第3話 恋ばなと修学旅行3

「まずい何て言えば良いんだ?」


 今になって逃げ腰になる。


「大丈夫ですか?体調が悪いのですか?」


 心配そうにこちらを見る日向さん、今日は直視出来ないなぁ。


「大丈夫、夜空っち?」


「よっ夜空っち?」


 遠藤さんの急なフランクな呼び方に少し戸惑ってしまった。


 日向さんの心配そうな顔。ゴメン体調は全然大丈夫なんだけどさ。

「うん大丈夫。ちょっと食欲無い感じで」


 と言うよりこの先に行くと不味い気がする。

 いや、もう遅いのかも……。


 ただ逃げたい。


 きっとあの話は、みんなに広まっている。


 人の噂の流れは早い。ましてや恋愛話は。

 恋した陰キャ聖女様に恋した愚かなピエロ。


 別に日向さんと、どうこうなりたいなんて思っていなかった。


 ただ日向さんと二人で話し合って冗談を言って笑いあって時々ふとした拍子で手と手が触れたりして……そんな一瞬が楽しくて、愛おしくて……愛おしくて?


 愛おしいかぁそっか、やっぱり僕は彼女に……。


 しょうがないか……きっとあの話は彼女の耳に入るきっと彼女は、ためらった顔をして僕を見るだろう。そして、すまなそうな顔をして言うんだ。


『ごめんなさい』って。


 僕はみんなに笑われて……身の程知らずの陰キャ聖女様の前に撃沈!!

 笑われるだけ笑われて、しばらくすれば、みんな直ぐに忘れるそんな感じ。毬栗達陽キャ達はしばらく、からかって来るだろうな。そして、僕と日向さんとの細やかな関係も終わりを告げる。


 それは三流予言者にでも簡単に予言出来そうな未来だ。


 うっせえヘボノストラダムスどうせ文化祭実行委員を一緒にやっただけの仲なんだよ!!

 ……そっか、どうせ文化祭まえの、昔に戻るだけか……。


 日向さんの顔を見て力無く笑う。


 ごめんね、心配させて。


 それでも、この子の笑顔が遠くからでも見れるなら、きっと大丈夫。


 僕が消える訳じゃ無いんだ。


 少し気が楽になった。


「ごめん、まぁ大丈夫かな?食事行こうか?」僕は、軽く微笑む。


「本当に大丈夫ですか?そうだ、バイキング朝だったら、お粥とかありそうですよね。私探して来ましょうか?」心配そうな日向さん、優しいなぁー。


「ふーん、二人とも仲良いね」

 遠藤さんの声に、日向さんが固まる。


「もう千早!!」


 不満そうな顔をする日向さんを遠藤さんは手で制止する。

「ひなから、話は聞いてたけどさ……」


 急に、遠藤さんの手が僕の頭に伸びて頭に触れる。


「えっ?」


 その手でそのまま僕の髪をささっと整えた。


「えっ?ええっ?」


 狼狽える僕を尻目に遠藤さんは、にやっと笑い。


「ふーん、成る程ね、ねぇ夜空っち身長は?」

「身長?えっ?」


 なんだ一体!?


「し・ん・ちょ・うは?」


「あっ、はいっ。えっ、いくつだろ?前計った時は、172はあったかな?もうちょい伸びたと思うけど」

「じゃあ175位かなぁ?いいじゃん、夜空っち、何かスポーツやってた?」

「何なの一体、小学校までは一応柔道やってたけど、中学は柔道部無かったから止めたんだよね」


 どうせ、大した大会に出た事も無かったから、結構あっさりしたものだった。何故か、指導員の方々から、勿体無いって、ずっと言われてはいたけど。


「それで、勉強やり過ぎて目が悪くなったとか?」


 ははっ、図星過ぎて言い返せない。


「うーん、メガネが、野暮ったいな、コンタクトか、いやスタイリッシュなメガネの方が良いかも、それからー」


「ちょっと、やめて下さい千早!!夜空君に失礼ですよ!!」


 日向さんが、遠藤さんと僕の間にわって入る。ちょっと怒り顔の日向さん、可愛いな。


「ごめんごめん、馬鹿にするつもりは無いよ、えーと後は……」


 半分、日向さんの言う事は無視して、まだ、何か聞こうとする遠藤さん。


「ほらっ千早、もう食堂に着きましたよ」


 妙に慌てている日向さん。両手をバタバタさせて遠藤さんを止めようとしている。


「後で話、良いかな?」ちょっと真面目な顔をして僕に話し掛けてくる遠藤さん。まだ話があるのかな?


 苦笑いをしながら、曖昧に返事をして食堂に入ろうとする。

 まぁ、後があれば良いけど?


 まだ全体での朝食(バイキング)は始まっていなかった。 

 なんだ?この違和感?僕らが食堂に入ったとたん、食堂は急に静かになった。

 嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。

 そんな僕の肩を叩く人が…クラスの情報通、谷本君だった。


「よっお早う!! 勇者様!!」


 おぃ。


 俺は足元ふらつくのを感じた。

「谷本君、いっ、一体どうしたのかな?」


 僕は焦りまくっていた。


「いやー天野、昨日言っちまったみたいだな!!」


 周りを見る。何故か男どもはニヤニヤ笑っている?


「なっ何を?」


 と谷本君に聞こうとしたその時だった。


「キャーー!!天野さん来たーー!!」


 女子達が、日向さんを取り囲む。


「聞いた?聞いた?天野さんも聞いた?」


「あれ?一緒にいるの噂の天野君じゃない?」


「えっ?嘘、天野君も一緒じゃん!?」


 取り囲んだ女子の一人が、僕を見つける。


「みんな、ちょっと!!天野夜空君見つけたよ!!」「両名プラス1確保」「ちょっと、プラス1って、私の事?」「人気ひとけの無い場所に移動!!」「人気の無い場所にみんなで移動」「はい、天野君も来るー!!天野さんも来るー!!」「プラス1名も来るー!!」「ザキヤマもー……」「……言わんのかい!?」「ブルス・ウルトラ、私が来たー!!」「えー、そっち!!」


「うっ、うぇ?」


 いきなり女子に囲まれて、情けなくも逃げ出そうとする僕に女子達は、確保ーー!!と、叫びながら取り囲む。


「田中から、話は聞いたよー」


 取り囲んだ女子の内一人が、逃げようとする僕に最後通告をしてきた。


「ここじゃ、人目につくからー他の場所に移動するよー」


 クラスの少しハデ目な美人の近藤さんが、にこやかに笑う。


 この子も日向さんの友達、近藤夕凪こんどうゆうなさん、まさに類は友を呼ぶ。


 クラスの男子達が言うには、少しギャルっぽいけど、ふくよかな胸部が、聖女様に無い物を感じると大好評らしい?


「ちょっ、ちょっと、待って……」


 その逆らいがたい雰囲気に何も言えなくなる。


 女子達が僕を見て、にっこり笑う。


 何故か、余計に怖かった。



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