第2話 恋ばなと修学旅行2

 余りきつくはありませんが、いじめ的表現が有りますので苦手な方はご注意下さい。


 ーーーーー


「で、天野夜空お前の好きな奴って誰だよ?」




 風呂から出て、まったりする時間もなく陽キャ達の枕投げに巻き込まれて酷い目に合う。

「へい、へい!!」「枕行くぞー!!」「野球部なめんなー!!」「うるせー元野球部」「おっと悪いメガネー!!」「ひやっはーわざとらしー!!」思い切り投げた枕が僕の方に飛んで来る。ボフッと音を立てて後頭部に当たった。

「天野夜空、投げ返しても良いんだぜー!!」「倍にして返すくせになー」「……」「何だよそこは倍返しだ!!だろ!?」


 その後、先生の見回りでやっと静かになったと思っていたら、

「なーなー、お前らって好きな奴いるの?」

 思春期の男子中学生が数人集まれば、もちろん始まる、恋愛話お前ら好きな奴いるの?つまりは『恋ばな』それは最初、陽キャ達だけで始まった。


「YO-YO田中YO田中お前は誰よ誰好きよ?」「何で俺が最初なんだよ!!バッカ、言うわけねーじゃん!!」「何だよ、じゃあお前は?」「お前や田中が言わなきゃ言わねぇーよ」「けっチキンどもが!!」「チキンはケンチャッキーが上手いよなー」「うるせぇ!!話をすり替えるな!!それと俺はモヌチキン派だ!!」


 あーもう五月蝿い。後、何だよ最初のあの下手なラップ?


 離れた所で本を読んでいた僕の所に枕と火の粉こいばなが降りかかって来た。


 で、最初に戻る。


「で、天野夜空お前の好きな奴って誰だよ?」


 うわぁ面倒臭いの来たなー。こんなのにイチイチ付き合ってたら身が持たないよ、という訳で何とか逃げようとする。


「本を読んでいるんだ僕の事なんかほおっておいて、みんなで楽しく話してくれないか?」


 努めて控え目に努めて大人しく。


「おぅそうだ、だから楽しく話そうじゃないか?みんなでさ、なぁ天野夜空」


 僕の事なんか~の所が抜けてるな。


「いや僕の事は無視して話せば良いだろ?」


「ふーん、で誰だ?」


 相変わらず話が通じないな。誰か翻訳機をお願いしたい。


「だから別に好きな子なんて……」


「いないってのは無しな!!」


 この毬栗頭田中自分は言わなかったくせに!!


「別によー気になる子でも良いんだぜー。最近、良くしゃべる子とか一緒に文化祭実行委員をやった子とかさー学校帰りにアイス買って一緒に食べた子とかー!」


「いや、それは……」


 このハゲ(毬栗頭)やけに具体的に言いやがって。って放課後に日向さんとアイス食べてたの見られてたの?


「そういや最近聖女様と良くお話ししてるよなぁ天野夜空」


「……聖女様なんて言うな」


 ボソッと言う。


「何か言ったか?天野夜空!!」


「文化祭実行委員は、とっくに終わったのになぁ天野夜空何で聖女様と仲が良いのよ」


「まさか、お前付き合ってるとか無いよなメガネ夜空」


 別の陽キャ達も言い出した。こいつら確信犯か?


「そんなわけ無いだろ?僕と日向さんとは……」


「日向さん!?」僕の日向さん呼びにどよめく陽キャ達。


「って前から思ってたが、てめえは何で聖女様を名前呼びなんだよ?!」


「いや僕ら名字が同じだから……」


「同じだからなんだ!!夫婦気取りか?調子にのってんじゃねぇ!!」「同じなら呼んで良いのか?調子にのってんじゃねぇ!!」「同じなら呼んで良いのか?今から名字変えてくるわ」あーもう五月蝿い五月蝿い。


 深くため息一つ。


「別に付き合ってなんか無いよ。考えても見てよ釣り合わないよ僕と彼女じゃ」


 言ってて嫌になるが事実だ。


 誰にも優しい聖女様と仲間を作りたがらない陰キャ。


 誰がどう見たって…。


「そりゃそうだろ?」「誰も思ってねえよ」「頭が高いわ」


 解ってはいるけど、言われるとムカつく。


 口に出さずに布団の中で拳を握りしめた。


「ほっとけよ!!」俺は布団に寝転がった。


「でもお前あれだけ聖女様と話してて何とも思わないのか?」「かっわいいよなぁ聖女様」「もう何人にも告られてるんだろ?」「で、みんな玉砕」「なっ田中!!」「なっ田中!!」「五月蝿いほっとけよ!!って今、天野夜空笑ったろ!?」 田中、告ったのか!?すげえな、でもざまぁ。


「なぁお前さぁ話してて何とも思わ無いの?」


 天野日向あまのひなたさん……。


「日向さんは、そりゃ可愛いし優しいし話してて楽しいし…」


 頭の中で彼女を思い浮かべる。初めてかもしれない女の子の友達。その優しい笑顔。みんなは知らない文化祭の準備期間に僕にだけに見せた泣き顔。それにアイスを買う時選ぶ時の真剣な顔。


 僕だけの思い出。


 自然と口から出ていた。呟く様に驚くほど自然に。


「良いよなー……そりゃ好きだなって思う事も在るけどさ」


 言えないけど……。


「……あっ!!」


 思っている事と、しゃべっている事が逆さになった!!


 陽キャ達がニヤァとイヤらしく笑った。


「イッヒッヒ聞いたぞ天野夜空ー」「あれー言っちまったなぁ天野夜空」「好き好き聖女様ー!!ってか?」


 おいっ最後のは言ってねぇ!!


 自分の耳が赤くなっていく音を聞いた、なんて歌の歌詞にありそうな事を考えながら耳だけじゃなく顔を赤くさせる。


「YO-YO勇者に乾杯!!勇者夜空に乾杯!!」「ぼーっとした顔したと思ったら、ついに口を滑らせたな?」「でも流石に聖女様は無理だろ」「つーか勘違い野郎に乾杯!!」「好きだなって思う事もあるけどさ……だってよ!!」


 ギャハハと勝手に盛り上がる。ラップうるせぇ!!


 うっせぇ、うっせぇボケがぁ!!声にならない声で叫ぶ。あまりにも迂闊!!よりによって、こいつらの前で。


「お前ら!!何時まで騒いどるか!?消灯時間はとっくに過ぎているぞ!!」


 見廻りの先生2号の大声が無かったらもっと酷い目にあっていたかも知れない。今以上は想像つかないけど。


 もういい布団を被って寝てしまおう。


「明日がたのし……だぜ」


 毬栗が何か言っているけど良く聞こえない。もう知らない。自分の迂闊さと恥ずかしさで、頭が回らない。そうして、しばらく布団を被っている内に、いつの間にか僕は眠ってしまっていた様だ。



 朝起きると、もう陽キャ達はいなかった。もう朝だ!!ヤバッ慌てて起き上がり着替える。

 駆け足で食堂へ向かう途中。見知ったオレンジブラウンの髪を見掛ける。

「あっ!!お早うございます夜空君!!」


 日向さんが今日も元気に手を降ってくる。

「おっお早う」 


 うおぅ昨日の今日でマトモに顔が見られない。


「おはや」


 隣でアクビをしているのが日向さんの友人で幼馴染みの遠藤千早えんどうちはやさん。

 黒髪のショートカットで少し大人っぽい綺麗な子、ちょっとミステリアスな感じが人気があるらしい。


 そして日向さん曰く凄くお節介らしい、あまり話した事は無いけど凄く友達想いなのは解る。

 

 でも昨日の話は広まる前に言っておかないと!!そう、広まる前に……でも何て言えば良いんだ?


 田中達の陰謀で『きみの事が好きなのがバレてしまった?』だから?


 いやいや、それは無いだろー!!

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