第7話 恋ばなと修学旅行7

「はい夜空君、トーストとミルク、サラダにフルーツです。後、鉄分を取るためにシリアルもどうぞ」

 ワンプレートの上に色鮮やかな食材が彩り、僕の脳から現実感を無くしていく。

「良いのかな?これ」

 あぁ、美味しそうだとか言う単純な思考と、目の前の美小女が僕の為に持ってきてくれたと言う非現実感で、脳の容量がパンクしそうだった。


 あの後、食堂に戻った僕達は、遅いと先生に怒られつつ、この現状。


 終わりに、先生からの『お前達、一体何があったんだ?』と言う一言に、僕らは顔を赤くして『別に……』と言う事しか出来なかった。


 僕は日向さん達と同じ机に連れ込まれ、椅子に座ったまま据え膳下げ膳、日向さんが僕の分まで用意してくれて……。周りの男子の目が痛くてー、周りの女子の目が生ぬるくてー。

 だってさ、本当に動かせてくれないんだよ?


 何度も自分でやるよって言るんだけど、柔らかく笑顔で否定されてしまう。


 遠藤さん達も、面白がって日向さんを煽るから、たちが悪い。まさに火に油。


 日向さんの目がキラキラ輝いてて、もう反論が出来ない状態。


「パンだと、お腹がすくと思いますから、おにぎりも、持ってきました」


 小さな小皿に2つの可愛いおにぎりを持って日向さんが声を弾ませて持ってくる。ノリノリだな。

 

 その時、近藤さんの目が光る。

「ねぇ天野君、ちょっとメガネ貸してー」


 近藤さんが、急に僕から、メガネを奪い取る。そして、そのメガネを自分にはめ。


「あれれ?オカシイゾ?ねぇねぇ日向姉ちゃん、おにぎりなんてあったー?」


 某メガネ少年探偵の声真似をする。あれれは子供っぽく、オカシイゾは大人っぽく、クオリティ高い、つい僕は吹き出してしまった。


「アハハ、上手いね近藤さん、そっくりで、びっくりしたよ」


 笑う僕に、近藤さんが笑いながら。


「ニヒヒ上手いでしょ?ありがと、天野君…うーん、せっかくだからー私も、よっ君て呼んで良い?、勝手に呼ぶけど」


 流石、近藤さん、有無を言わさぬ話の流れにタジタジになってしまう。


「ねぇよっ君、君この野暮ったいメガネ止めた方が格好良いよー」


 近藤さんが、奪い取ったメガネを、どうぞと、僕に掛けてくれた。


「よっ君?」


 遠藤さんと良い近藤さんと良い、距離感が近すぎるよ。


 あれ?どうしたんだろ?急に悪寒が…。

 ゆーっくり振り替えると、後ろには日向さん。

 満面の笑顔なのに、目が笑っていない。

「よっ君ですか?夜空君、素敵な愛称を頂きましたね」


 その後、小さな声で、


「でも夕凪ゆうなあなたは、少し距離を縮めるのが早く無いでしょうか?メガネの件といい、ズルいです。私もまだ、掛けた事無いのに、間接メガネ、私もまだなのに!!大体私もまだ、夜空君なのに。よっ君って!!でも……愛称良いですよね、私も何か、素敵な愛称で呼んでさし上げたら……?」


「よっ君、何か違う気がします。夜空っち、これもちょっと、夜空様?ちょっと良いかも?ご主人様!?最高です!!…でも、流石に、ちょっと早い気がしますね。では他には夜空きゅんとか…夜空きゅん!?新しいかも?」


「日向さん落ち着いて!何か凄い事言ってるよ!!それと、夜空きゅんは勘弁して!!」


 ブツブツ何か話している日向さんに危険を感じてフォローしようとする。


「ひな!!落ち着け!!」


 遠藤さんが、ブツブツ言う日向さんの後頭部に、軽くチョップを入れる。


「はわっ、千早酷いです」


 日向さんは、後頭部を押さえ遠藤さんに抗議する。

 良かった、やっと正気を取り戻したのか?


「それと、ゆーな、ひなが妬いてる、あんたは、距離感が近いんだから!!」


「ごめーん、ひなっち、これは違くて」

 むくれる日向さんに、平謝りする近藤さん。

「ひな、夜空君が見てるよ、おにぎりどうしたの?」

 流石遠藤さん、日向さんの長年友達してないな。


「あっそうでした、あのホテルの方に頼んで少しご飯を頂いて作って見ました」


 空気がフワッとした感じに変わり、遠藤さんを始め、僕らもやっとホッとする。


 うん、少し気をつけた方が良さそうだな。


「えっ?凄っ、これ日向さんの手作りなの?」


「あっはい一応、でもまぁおにぎりなので」


 もじもじしながら、恥ずかしそうにする日向さん。何、この可愛い生き物。


「日向さんの手作りのおにぎりが食べられるなんて凄いな。」


「そんな、あの……エヘヘ。」


「一つ頂いても良い?」


「もちろん!!こちらが昆布とこちらが梅。2つとも夜空君の為に作って来たんですから」


「じゃあ」


 おにぎりの内、梅と言われた方のおにぎりを手に取る。食べようとすると、背後から、異様な気配を感じる。


「天野さんのおにぎりー!」「何で、天野ばかりーって、ややこしいな、じゃあ天野夜空ばかりー」「残った方貰えないかな?」「貴様、男としてのプライドも捨てたのか!?」「プライドを捨てれば、あれを食べられるなら、そんな物ドブにでも捨ててやるわ」「まぁ、捨てても無理だと思うけどな」「では、あのおにぎりと同じ重さの金と交換で!!」「では私は、同じ重さのダイヤと交換で!!」


 まったく、うちのクラスの男子は馬鹿ばかりか!?


 右手に梅のおにぎりを持ちつつ、空いた左手で昆布のおにぎりも掴む!!


 これは、あげません!!


 男子達の絶望の声が響く中、一口ずつ交互におにぎりを食べる!!うめーっ!!僕は味を噛み締める。生涯初めて出来た彼女の、しかも憧れていた日向さんの作ってくれたおにぎり、一粒だって貴様らには、やらん!!


 そう、日向さんは僕の恋人になった。


 僕達天野夜空と天野日向さんはついさっきからお付き合い、つまり、彼氏彼女の関係になったのだ。


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