恋ばなしようか?夜空君

まちゅ~@英雄属性

第1話 恋ばなと修学旅行1

 中学三年最大のイベントの内の一つ修学旅行。旅行だけならいくらでも行けるかも知れないけど、同級生との旅行はあって年に1~2回。例え陰キャメガネな僕、天野夜空あまのよぞらも柄にもなく多少はテンションが上がっていた。


 例え行く場所が大定番の京都奈良だとしても例え旅行の班がくじ引きで決まって、普段話すこともない陽キャ集団の班に決まり無理やり班長にされたとしても、例え班の陽キャ達が駄々をこね色々引きずり回されたとしても……だ。


「はぁ疲れた……」


 移動のバスの中、ため息をつきながら、メガネを直す。

 1日目の奈良公園、鹿に鹿せんべい以外のエサを与えては駄目だと散々注意されていたのに陽キャ達は持ってきたポテチやチョコを与えようとして先生にお説教。

 連帯責任で僕まで怒られる。


「班長の天野夜空が鹿が草食で木葉や木の実とかが主食って言うから俺達可哀想だなって思ってーおやつをあげましたー」

 陽キャの一人、伸びかけた毬栗いがぐり頭にニキビ面が印象的な野球部の田中君(いや3年は引退だから元野球部か?)が僕を見て頭の悪そうな事をニヒヒと笑って先生に言う。他の班員もそうだそうだと口々に。

「本当か天野?」

「はぁ田中達に鹿は何を食べるのか聞かれましたから……」先生に睨まれ渋々うなずく。


「まぁ天野も別に変な事言ったわけじゃないが天野も止めるとか出来なかったのか?」


「すみません、だから先生を呼びに行ったんですが」


 叱られながら心の中で『いや無理だろ』と小さくため息をつく。


 ほぼ普段話もしない陽キャ集団にどちらかと言えば陰キャガリ勉メガネな僕が何を言った所で考え方を変える訳がない。

 何とか鹿にチョコを食べさせると言う暴挙だけは阻止できたのだから良しとして欲しい。


 実際止めようとした僕の言葉に余計に面白がっていた気がする。


 悪びれるそぶりも見せない陽キャ達に少しイラッとした。


 結局は連帯責任で管理をしている方達に班全員で謝りに行く事になった。モチロン僕も。


 とまぁ、なんだかんだあって1日目の夜先ほどのぼやきにつながる……。


 平城京跡、興福寺等々行く先行く先で揉め事を起こす陽キャ達に振り回され最後は、先生達にさえ「お前も大変だな」と言われる始末。(なら何とかしてくれよ)


 僕は全体での食事の後、陽キャ達がいる部屋にも戻る気もせず、ラウンジのソファーで缶コーヒー(練乳入り爆甘)を飲みこうべを垂れる。


 あぁ無情って感じだ。


「大丈夫ですか夜空君?疲れた顔してますよ?」その声は、甘い匂いと共にやって来た。

 ミルクに蜂蜜を混ぜたハニーミルクの様な心の安らぐ匂い。


 つい嬉しくなって、からかいたくなった。


「誰かと思えば聖女様がハニーミルクの香りと共にやって来た」


 顔を上げた僕の目に写ったのはオレンジブラウンの風、何度か触れた事があるサラサラ美しくて長い波。


「もう、またそんな事を言うんですから」


 ちょっとすねた様な声女の子特有の落ち着いた甘くて優しく染み渡る。

 少し心配をかけてしまったのだろうか?

 その声には労りを感じる。


 以前、君の声は聞く胃薬だねと感謝とからかいを込めていったらちょっとすねた顔をして『それって褒め言葉ですか?何かバカにしてません?でも夜空君が元気になれたなら嬉しいです』


 と言われ、ドキッとした。


 そして本気で何故あの時、音声を録音しておかなかったのかと後悔した記憶がある。

 まるで癒しのヒーリングソングだな。


「コーヒーは美味しいですか?」


「まぁね、飲む?」


 缶コーヒーはまだほとんど飲んでない。


「苦いのは苦手です」


 ちょっとすねた顔をする彼女、


「練乳入ったマニア向けだけど、コアなファンがいる凄く甘いコーヒーだよ」

 正確には英語で最大と書かれた黄色い缶のコーヒーだけど。


「凄く甘い?……へー何となく凄いですね?あの……少し欲しいのですけど良いですか?」少しはにかむ様に笑う聖女様。勿論と彼女に黄色い缶を差し出すと日向さんは嬉しそうに僕の手から缶コーヒーを受けとる。小さくて細くて繊細な指先。

「熱いよ気をつけて」

 そして受け取った缶コーヒーを躊躇うこと無く数口その小さな可愛らしい口で飲む。

 間接キスだ!!などと囃し立てる事なんて、そんな無粋な事はしない。もう何度か同じ様な事はあった。最初は狼狽えていたけど少しは慣れたものだ。


 友達だもんな。


 飲んだ後ちょっとびっくりした顔をして、でも小さなピンク色の舌を出して「凄く甘いですね!!でも……やっぱりちょっと苦いです」


 僕らは笑った。彼女は、缶コーヒーを返すとソファーの僕の隣に座った。


 

 改めて隣の少女を見る。

 そこにいたのは中学生特有の子供っぽさと少し思春期を過ぎて、ほんの少しだけの大人っぽさ手に入れた美少女がいた。


 僕はアイドルや芸能人なんて良く知らない。でも彼女は、きっと美男美女だらけのアイドルや俳優なんて目になら無い位、綺麗で可憐だ。


 多分、校内一の美少女。


 その声、笑顔でみんなを癒してくれる。彼女は、いつの間にか聖女様と呼ばれていた。


 僕が言うと怒るけど。


 僕は渡された缶コーヒーの飲み口を眺め、少し躊躇しつつも一口飲んだ。


 甘いな。


「もしかして心配してくれた?」


「ほんの少しだけですよ」


 どうも彼女から心配されるほど情けない顔をしていたようだ。


 彼女の名前は、天野日向あまのひなた。僕と偶然同じ名字を持つ少女。

 オレンジブラウンの髪ほんの少しタレ気味な大きくて二重の目の色は青みがかっている。

 おばあちゃんが外国の方らしい。

 クォーターに当たるのだろうか?


「日向さんは心配性だな」苦笑すると、


「夜空君が心配させるからです」

 そう言って少し膨れっ面になって真っ白な肌がぷくりと膨れる、可愛い。

 欠点は多少寂しげな胸元(クラスの情報通の谷本君いわく、ありゃあBだな)と平均よりやや低めな身長位だろう。

 別に僕が谷本君に聞いた訳じゃない。

 聞いたのは別の奴だ僕は聞こえてしまっただけだ。(ここが大事な所)


 後、数学が苦手お婆さんの影響で英語はペラペラらしい。


 この辺は本人に聞いた話だ。


 彼女とは二年の文化祭でお互いに実行委員になって以来、多少縁があった。僕らが名前呼びなのもその時に親しくなった経緯と偶然同じ名字だったせいだ。


『同じ名字で名字呼びだと、ごちゃごちゃしませんか?』と苦笑いする彼女の提案で。


 まぁ、それ以来陽キャ達の僕に対する風当たりと彼らの僕の名字名前全読みは、この名前呼びに対する当て付けなんだろうな?とは思ってはいる。


 お前みたいな陰キャがって奴だ。


「班行動、大変だったみたいですね。夜空君のメンバーみんな体育会系ですものね」


 からかい半分だけど、ちょっと心配そうな日向さん。


「ほっといて」


 ムッとした顔をしながらも笑う僕。


「みんな元気だから着いてくのがやっとだよ」


 腰をトントンと叩く。


「また、おじいちゃんみたいな事言ってますね」


「若いモンには、まぁだまぁだ負けんよ」


 彼女のからかいに冗談で返す。


 2人で顔を見合わせて笑った。

 うん笑顔超絶可愛い癒しだ。


 人もいないラウンジで、つまらない話旅行の話などをする。


「バス酔わなかった?」「うん何とか。教えてもらった酔い止めが良く効きました」「うん良く寝てたもんね」「えっ見てたんですか!?」「アハハまぁちょっと」「えっち」「えーっ」


「前髪長いから切ったらどうです?」「えー面倒臭いな」「普通、旅行前に髪を切りに行きません?」「オカンかよ。まぁウチまだ母さんに切ってもらっているからなー」「夜空君は、もう少しオシャレとか気にした方が良いと思いますよ。お母さまお上手だとは思いますが、そうすれば結構格好…いえ何でもありません」


「メガネ度が合わなくなって来たんだよね」「また勉強のしすぎですか?程々にした方が……」「メガネ変えようかな?」

「それが良いです!!最近メガネも格好良いの多いですよ。そうすれば、もっと格好良く……いえ何でもありません」さっきから、何を言ってるのか?


「日向さん鹿って怖く無い?」「解ります!鹿せんべい持ったとたんに急に迫って

来ますよね」「あの?私が襲われてたら助けてくれます?」「うんガタガタ震えながら、今助けるからなーって」「あはは」「格好悪いね」「そんな事、夜空君は優しくていつも一生懸命で格好良い……いえ何でもありません」


 さっきまでダルそうだった事も忘れてしばらく話し続けた。楽しい時間は本当に過ぎるのが早い。


 ☆☆☆


「ひなーお風呂の時間だよー」


 向こうで日向さんを呼ぶ声がする。結構話していた様だ。時計は8時を回っていた。


 僕は日向さんに目配せをする。彼女は少し残念そうな顔をしながら友達の方を向いた。


「はい今行きます!!」

 日向さんは呼んでいる友達に軽く手を振って挨拶をした。


「では、また」


 彼女は笑顔で友達の方に歩いていく。帰り際に僕に小さく手を振って。



「ひな、あれ天野君でしょう?同じ名字の天野夜空」「えっ?ええ、そうですね」「あら真っ赤、ひなは天野君と良くしゃべってるよね?」「そっ、そうですか?」「夜空っちかぁもしかして……付き合ってる?」「違います!!」


 通り過ぎていく背中遠ざかって行く声。


 そんな事あるわけ無いじゃん僕なんかと……。


 再び口をつけた缶コーヒーはすっかり冷めてしまっていた。




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