ってまだ使ってる、お馬鹿いる?」

「ゆうなー、脱線!!」

「わぁ、ごめんねー、しんけん、しんけん」

「今度やったら、八ツ橋5個一気食いだからね」

 遠藤さんの目に冗談が無い。僕は少し恐怖した。

「マジで、ヤる人の目だよ。ねぇねぇ、生八ツ橋だよねー?固いヤツじゃないよねー?」

「6個~~、7個~~!!」

「はいはーい、始めまーーす」近藤さんも懲りないタイプの人なんだな。


「えーっと何から話そうか?まずね、田中がクラスの女子に話しかけて来たんだってー」


「最初、誰が聞いたんだっけー、かおりん?山畑さん?かおりん?多分、その辺」


 適当だなぁ。近藤さんの気の抜けた声が妙にハマる。


「田中が言うには、昨日の夜、田中の班で恋ばなしたんだってー」


 その瞬間、エッと言う顔をして、遠藤さんが、こっちを見る。


 そうなの?と確認を取る様な顔で僕の方を見る。僕は、苦々しい顔をして無言でうなずいた。


「実は、恋ばなって言うのは建前で天野君の本命を確かめる為だったらしいよー」


「エッ、マジで?」つい声が出た。


「あぁ、そうだってさ、田中達が言ってた」谷本が説明してくれた。


 もしかしてお前、その説明の為にいるのか?


 その瞬間、思わず大声を出してしまった。


「あのハゲ!!通りで、自分達は何も話さないと思った!!」


 怒る僕マジマジと見て、遠藤さんがプッと吹き出して笑い始めてしまう。


「アハハ、ごめんごめん。いや、夜空っちでも怒るんだなーって思ったら可笑しくて。ハア、ごめんゆーな、先続けて。」


 ひとしきり笑った後、遠藤さんは、先を促した。


「その後、田中達は、天野君の好きな人を聞き出したみたいだよー」


 あぁ……、胃がキリキリする。


「我々調査班は、遂に突き止めたのです。とか言ってた。田中キモッ」「何それ?田中キモッ」「天野君何で、バレちゃったの?」「ん?解んない」「何か、その子の事ぼーっと考えてて、つい本音が出たみたいだって田中が言ってたぜ?」「キャー何それ、可愛いーじゃん」「田中キモッ」


 僕は、羞恥心で頭を抱えてうずくまり女子達は、また口々にしゃべり始めた。


 あー、穴があったらー、穴があったらー。


「はーい、静まる」


 パンパンと手を叩き遠藤さんが促す。


「で、誰だったわけ?」


 確かに、それは、言っていない。けど、こっちをチラチラ見て、日向さんを見て、まぁバレてるよね?

 ここで言うのは、勘弁してくれー。


「あの遠藤さん、流石にそれは勘弁して貰って良いかな?」


「ごめんね、夜空っち、これは確認しなきゃいけない事だから」


 茶化すでもなく馬鹿にするでもなく。遠藤さんは真面目な顔をしている。


 まぁ、僕が地獄である事は、変わらないけど。


「えー、本人の前で言わなきゃ駄目ー?話の流れ的に解るじゃん?」


 近藤さんが、少し躊躇している。


「うん、駄目」


 遠藤さんの中では、何か譲れない事がある様だ。


「はいはい、解ったわよ、ごめんねー、天野君」


 うわー、マジかー。


「んじゃ言うねー。天野君の好きな人はー」


「待って下さい!!」


 後ろにいたのは、他の女子達から解放された日向さんだった。


「嫌です、聞きたく無いです」


 日向さんは、少し怒っている様だ。


「えー、でもさーひなっちは聞いといた方が良い話だよー、勿体無いよー、ひなっち」


「それでも、嫌です」

 日向さんの勢いに、近藤さんは少したじろんでしまう。


「どうしてひな?あなた昨日の夜言ってたでしょ?」


 言葉少なめに、問い詰める遠藤さん。


 昨日の夜の事って何だ?


「例え、その話が私にとって都合の良い話だったとします」


「でも、その話は夜空君の望んだ事なんですか?」


「誰かに騙されて、馬鹿にされた様に、自分の好きな人を広められて、それで嬉しいのですか?」


「夜空君自身が望んでいない話なんて、私は聞きたく無いです。」


「日向さん……」


 僕は、嬉しかった。


 目の前にいるこの子は、僕の事を考えてくれている。

 僕の事で、本当に怒ってくれている。


 それなのに、流されるだけの僕は……。


「ふーん、ひなは偉いねー、優しいね」


 遠藤さんが目の笑っていない笑顔で言う。


「それでもってズルいわ」


「千早!?いくら千早でも、言って言いと悪い事が!」


「だってさぁひな、もう大体解ってるんでしょ?夜空っちの好きな人って」


「……」


 日向さんは、何も言えずに、ただ黙り込む。どうやら、彼女にはもう僕の好きな人が誰なのか想像出来ている様だ。


「自分は解ってるのに相手には自分の事を教えない、それってズルくない?」


「じゃあ、どうすれば良いの千早?」


「簡単だよ、ひなが自分の好きな人を、夜空っちに言えば良いよ」


「そうすれば、フィフティフィフティ対等だね。

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